男性恐怖症の少女
女性……怖いです…。
拓海「待てって‼」
音々「っ!」
走って逃げる音々の手を漸く掴まえる。
音々「……なに?」
凄い目付きで睨まれた、同時に手も振り払われる。
拓海「分かってると思うけど、さっきのは冗談だからな」
音々「……」
音々「……で?」
拓海「…心配かけて……悪かったよ…本当に…」
長い付き合いの筈なのに…俺は初めて音々に対して素直になれた…。
音々「……二度と起きないんじゃないかと……本当に…思ったんだから…」
拓海「そんな大袈裟な」
音々「大袈裟じゃないわよっ‼」
音々の瞳には薄っすら涙が滲んでる様に見える。
拓海「ごめん…」
音々「……」
拓海「……」
どちらも顔を伏せて黙りこくる。
?「あ…あの…」
そこに割ってはいる聞き覚えのある一人の声があった。
音々「貴女は…月哀さん…どうしたの?」
こいつ、まだ帰っていなかったのか? それとも、起きるのを待っていたのか? 結果的に俺に庇われた訳だしな。
拓海「なんで違うクラスのお前が名前知ってるんだ?」
音々「寝てたあんたに代わって、生徒会の仕事手伝って貰ってたのよ」
音々「あんたよりとても優秀だったわ」
さっきまで泣きそうな顔だった癖に…っ‼ 今はとてもムカつく顔をしていらっしゃるっ‼
拓海「無関係な生徒をこき使うなよ‼」
まんまと俺は挑発に乗る。
音々「無理矢理にさせたんじゃないわよ‼ 私を何だと思ってるの!」
拓海「……この人の言ってることは本当ですか?」
月夜見「ええ……私のせいで怪我をしたのだから、何かしないとって思ってたら…」
拓海「思ってたら?」
月夜見「保健室で天林さんと出会って…生徒会の仕事を手伝うことにしたの…」
結構切って話してるけど、つまりは音々かなおちゃん先生に俺が生徒会をやってる事を聞き、動けない俺に代わって生徒会を手伝った……そういう事になるんじゃないか?
拓海「成る程……それより月哀さん、何か俺達に用があったんじゃないの?」
月夜見「あっ! そうだった‼」
音々「どうしたの?」
月夜見「よ、良かったら二人に手伝って欲しい事があるの…」
校舎に恐らく残っている妹を捜して欲しい……か。
その妹の靴は下駄箱にあった様だが…わざわざ走って学校を出た俺達を掴まえて、手伝わせる事なかったんじゃないか?
やっぱり人見知りだから、面識のある俺達にしか助けを求めれなかったのか…こいつの自立が本気で心配になる…。
と言う訳で、人通りの少なくなってきた廊下を、俺は月哀の妹を捜しながら巡回する事になった。
月夜見『あの子…きっと一人で帰れないから…』
音々『それはー…まだ引っ越して来たばかりで道が分からないから?』
月夜見『それも…あります…』
拓海『本当の理由を教えてくれませんか?』
月夜見『それは…』
男性恐怖症。
特に俺が考慮しなくては成らない条件が出来た……俺に捜すの手伝えって大丈夫なのか? その妹は…。
発狂して襲ってきたりしないだろうな?
拓海「ここは…図書室か」
一人問答をしていたら、二階の図書室に行き着いた。部屋の電気は消えている。
拓海「鍵はー……かかってるな…」
閉じ込められてるとか無いよな?
拓海「……一応鍵を取りに行こう…」
拓海「まさか居るわけないだろうが…」
そんな半信半疑を抱きながら図書室の鍵を開ける。
日も完全に傾き、速くも月の光が図書室に入っていて結構雰囲気が出ている。
拓海「桜?」
桜に面している窓が一つだけ開いている、風に流れて入って来たのか。
何も考えず、その開いている窓に向かって俺は歩き出していた。
拓海「ん?」
窓に近付いて、ようやく図書室の隅に月哀よりも長い髪をしている少女が蹲っている事に気付く。
拓海「……」
寝てるのか⁉ いや…そんな訳は…。
そもそもだ! 探してる少女じゃなくてもこの状況は声をかけて安否を確認せねばならないだろ⁉
あっ、そう言えば図書室に出る幽霊の話を聞いたことがある。話ではこれくらいの時間に現れるだとか。
拓海「……肩を叩くくらいで大丈夫か?」
こっちに背を向けて蹲っている少女、微動だにしない。
一瞬よからぬ憶測が頭を駆け巡る。
拓海「…死んでないよな? 幽霊とかじゃないよな?」
少し怖じ気づきながら、それでも慌てて少女に近付く。
拓海「もしもし…」
肩を優しく叩いてみる。体は暖かい、これで幽霊説は消えたな。
少女「ん……っ」
どうやら死んでもいなかったようだ。よし死亡説も消えたな。
少女はゆっくりと反射的にこっちに振り返る。
少女「…あ……あぁ…」
拓海「?」
顔は引きつり、この世の物ではないものを見たかのような恐怖の顔。
まさかっ⁉ この反応って事は……月哀の男性恐怖症の妹⁉
や、やばいっ‼
