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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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プレイヤー

 タクム等<鉄屑兵団スクラップ>と義勇軍本隊は、その後、大きな抵抗を受けることもなく東門前に到着した。


 タクムは予備の装備品に身を包んでいた。女王蟻ジャイアントスローター製の装甲服に、女王蟻の爪を削った杭撃ちパイルバンカー、手榴弾を腰ポーチに敷き詰め、銃身を切り詰めた<ブローニングM2>を肩に掛けている。


 人工筋肉による動作補助や耐衝撃性能がないため以前のように弾幕の中に身を投じるような無茶は出来ないが、擬装スキルを駆使すれば戦車小隊程度ならば手玉に取れる自信があった。気付かれぬまま砲塔に昇り、女王蟻の爪杭で装甲に穴を開け、そこにグレネードを直接叩き込めばいい。


「ライム、頼んだぞ」

 タクムは明るい声で言った。


「う、うん……」

 ライムは何か底知れぬ怖気を感じながらも拡声器マイクガンを手に取った。


 ――次に逢う時にはアイに相応しい男にならないとな。


 アイの生存を知ったタクムはしばらく天を仰ぎ、クリスと合流した直後も呆然とした様子だった。しかし、義勇軍本隊が回収作業を終えて帰ってきた頃には生気が戻っていた。


 否、戻りすぎていた。


「お疲れ、クリス」

 そう快活に言って部下を歓迎した。いつもの張り詰めたような険しい表情はなりを潜め、その顔には微笑みすら浮かんでいた。


「緊張するのは仕方ない。殺人を忌避する気持ちも分かる。だけど、俺達――いや、違うな、俺はどうやってもガンマを――アイを取り戻さないといけない。協力してくれ」

 終いには裏切り者であるはずのライムにさえ、思いやりに溢れた言葉をかけてくる。


「あ、ありがとう……」

 それがライムには怖かった。いつもの彼なら暴力か、借金――ついさっき増額されたそれを盾に無理強いをしてきただろう。


 それに慣れ切っていたから、彼の残虐な言動に耐性を付けてきた彼女だからこそ不安を覚えるのだ。


 とはいえ、ライムのやることはひとつ。


 人を殺すだけだ。

 その手伝いをするだけだ。


 ガンマを取り戻すためには、このカルマを攻略することは必要不可欠である。ガンマ駐留部隊との戦闘中に後方から攻められたら、そもそもそんな危険がある中で兵を進めたら士気なぞ保てるはずもない。


 こちらを放ってソフィスト本陣を狙うことは出来ない。

 だから敵は殺さなくちゃならない。


 ――やっぱり、出来ない……。


 そう訴えかけようとする直前、そっとタクムが肩に手を当てた。


「大丈夫だ、ライム――どうせこの世界はゲームなんだから、連中はタダのNPCものなんだから」


 唇を寄せられ、囁かれる。


「ここでライムが動かなければ、今度はこっちの兵士が死ぬ」

「う、うぅ……」


 ノイズのような音が混じったような声で――


「さあ、ライム。選んで? ベジーやクリス、君のファンや顔見知りの兵士を見殺しにするか、俺達の国を奪いに来た侵略者を殺すか。俺達を守るか、敵を守るか」

「あ、ああっ……あ……」


 蕩けるような甘い声で――


「大丈夫、ライムなら出来るよ」


「できる、出来る出来る……ふぁ、ふぁっくする……ふぁ、ふぁっ、ファック! ファック!! ……ファックファックファック――――ファアアァァァアァァック!!」






 東門が崩れ落ちると、義勇軍本隊はすぐさま突撃を仕掛けた。


 敵部隊も崩壊した城壁前に集結し、迫り来るガンマ義勇軍を猛烈な銃撃によって出迎えた――が、もはやそれは悪あがきとしか言えなかった。


『野郎共ッ! 俺に続けぇええぇぇぇ――ッ!!』

 クリスの怒号と共に戦車部隊が一斉に駆け出す――と同時、エイブラムスM1から煙幕が焚かれる。煙幕はこの世界において<サークルレーダー>などの索敵スキルを妨害する効果があった。


 故に迎撃側であるソフィスト軍の砲撃はエイブラムスに集中する。塹壕の合間から歩兵部隊によって放たれる7.62ミリ弾、トーチカ内部に設置された重機銃による12.7ミリ弾の弾幕、城壁に取り付けられたガトリングガンによる機関砲弾――大小様々な銃弾が雨あられと降り注ぐ――が、そんなものは劣化ウランと生体兵器素材を組み合わせた複合装甲を前に何の意味も持たなかった。


