狂皇
「で、落ち着いたか?」
「うん、あ、ありがとう……タクム……」
ライムは頬を真っ赤に染めた。
タクムは再び眉を潜めた。
――あれ、なんか違う……?
瞳の色合いが変わった瞬間、タクムは<精神汚染>の発動を確信した。普通は表情を失うか、異様な興奮状態になるはずのスキルであるが、ライムの様子は少しばかり違っていた。
「あ、あたし、駄目だから……あたし、アイドルだから、特定の男性とは……」
なにやら頬に手を当ててくねくねと蠢き始める。
自らのスキルが全く通用していないことに、そしてなにより、
――この女……口説かれたと思っていやがる!?
「そ、それにアンタにはアイちゃんがいるじゃない……三角関係とかどろどろしたの、ちょっと……」
――しかも、俺が一方的に好意を寄せている方向で進んでる、だとッ!?
その盛大な勘違いっぷりに、である。
「いや、ちょっと待……いや、何故アイのことを知ってるんだッ!?」
不意に我に返ったタクムは尋ねた。アイの存在――タクムがアイを何よりも大切に想っていることを知っているのは、ごく一部――それこそランドの職人兄弟ぐらいである。
「え、あ、逢ったのよ――ぐえッ」
「何時、何処でだ!?」
「ゆ、夢で……く、苦しい…………」
タクムは襟首を離す。ライムは演技をする暇もないのか、ゲホゲホと咳をしている。
タクムは再び髪を掴み、強引に持ち上げた。
「言え! 今すぐにだッ!」
「夢で……さっき、気を失ってた時に――」
「アイは、アイは言っていた!!」
「タクム、少し待て。ライムは夢だと言っている、そんなものは――」
夢の中の話にこれほど興奮するなど異常以外の何物でもない。この世界が唯一の現実であるベジーからすればタクムの言動は正気とは思えなかった。
しかし、タクムにとってこの世界はゲーム(・・・)である。この世界で本物だと、そう信じられるのは自分自身とアイを置いて他にない。
自分とアイ以外はとても信じられない。ドリームとワンダーとてお気に入りのNPCでしかなく、ライムとて、この世界に溢れるイベントキャラかも知れないのである。彼女が本当に地球人である証拠などひとつもない。
アイが伝言を残した。タクム自身ではなく、よりにもよってこの女というのが気に食わないところではあったが、これは今までにない展開であった。
「黙ってろ、殺すぞ」
アイの復活。タクムにとってメインシナリオ――今まで何の手がかりもなかったそれに一筋の光が見えたのである。
邪魔をするな。それがタクムの本音であった。これ以上何か言えば本当に処分されかねない、タクムの瞳に宿る狂気を明確に感じ取ったベジーは押し黙った。
「なに、何だってのよ、タク――ヒッ」
「早く続きを言え! お前も殺されたいか!?」
「あ、ああ、あの子、アイちゃんは……ガンマの地下に――ほら、あそこって昔ダンジョンで……そこにいるみたい……マスターに、その、タクムに伝えてって言ってた」
「そう、か……」
タクムは大きく息を吐いた。
そしてひどく緩慢な動作で立ち上がると、天を仰いだ。
「アイが、生きてる……また、逢える……」
そうして何かをかみ締めるように呟いた。
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自動転職設定がONされています。
特定条件が満たされましたので職種<狂信者>が<狂皇>に変化しました。
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すべての異世界人が平等に異世界を楽しめるよう
<精神汚染>などの精神攻撃は
ある程度の時間が経つと判定があって
解除成功で目覚める仕様になっています。
また成功率や効果時間も被洗脳者のステータスによって短くなります。
なお、狂皇の固有スキル、<精神操作>も、
同様の判定を受けています。




