後日談
《コロン》
僕達は生きる土地を固定しない種族だ。
環境の変化に合わせて少しずつ世界中を移動し、その場に合わせた生活スタイルを作っている。
その中で僕だけが、この大陸からの移動に取り残されて、一人で生きることになった。
僕自身は、ニンゲンに直接会ったことは、たぶん一度もない。
けれど、『僕達』は何度も会ったことがあるから、ニンゲンの顔は知ってる。
そんなようなことを聞かれたから話したけれど、たぶん半分くらいしか理解されていなかった。なんでかな。
でも僕の仲間を探したい気持ちにはすごく共感してくれたみたいで、家族を探すために一緒に旅しないか、と言ってくれた。
ここには食料がほとんどない。
まだ雪の中に埋まった木の実などを掘り出して食べ繋ぐことができたけど、これからさらに寒さが増し、それも厳しくなる。
そんな中、たまたま出会ったニンゲン達が僕を助けてくれただけじゃなく、別の大陸にまで連れて行ってくれるという。
これほどありがたいことはない。僕は二つ返事で、その誘いを受けた。
◇
皆の故郷であるというその土地に、僕は初めて上陸した。
樹海に、草原、荒野、野営地、そして街。どれをとっても、見たことのない場所ばかりだ。
僕達の種族が知らない場所というのは、本当に珍しい。
ミディールという街で本格的な手当てを受け、僕の体は回復した。
皆が一緒に暮らす建物で、今後の話を聞いた。
お兄さんにとっての大切なニンゲンと、白い女の子にとっての家族と、そして僕にとっての仲間を探してくれるため、あの雪の世界から南へ向けて探索を続けるという。
しかし、それは無理だと思った。
僕の記憶では、あの雪の大陸には雪しかなく、他の大陸に渡るには西側の岩礁を中継しながら南へ泳いでいくしかない。
それは、きっとニンゲンには難しいことだから、この土地から直接西に行った方が同じ場所に着くのではないか。そう言ったのだが、お兄さんは難しい顔をした。
「西、砂、魔獣、危険」
白い女の子が説明してくれたが、僕にはそれらの単語が断片的に理解できただけだった。
ただ、危険という単語を聞いて、少しだけ恐怖を感じる。
このニンゲンたちと一緒に、危ない場所へ行くことになるのだろうか。
いや、と僕は思いなおす。
そうであっても、僕はついていくだろう。
ニンゲンという種族を信用しているわけではないが、少なくともこのニンゲンたちは信頼することに決めている。
助けてくれたし、手当てをしてくれた。一緒にあの化け物だって倒すことができた。
それにその場所へ行くのは僕のためでもあるのだ。
何より、言葉の通じたお姉さんが見せてくれた、あの表情。
――そんなことはしない。
言葉はわからない。でも、心は伝わった。
あの時から、僕はこのニンゲンについて行ってみようと決めたんだ。
◇
ところで、個体としての僕は、『コロン』と呼ばれることになったらしい。
あの白の大陸を皆で離れる直前、名残惜しむようにもう一度振り出した雪を受けて、唐突にそう決まったのだ。
皆と同じように雪を手に受けて、僕は「雪だ」と言ったつもりだったのだけれど、ニンゲンの耳にはそうは聴こえなかったみたいだ。