恐怖の余り殴りかかるとかないよな⁉ うわー……アニメの見過ぎなのか⁉ リアルがどんどん分からなく成ってきた…。
少女「こ……」
拓海「えーっと…とりあえず落ちつ……」
少女「怖いっ‼ いやっ‼ こっちに来ないで‼」
少女は近くにある分厚い本を次々と俺めがけて投げ始めた‼
拓海「うぉっ!」
冗談じゃないぞ⁉ 一冊でも当たったらたんこぶなどではすまない‼
ゴスッ‼
頭にクリーンヒット♪
拓海「っ〜‼」
痛すぎると本当に声って出ないんですね〜……反射なのか頭を抑えながら俺はしゃがんだ。
不思議にも一回当たってからは本は飛んで来なくなった。
恐る恐る少女を見てみる。
少女「……」
その少女は本棚に隠れながら、こっちを顔だけ出して覗いていた。
拓海「……隠れられてないよ?」
少女「っ‼」
そう指摘すると慌てて少女は顔を隠す、でも俺が気になるのかまた顔を覗かせる。
目が合うとまた顔を隠す。出して隠す、その動作が結構続いた。
拓海「落ち着いた?」
しばらくして声をかける。
少女「……はい…」
再び顔を覗かせる少女。
拓海「なんだちゃんと会話出来るじゃないか」
少女「…バカにしてるのですか…?」
拓海「いや…会話成立する前に拳が飛んで来るかと思ってな」
拳の代わりに分厚い本が飛んで来たが…。
少女「……貴方は…何しに来たのですか?」
拓海「それを言うにはまず、キミの名前を教えて欲しい、ダメかな?」
少女「……」
少女は顔を横に振る。
天照「私は……月哀天照…です……最近こちらに引っ越して来ました…」
少し間があったがちゃんと答えてくれた。どうやら完璧に捜してる月哀の妹のようだ。
拓海「俺の名前は八城夜拓海だ」
天照「八城夜……じゃあ」
ピンと来たのか、天照は本棚から少し身を乗り出した。
天照「小鳥ちゃんの…お兄様?」
拓海「あ、ああ……小鳥と同じクラスなのか?」
小鳥の名前が出た事に驚き、少しだけ答えが遅れた。
天照「はいっ!」
拓海「そうか、ならこれからも仲良くしてやってくれ」
天照「はい!」
この食い付きだと…推察して初めて高校で出来た友達が小鳥なのか?
それとも何か困った時に小鳥に助けられた…とか?
まあいい…こっちも名前を聞いたし図書室に来た理由を答えなきゃ成らないな。
拓海「俺がここにわざわざ鍵を取りに行ってまで来た理由だが」
天照「はい…」
拓海「キミの姉さんに頼まれたからだ」
天照「お姉ちゃんが……やっぱり捜してくれてたんだ…」
拓海「それにしても、どうしてキミは図書室に閉じ込められてたんだ?」
天照「……私…男性恐怖症なんです…」
拓海「聞いてるよ」
天照「放課後は皆が一斉に動くから…男の人も多くて……男の人を避けてたら図書室に行き着いて……皆が学校からいなくなるまで図書室で待っていたんですけど…」
天照「司書の先生……私に気付かないで鍵を閉めちゃったみたいなんです…」
拓海「なんと不憫な…」
天照「私も初めは状況を打破しようと頑張っていました、図書室のドアを叩いたり」
天照「窓から出ようとしたり…」
だから窓が一つだけ開いていたのか…。
拓海「怖くて出来なかった?」
天照「はい……」
拓海「そして諦めて蹲っていたのか…」
天照「一人でどうしたらいいか分からなくなって……ここで一夜過ごす覚悟でした…」
拓海「無茶な事を考えるな〜……図書室に来る前にクラスの誰から帰る誘いとか受けなかったのか?」
天照「小鳥ちゃんは一緒に帰ろうって誘ってくれたけど…お姉ちゃんと帰る約束してたから…」
天照「あと男性恐怖症で迷惑もかけたくなかったので…」
拓海「うーん……小鳥の事なら気にするな、あいつは人に頼られるのが好きな出来た妹だから、気にしないで頼れ」
天照「はい……小鳥ちゃんも拓海先輩もやっぱり兄妹ですね……優しいです……」
拓海「皆に優しいって訳じゃないよ? 妹と違って俺は」
天照「そうでしょうか?」
拓海「ともかく、もう暗いし出ようか?」
天照「分かりました」
普通に話していれば、とても男性恐怖症を患っている女の子には見えないんだけどな。
拓海「少し離れて歩いた方が良いのかな?」
天照「お、お願いします…」
天照「でも……拓海先輩は普通の男の人とは違う感じがして…話しやすいです……」
あっち系の人とか思われたのか⁉ そうだったら最悪過ぎるぞ‼
拓海「ははは……」
普通の男じゃないって……褒め言葉なのか? 月哀達と速く合流したい…。
どうも、洗濯物を干していたら家の鍵を閉められ1時間近く放置されてた上条です。
一種の拷問ですねアレは……小学生なら泣くレベルですよ(笑)
初投稿の作品なので読者数が増えず焦っています
_| ̄|○
しかしめげずに頑張ります!
では皆さん閉め出しくらわない様ご注意を!