権利の主張
崩壊した東門を占領したタクム達はすぐに物資を運び込んだ。数台のピックアップトラックが街の各所に走っていく。
トラックの荷台には武器弾薬が山積みにされていた。これ等は全てソフィスト軍の補給線襲撃で奪った<AK-47>を中心とするライフルやその弾薬、あるいは手榴弾の類であった。
これから義勇軍兵が街を回り、武器弾薬を近隣住民に配って回る手筈となっている。しかし、トラックが走り出そうとした途端、これまで堅く閉ざされていたはずの家々の扉が開き、ガンマ市民が駆け寄ってくる。
「あ、あんた、まさか……スローター様か……!?」
「聖女ライムが隣にいるんだ、間違いない! スローターさんだ!」
「スローター様!! 我等を助けに来てくれたので……?」
これまで義勇軍は広報活動――ライムがパーソナリティを務めるラジオ放送――を行ってきた。ガンマとその周辺の町や村に向けて毎日、欠かさずその日の戦果を――何人のソフィスト兵を捕らえ、拷問にかけ、殺害し、いくつかの戦闘車両を叩き潰し、奪い、どれだけの武器弾薬、食料を手に入れてきたかをポップな音楽に乗せて配信してきたのだ。
それはソフィスト軍に搾取され続けるカルマ市民にとって救いとなった。
いつか<殲滅者>がやって来る。
憎いソフィスト野郎を根絶やしにやって来る。
そんな都合の良い妄想に耽ることで自らを慰めていたのだ。
それはまるで信仰のように――
その妄想が、祈りが今、現実となった。
「ええ、その通りです」
タクムはニコニコと人好きのする笑みを浮かべて言った。
彼等の顔に一瞬生気が戻り、
「しかし、敵の数は多い……」
一斉に沈黙した。
力を持たない一般市民である彼等こそ、この戦争で最も割りを食ってきた。圧倒的な暴力を背景に、自由を奪われ、金銭を奪われ、子は殺され、妻や娘は目の前で犯された。死の恐怖、傷つけられる痛みを何よりも知っているのは彼等に他ならない。
スローターでさえ、どうにもならないのか、そんな想いに駆られた。
「しかし、皆さんが力を貸してくれるなら、話は別です」
俯いた市民が顔を上げた。
「ここに連中から奪った武器があります」
タクムは言うと、合図をした。
トラック荷台のソフトスキンが剥がれ、そこには黒光りする武器が雑然と積み上げられていた。
「皆さん、ソフィスト軍が憎くありませんか?」
何を当たり前のことを、誰もが首を傾げた。
「ソフィスト兵士を殺したくありませんか?」
そんなの当然じゃないか、誰もが頷く。
「恨みを晴らしたくはありませんか?」
次第にスローターが続けるであろう言葉に耳を傾けていった。
「殺したくはありませんか?」
誰一人、目線をあの紅い瞳から離せなくなった。
「じゃあ、殺せばいいじゃないですか。
犯せばいいじゃないですか。
奪えばいいじゃないですか。
あなた方がされたことを、連中にもしてあげればいいじゃないですか。
彼等を傷つけ、
彼等を壊し、
金目のものは全て奪い、
地面を這い蹲らせ、
声が枯れるまで謝罪させ、
後悔と共にこの世から消してしまえばいいじゃないですか。
躊躇うことはありませんよ」
タクムは大きく手を広げた。
トラックの荷台が次々に暴かれる。
そこには数え切れないほどの武器がある。
「ここに力がある。
連中を黙らせる力がある。
さあ、手に取りなさい。
あなた達には奪い返す権利がある」
そうしてタクムはその内の一挺を手に取ると、目の前の少年に手渡した。
「さあ、殺せ! 連中を根絶やしにしろ!!」
少年はその瞳を爛々と輝かせ、
「オオオォォオォォォオオォォ――ーッ!!」
咆哮した。




