働こうぜ
「うわ……ただでさえ狭いのに、更に超狭くなってる」
12.7ミリの弾薬箱こそ、専用の格納スペースに入れられたものの、RPG-7が相当邪魔っけである。
『まだまだ狭くなるよ、次はスーパで日用品と携帯の充電器を買うんだから』
タクムは心底嫌そうにぐえっとうめき声をあげる。
「スーパーにそんなの売ってるのか……つーか、監視カメラは何に使うんだ?」
『車外カメラだけだと視野が狭すぎるからね、監視カメラを戦車に取り付けてボクに繋ぐつもり。ちなみにウォルマートなら大抵のものは揃っているよ、9ミリパラベラム弾とかなら置いてある……さすがに12.7ミリやロケットランチャーは取り扱っていないけどね』
ウォルマートでもタクムの購買意欲は衰えることを知らず、良い品ばかりを購入していった。特にスマートフォンへのアクセサリ類は豊富に買った。保護ケース、充電器、変換機、予備電池、携帯充填器、その予備電池、外付カメラ、マイクロSD、画面保護シート等々、アクセサリ関連だけで500ドル(5万円)を超えた。
携帯電話に宿るアイは、タクムにとっての生命線であるためそこに金の糸目は付けなかった。
最後にスーパーに隣接する不動産屋に行き、アパートとガレージを年間契約で借りる。
契約物件はスーパのすぐ近くでよかった、とタクムは戦車の中に縮こまりながら思った。
今にも荷物が弾けだしそうなマイクロ戦車。ハッチからはネギとフランスパンが顔を出しているあたり、買い過ぎであることは疑いようもなかった。
ガレージに武器弾薬を起き、アパートに日用品を運んだところでタクムは通帳を見た。
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残高: 28,902$
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――あれ、預金残高減ってない?
もちろん、預金を使って支払ったのだから当然のことであった。しかし、タクムのイメージだとまだ10万ドルくらいは残っているつもりだったのだ。
しかし、アイに促されるがまま良品を、言い換えれば高額ばかりを購入していたため、購入総額が膨れ上がっていることに気が付かなかったのである。
タクムは武器や弾薬、生活用品に住居などの生活基盤を手に入れた。ちんまいが戦車だってほとんどは自分のものだ。
――22万ドル(2200万円)も消えている!?
内訳のほとんどが武器弾薬によるものとはいえ、その額の大きさに驚愕する。金持ちでもなければ人工知能でもない一般市民のタクムにはわずか2時間で失われた金額は到底看過できるものではなかった。
「…………アイ、俺に仕事をくれ」
『そんなに急ぐことないのに……』
アイは、命を守るためなの道具なのだからその程度の投資は当然と思っていた。タクムの焦りは理解できなかった。
しかし、主人がやる気になってくれたことは大いに歓迎できることである。この銃と生体兵器が跳梁跋扈する危険極まりない世界では、いくら自分が頭を捻ったところで守り切ることは難しい。
アイは考える。タクムが事態を冷静に受け止められるようになるまでに、確固たる強さ(レベル)まで引き上げてしまおうと。
『マスター、了解だよ。戦車に乗って。この辺で一番いい狩場まで案内してあげる』
動ける体のない自分が恨めしい。アイはそんなことを思いながら、タクムに狩りの準備をさせるのであった。