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ー5−

 ぬいぐるみの事があってから、慎也はタイムリープをすることをそれほど恐れなくなった。

 彼は何度かの経験から、自分のタイムリープの特徴を掴んだ。

 まず、基本的に頭に想い浮かべた時へ移動できるようだった。

 しかし、未来へはいけなかった。でも、それは当然かもしれない。未来は誰も見たことが無いのだから。

 慎也に、確実な未来を思い浮かべることはできない以上、未来にはいけなかった。

 しかし、過去ならば、それが慎也の見たことのある時間でなくとも行くことができた。

 例えば、何かの写真に映っている時代。また、絵画でもよかった。そういったものが映っている時代にいくことができた。

 また、さらに、モノを思い浮かべれば、それのあった時代にいくこともできた。

 極端な話、銅鐸を見れば古墳時代に、十二単を見れば平安時代に行くことも可能だった。

 おお、すごいなあ。慎也は素直にそう思った。

 多少歴史に興味を持つ慎也は、これなら歴史の謎を自分が解くこともできるじゃないかと思った。

 例えば、アメリカのケネディ大統領暗殺事件の真相とか、源義経はほんとにモンゴルに渡ったのかとか?徳川埋蔵金の在処とか?

 だんだんテレビのワイドショーネタになってくるような気がするが、そういうことが現地で見られるかもしれないのだ。しかし……

「ま、いっか」

 慎也は、ひとまず、その興味を脇に置いておいた。それよりも、身近にいろいろ興味があったからだ。

 例えば、間近に迫った定期考査。

 未来に飛ぶことは出来ないが、受けた後に過去に戻ることは出きる。

 ということは、テスト問題もすでに知っていると言うことだから、楽勝じゃん!

 と考えてから、いや、だめだ、だめだ。おんなじ問題を二度も解くなんて、やってられるかよ。と慎也は思った。

 それなら、一発勝負の方がいい。男は黙って、一発勝負だ。などと考えた。

 また、クラブの試合(慎也は剣道部なのだが)で、相手の戦法を確かめてから、もう一度闘うという手もある。

 試合は好きだから、何度でも闘うのはいいが、しかしこれも、やっぱり自分の実力で勝った気がしないような気がして、結局却下した。

 そんなこんなで、慎也の出した答えとしては、みゆきにしたように自分以外のために使うか、知らなかった時代の散策をするーーそれこそ、ちょっとした旅行者気分でーーに使うという結論になった。



「さて、どうすっかなあ?」

 慎也は昔のことを思い出すきっかけになるかな?と思って、中学校の卒業アルバムを眺めていた。

 写っているクラスメートの顔に、中学時代のバカな思い出が蘇る。

 できればそれを無かったことにしに行きたいような気もするが、なんとか思いとどまった。

「あれ?そういえば……」

 慎也はそこで違和感を覚えた。

 クラスの集合写真。そこに、見覚えのある顔が一人見つからなかった。

 みゆきの姿が映っていない。

 確か、同じクラスだったよな?

 慎也は記憶を手繰ってみる。そこに、中学のセーラー服姿のみゆきが浮かぶ。

 変だなと思って、他のクラスの集合写真も見てみるが、そこにも、みゆきは見あたらない。

 あれ?みゆき、どうして写ってねえんだ?

 もしかして、風邪で休みだったのか?ドジだな、あいつ。普段は、冷静なくせして、時々ひどく間抜けだから……。

 そう思う慎也の脳裏に、初めてみゆきと出会ったときの泣き顔の彼女の表情が浮かぶ。それは、鮮やかな記憶だった。

「しゃあねえなあ」

 クラス写真にも写れないなんて、この時のみゆきも落ち込んでたんじゃないか?

 と思って、慎也はあることを決心した。

 よし、俺が連れてきてやろう。



 季節はもうすぐ冬。

 街路樹が綺麗に紅葉して、季節の変わり目を美しく飾っている。

「しまったなあ。服変えてくればよかった」

 慎也は半袖姿の自分の腕をさすって、少し暖をとる。

 みゆきが病気ならば、さらに遡って注意してやろうと思い、その道をみゆきの家へと急いだ。

 みゆきの家のチャイムを押した。

「は〜い。どなた?」

 そういって、みゆきのお母さんが玄関を開ける。慎也はちょっと緊張した。

「あら、慎くん。どうしたの?とおるならまだ帰ってないわよ」

 透は、みゆきの弟で、2年下だ。

「いえ。おばさん。透に用じゃなくて、あの、みゆき、具合どうですか?」

「え?」

 慎也がそういうと、おばさんは、困った顔をした。

「えっと、誰のことをいってるの?」

 そう聞いてきた。

「誰って、みゆきです……」

「みゆき?慎ちゃん、それ、どこのお嬢さんのこと?うちには、娘はいないけど……」

 え?

 慎也は、その言葉に固まった。

 娘がいない?そんな……どういう……?

 おばさんが笑いながらいった。

「慎ちゃん、いい人出来たのかしら?そんな勘違いしちゃうなんて、恋煩い?」

「あ、す、すみません」

 慎也はそういうと、急いで、その場を離れた。

 一体、どういうことなんだ?みゆきがいない?

 俺、どこに来たんだろう?もしかしたら、ずっと昔に来ちゃったのか?

 ……いや、ありえねえ。おばさんは、俺の知ってるおばさんだったぞ。

 もしかして、別の世界とかあるのか?みゆきのいない世界。パラレルワールド。

 いつの間にか、そんな異空間に移動しちまったのかも。そうなのか?

 う〜ん。どうしよう?ここは、とりあえず……戻るか。

 慎也はそう考えると、自分の時間に戻るために、タイムリープした。



 翌日、教室で慎也はみゆきに尋ねた。

「おまえさあ。中学の卒業写真に写ってないだろ」

「え?」

 みゆきは少しびっくりした表情。

「病気だったんだっけ?」

 慎也の質問に少し焦ったように少女は答えた。

「え?えっと、どうだったかなあ?ちゃんと覚えてないけど……そうだったかもね」

「ドジなやつだなあ」

「そ、そうだね」

 あれ?

 みゆきの慌てぶりを見て、慎也の心に、少し違和感がわき上がった。

 昨日の記憶が蘇る。言葉が口をついて出た。

「みゆき、おまえさ、中学、いたよな?」

「え?」

 少女の驚いた顔。それから、

「いたに、決まってるじゃん」

 叫ぶようにいった。

 慎也の疑念がさらに深まった。少女が言葉を重ねる。

「慎也だって、知ってるでしょ。一緒に中学行ってたじゃない」

 そういわれると、慎也もそんな気がした。

 中学のセーラー服のみゆきの姿。それは、浮かぶ。ただ、彼女と過ごした記憶が曖昧だった。具体的な記憶が思い出せない。

 あれ?こいつクラスのどこに座ってたっけ?クラブは?遠足は?修学旅行は?

 そう思って、慎也が首をひねっていると、みゆきの見つめる瞳に気づいた。

「慎也。どうしたの?」

 その声が、少し震えているように聞こえた。慎也は、考えがまとまらないまま、

「なんでもない」

 と一言告げて、席に戻った。

 

 

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