噂をすれば殲滅者★
「大尉! 大変です! 起きてください!」
ニーア付きの事務官の声に彼女は目を覚ました。
「う、なに……問題があるならシナリオシートを……」
ガンマ軍が攻勢をかけて来たのは知っていた。しかし、敵軍の取った戦略は全てニーアの想定通りであり、それほど脅威は感じていなかった。
およそ数千枚にも及ぶ戦略シート。およそ想定しうるルートを書き終えた直後の食事でニーアは倒れた。
独力で作り上げたが故の安心感。破られることのない絶対の防壁を前に、ニーアは気を失ったのだ。
「暴動が起きています!」
「はッ!? どういう……」
ニーアは病室のベッドから飛び起きると、窓際に走り寄った。
まっさらなカーテンを開く。
「なっ……」
そこには真っ黒とした煙が各所から立ち昇っていた。
そこかしこで火災が起きている。
防弾ガラス越しに見る凄惨な光景。どこからともなく悲鳴や銃声が聞こえてくるような気さえした。
「な、なんで……なんでこんな、有り得ない、有り得ないわ!」
ニーアが叫ぶ。
計算上、暴動が起きることは有り得ない。ニーアが着任早々に行ったのは<刀狩>であった。士官学生時代から、もし敵地を占領した時のことを幾度となく議論を交わしていた。
この世界の住民は強い。精神的にも肉体的にも。暴動は占領時に一番に注意することであった。だから反抗心は植えつけない、武器は持たせない。前任者の気が狂ったとしか思えない所業により、反抗心を持たせてしまったものの、戦力の大半を割いて住民から武器を奪い、治安回復のために軍警察さえ組織した。
「何で、どうしてなのよ!」
「<殲滅者>です。奴が……東門を破って……」
「それこそ有り得ないわ!」
いくら化け物とはいえ所詮は個人。クリスやベジー、ヘクトールやミッツといったきら星の如き、超一級の開拓者を従えているものの、やはり彼らは個人なのだ。いくら<殲滅者>とはいえ、完全機械化された大隊を相手に出来るわけではない。
彼我の戦力差は圧倒的だ。戦闘車両の数、拠点の防御力、旧時代ではるまいし、我に続けで突貫したところで戦況は覆らない。
「い、いえ……奴は生体兵器を従えて……」
ニーアは脳裏に戦局図を思い浮かべ、サファイアブルーの瞳に絶望を宿す。
<獣の森>に潜む生体兵器を挑発し、そのまま戦線まで引っ張り上げてきたのだろう。敵の敵は味方。もしも生体兵器の群れをソフィスト軍にぶつけることが出来たなら確かに戦力差はひっくり返せる。
しかし、
「狂ってる! そんなの狂ってるわ!!」
もしもそんなことをしたならば、カルマの街は廃墟に変わる。生体兵器の血を街の近辺に大量にばら撒くのだ。臭いに誘われ、更なる生体兵器が街を襲い、銃声の音が血の臭いが、更なる災禍を引き寄せるだろう。
住民は休むことなき闘争の日々を強いられ、いずれ力尽きて蹂躙される。
「しかし、事実です。スローターは……我が軍……戦局と街ひとつを引き換えにしたのです……」
ニーアは鯉のように口をパクパクと開けては閉じ、そして言った。
「有り得ない……いくら狂人とはいえ……
……そんなの……それは、もはや……
……悪魔よ」
――呼んだぁ?
メリークリスマス。
皆さんにも素敵な一夜が来ることをお祈りしております。
ほら、良い子のニーアの元にもサンタさんが来たようですよ?