『甘い甘い甘い! このエイブラムスを倒したいなら120ミリ持って来な!!』

 戦車砲すら容易に弾き返す、最新型主力戦車にとって何の障害にもならない。歩兵による銃撃は蚊に刺されたのと変りなく、20ミリ級の機関砲とて装甲表面を歪ませることさえ出来はしない。


 ソフィスト軍にとっては不幸なことに、東門に配備されていた戦闘車両はそのほとんどが北部防衛線の支援へと向かってしまっていたことであろう。


 歩兵が持つ火力程度ではその足を止めることすら叶わない。その圧倒的なまでの硬さこそが、戦車を最強の陸戦兵器足らしめる所以であった。


 唯一、抵抗出来るとすれば――対戦車装備を持つ、ミサイル兵くらいなものだろう。


 日本自衛隊では特技兵と呼ばれる兵科に属する技能者――戦車こそ存在していないが、東門には数名のミサイル兵が配置されている。


「あんまり調子に乗るなよ! このウスノロ――」

 そう叫んだ兵士が塹壕から顔を出し――肩にはRPG-7を背負っている――RPG-7程度の火力ではエイブラムスの硬い装甲を撃ち抜くことは出来ないが、履帯を断ち切る程度のことは可能であった――トリガーに指を掛け――


「ブグッ――」

 頭部を吹き飛ばされて絶命する。


『フンッ、功に焦って姿を晒し、あまつさえ声を上げるなど殺してくれと言わんばかりだな』

 貴重なミサイル兵を仕留めたのは、ベジーの<AI アークティクウォーフェア>から放たれた.338ラプア弾であった。


「いいぞ、ベジー。よし、こっちも一匹仕留めた」

 タクムは銃身を詰めたソードオフブローニングM2のスコープから目を離すと、次なる獲物を捜し求める。


 二人は狙撃手兼部隊後方の護衛として展開していた。敵部隊との距離は500メートルと少し。1000メートル級の狙撃を易々と成功させる二人にとって、塹壕から頭を出した連中を撃ち殺すことなぞ、もぐら叩きと何も変わらない。


「ファッキンロォォォルッ!! ファッキンオォォォ――ルッ!!」

 彼等の更に後ろではライムがを放っている。彼女が声を張り上げるたび、城壁が崩れ落ち、塹壕が抉れ、隠れていた兵士達が全身の穴という穴から体液を噴出させて死んでいた。


 効果範囲は変わらず半径50メートル、威力も土を二メートル掘り返せばいいところ。ライムは今、タクムの狂皇専用スキル<洗脳操作>によって、半ば強制的に<音爆>を行使させられている状態にあった。


 使用者の感情の迸りを攻撃力に変換するその特性と、ライムの性質から威力はそれほど高くならない。せいぜい152ミリの榴弾程度の威力である。先のタクムへ放った一撃とは比べるべくもないが、分間30発というその連射力にあった。同クラスの自走砲では一分間に一発撃てればいいほうだろう。


 ――相変わらず、ライムのこれはぶっ飛んでるなぁ。


 単体で自走砲30輌分の火力というのは流石にチートすぎるだろうと、タクムは素直に感心すると同時、羨ましく思った。銃撃、剣撃、打撃に関わらずあらゆる攻撃を見切るユニークスキル<弾道予測>も大概であるが、やはり他人の庭は青く見えるものなのである。


「よかった、これなら速やかに占領できそうだ」

 タクムの表情には今まで見られなかった笑顔が――それこそ十代の少年が浮かべるようなごくごく自然な笑みが浮かんでいた。


「タクム……油断は禁物だぞ」

 肩を並べて狙撃を続けるベジーは、主人の変化を敏感に感じ取っていた。鬼気迫る雰囲気――殺戮を望み、嬉々として権謀を巡らせては人を陥れ、その人物をあざ笑い、なのに何処か焦っているような、ゾクゾクとした危険なそれ――が消え失せているように思えたのだ。


 ――まるで憑き物が落ちたかのように――。


「ああ、もちろんだよ、ベジー。今は全力でソフィスト兵を殺さなくちゃな」

 タクムは爽やかに言いながら、スコープに移り込んだミサイル兵を撃ち殺した。


 ――杞憂か……それとも、腑抜けたのか……。


 今のベジーには判断が付かない。

 

 ただその鷹の目は鋭くタクムを見詰めていた。


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