遭遇
《クローネ・アイリス》
その男、ユーロは、いつも突然にやって来る。
「おっす、クローネ。今日は北の洞窟に行こう」
「え、ユ、ユーロくん?」
いつものようにココアを飲んでいたクローネの元に、その日も唐突に現れた。
「い、いつも急すぎるの! 一週間も私のこと放ったらかしたと思ったら、今度は何ですか! 北?!」
「落ち着け、敬語か何なのかよくわからなくなってるぞ」
実際、そろそろ敬語はやめようと思っているのだが、どうも普通に喋ろうとすると慣れない。って、そんなことではなくて。
「一週間、何してたの……ですか」
「どっちかというと、敬語なしで喋ってくれたほうが嬉しいかなって」
「何してたの!」
「ちょっと適当にぶらぶらしてただけだよ。それで面白い洞窟を見つけたから、クローネと行ってみようかなと」
「なんで最初から私も誘ってくれないの! ずっと待ってるのに! 都合の良いときだけ便利屋扱いして……いや、便利屋みたいにでも思ってくれるのは嬉しいけど……」
「ん、何だって? 最後よく聞こえなかったんだけど」
「も、もういいよ! 北の洞窟ね! 行くなら早く行くよ!」
カッとココアを飲み干し、勢い良く立ち上がって店を出る。ユーロが戸惑った顔で追いかけてくるのが見えた。
◇
「でも、なんで洞窟なの?」
以前、実を発見した森はミディールの西に位置していた。今度は北の門から出発し、低い草の茂る荒れた大地を歩いている。左手には延々とがけのような岸壁がそびえ立っており、おそらくこの岸壁のどこかに洞窟があるのだろうと思う。
「いや、なんか光ってるんだよな」
そう、ユーロ・クレセントの固有スキルは、【価値のある物が光って見える】能力なのだった。もちろん本当に光を放つわけではなく、なんだか異彩を放って感じるだけだという。
「洞窟の何が光ってるの?」
「うーん、何が、というか、全体が」
「全体?」
よくわからない。
いや、元々ユーロのスキルはよくわからないのだが。価値がわかるといっても、一体何に対して役に立つのかすらもわからないせいで、前にお邪魔したユーロの家には用途不明のガラクタが散乱していた。
しかし今回はそれに輪をかけてわからない。洞窟が役に立つ? 洞窟自体が?
「ちょっと、見てみないと何も言えないなぁ……」
「まあそうだよな、――っ! 止まれクローネ!」
ユーロが突然何かに反応して、右手でクローネを制した。
「レムードだ。気をつけろ」
見ると、確かに数十歩先のあたりに複数の魔獣の姿が見える。レムード。黒い毛皮に覆われた四速歩行の野獣で、鋭い牙を持つ。動きも素早く、駆け出しの冒険者にとっては最も警戒すべき有名な種族だ。
「ど、どうするの? 洞窟はこの先?」
「ちょうどあいつらのいる場所を越えた辺りだ。迂回は難しいな……」
「じゃあもしかして、た、倒す……の?」
クローネは二重の意味で身構えた。ひとつは魔獣と戦うのは危険だという一般的な理由。もうひとつは、無闇に魔獣を殺したくないというクローネだけの理由。
「いや、どうだろう……俺はそんな強くないし、どうしても倒す必要があるとまでは言えないからな」
クローネの葛藤を見抜いているのか、いないのか、ユーロはそんなことを言う。少し嬉しくなってしまうクローネだが、ユーロの手が腰の短剣に添えられているのを見て再び緊張が走った。
「必要とあらば、我が身は守る。クローネも守る。手加減をする余裕は無いから、その過程で止むを得なければ殺す。……ただとりあえず、今はあいつらがどこかへ行くのを待つ」
ユーロはわざと冷たく聞かせるかのように、淡々と言った。もちろん戦闘になれば、殺したくないとか仲良くしたいとか、そんな御託を言っていられないことはクローネにもわかる。
だから、どうかこちらへ来ませんようにと、ひたすら祈ることしかできなかった。
幸いなことに、レムードの一団はクローネたちとは反対側、つまり北へ向けて去っていった。
「餌場でも探していたのか……とにかくこの辺りに住み着いているんだとすると、厄介だな」
「早く洞窟に入ったほうがいいと思う。今のうちに」
「そうだな」
クローネの言葉に同意して、ユーロは歩調を速めた。いまだに手は短剣に添えられている。クローネも、辺りを警戒しながらユーロに続く。
「よし、ここだ」
ユーロの言葉に、左手の岸壁を見ると、確かに入り口が開いていた。高さも横幅もそれなりに広く、人間二人が横に並んでも余裕で通れるだろう。
「入るぞ」
中に入ると、そこは――




