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世界はレアアイテムであふれてる  作者: とびー
第三章 「ケンタウロスの神殿」前編
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北の街

《クローネ・アイリス》


 次の日は、朝出発してから一昼夜歩き続け、夜中に小さな無人の野営地に着いた。

 そこで一泊してからさらに半日歩き、日の落ちる頃にセクアナに到着。

 つまり、ほぼ丸三日は歩いたことになる。


「やっと着いたぁー……」


 門に入るなりクローネは膝をついた。


「おいおい、これでもミディールから一番近い街だぞ。途中に拠点も野営地もあって、ちゃんと寝泊りできたし。別に俺達でないと行けないということも無かったな」


「水のことを忘れてるよ、ユーロくん……」


 拠点にも野営地にも、水は用意されていなかった。というより安全な水を採取することができないのだろう。つまり水だけは自分達持ちになるわけだ。


「これで水の重さまで加わったら、絶対にリタイアしてるよ」


「そこをリタイアせずに歩いてきたのが今までの冒険者達だ。とりあえず、あとちょっとだけ我慢して、さっさと依頼品を届けに行くぞ」



「よく来てくれた! 冒険者なんて本当に何十日ぶりだろうか。ああ、これでやっとミディールの木の実が売れる」


 商業組合『バロック』。セクアナ唯一の貿易商であり、ミディールや他の街の商業組合と提携を結んで、商品をやり取りしている。

 ただし、そのやり取りは完全に冒険者頼りであり、定期的に話し合いや情報交換をすることすらできないため、独特な仕組みが使われている。すなわち、


「では、すまないが明後日の朝、ここに荷物を取りに来てくれ。ミディールへのお返しだ」


 そう、冒険者から荷物が届いた場合、それと同じ価値の貿易品を送り返すことで取引が成り立つのだ。あらかじめ交換レートは決定済みであり、そこで揉める事は無い。また、交互に運搬依頼を出すことで、冒険者が運搬に失敗した場合のリスクを公平に負担する。


「それで、これが報酬ね。残り半分はミディールで貰ってくれ」


「ありがとうございます」


 ユーロがずっしりとした袋を受け取り、二人は『バロック』を後にした。


「任務大成功だね、ユーロくん」


「ああ、最初にしては上出来だ。まあ、あと半分ある訳だが、とりあえず明日一日は空きだ。適当にのんびりしよう」


 二人はとりあえず宿を取り、ゆっくりと寝ることにした。


 ◇


 次の日は、とりあえずセクアナの街を見て回ることになった。

 街の雰囲気はというと、ミディールより活気があり、大通りには屋台が所狭しと並んでいる。売り子の声が騒がしく響いていて、ちょっと気を許せばすぐに売りつけられそうだ。


「うーん、商売の街って感じだな」


「すごい活気だよね」


 朝御飯がわりに屋台で買ったパンを食べながら、ぶらぶらと歩く。特に目的は無いが、ユーロにはあるらしい。


「光ってないな……」


 ずっとキョロキョロしていると思ったら、レアアイテム探しだった。

 そこへ、


「らっしゃい、らっしゃい。どうだい、うちのアクセサリーは」


 長い前髪をバンドで持ち上げた青年が、元気よく呼び込んでくる。見てみると、小さな工芸品をたくさん並べている屋台だった。珍しい形の、青い花を模した髪飾りがあり、思わず目を魅かれる。


「面白い店だな」


 ユーロも興味をひかれたらしく、屋台に近づいていく。


「ちょっと品数は少ないけどよく見てってくれよ。ん、あんた達、その格好は冒険者かい?」


「え? まあ一応」


「おお、そうかそうか! いやぁ最近冒険者が少なくて、『バロック』に行っても全然素材がないんだよ! 頼むぜ、これからもじゃんじゃん運搬を手伝ってやってくれ!」


「ま、まあ、今日あたり『バロック』に行けば木の実くらいは増えてると思いますよ」


 ユーロは苦笑して、棚のアクセサリーを手に取る。


「ん? これ」


 小さな球状のアクセサリー。表面は膜のような材質で中が透けており、中に入れられた石のようなものが緑色に輝いている。


「もしかして、ユーロくんのスキルに反応した?」


「いや、光ってはないが、ちょっと気になった」


 ユーロが光っていないのに興味を示すなんて、珍しいことだ。少なくともクローネは見たことが無い。


「おっ、そいつに目を着けるとはなかなかのセンスだな」


 店員がさっそく商売トークに入った。


「彼女へのプレゼントにするかい?」


「か、か、彼女っ」


 クローネが顔を真っ赤にしてあたふたするが、ユーロはそんなことに構わず、


「プレゼントならもっとしっかり選びたいかな。とりあえずこれは目に付いただけで」


「か、彼女っていうのを、ひ、ひ、否定しないの?!」


 クローネはもう目が回りそうだった。


「え? 彼女ってクローネを指して言っただけだろ?」


 残念なことにユーロはただの代名詞としか捉えていなかった。一気に消沈するクローネ。


「この石、なんで緑色に光ってるんだ?」


「そいつは西の方の山脈で取れる珍しい石で、暗闇で緑色に光るんだ。そいつをベルーノンの皮膜で覆ってぼんやりと暗くしてるってわけ」


「ベルーノン?」


 気丈にも復活したクローネが聞く。


「南西の山岳地帯によくいる魔獣だよ。巨大な羽を広げたまま、羽ばたきもせずにふわふわ浮かんでる不思議なやつだ」


 ユーロが知識を披露するが、その後不思議そうな顔になって、


「でもベルーノンってこんな皮だったっけ?」


「奴らは脱皮するんだ。羽の部分からはかなり薄い皮膜が取れる」


「へぇ……」


 ユーロはしばらく考える素振りを見せた後、


「よし、じゃあこれを買おう。あと、そっちの髪飾りも」


「毎度あり!」


 髪飾り?

 クローネがそっちを見ると、なんと最初にクローネが惹き付けられた、青い花の髪飾りだった。


「はい、プレゼント」


 店を出て、ユーロがそれを渡してくる。


「な、な、なんで……」


「普通、最初に目が行ったのが一番気に入ったってことだろ」


「……見てないのかと思ったら」


「ん?」


「な、なんでもない! それより、ありがとうユーロくん」


「クローネにはいつも手伝ってもらってるからな。今回も、重労働だったし」


「ううん……。だって私、ユーロくんに着いていって冒険できるのが、何より楽しいから」


 そう言うと、ユーロは急にクローネの顔を見つめてくる。


「な、なに」


 クローネがドキドキしていると、ユーロはクローネの目を見つめたまま言った。


「クローネ、もし良かったら、付き合ってくれないか」

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