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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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リアクション

 大急ぎで戦闘をこなし、クリス等、義勇軍本隊がカルマ東門に集結したのはそれから一時間ほどが経ってからであった。


 ヘクトールやミッツ率いる第一、第二中隊は更に後方500メートル地点の防衛拠点で交戦しているとのことであった。都市軍はその更に250メートル先で展開しているという。


 彼等、義勇軍本隊だけが独走出来たのには、当然ながら理由があった。


 まず攻め込むルートが、他の部隊に比べて北寄りにあったことだ。北部防衛陣地は相当に消耗しており、付近の部隊から救援を受けていた。そのため、北東のルートの防衛力は低くなっている。


 また北部の指揮系統は混乱しきっており、その煽りも受けている。当然ながら戦況など確認出来るはずもなく、あれよあれよという間に進攻を許してしまったという経緯がある。


 各中隊や都市軍の進攻ルートはそれぞれ早い者順に決められたわけだが、タクムの作戦を知っていたクリスは他部隊に先んじて準備を整え、彼等を出し抜くことに成功したというわけである。


 薄くなった防衛陣地。まともな指揮も得られない弱兵達。


 そんな脆弱な部隊が現在最強の陸戦兵器<エイブラムスM1>を駆る、当代最高の戦車乗り<獅子心王ライオンハート>クリス・ハートを止められるはずがなかった。


 クリスは自機――強固な装甲、軽快な速度、FCSを背景とした精密な命中と120ミリ戦車砲の圧倒的な火力を誇る最新型主力戦車――を楔のように打ち込むことで敵部隊を蹂躙してきたのである。その突進力は正に化け物と言っていいだろう。


 獅子に率いられるのは、これまたクリスが育ててきた獅子達である。当然、彼の指揮下にはギルド<獅子心王>のメンバーが揃っている。彼等が搭乗する車輌はスター都市国家群の中では最新鋭と呼ばれる<M60パットン>であり、ロイヤル・オードナンスL7――105ミリ戦車砲は威力、精度、信頼性の全てにおいて優れた傑作機である。


 偵察部隊には選りすぐりの開拓者達を宛がい、タクム自ら<精神汚染>を施した死兵達を突撃隊としてソフィスト軍から略奪した歩兵戦闘者<BMP-1>に詰め込んだ、完全機械化部隊である。


 クリス――エイブラムスやM60パットンを中心とした圧倒的な戦車突撃により、次々と防衛拠点を沈黙させていく様は正に圧巻の一言に尽きた。


「待たせたな、タクム!」

 そんな戦功を上げたクリスは――久々の実戦で高揚しているのだろう――快活に通信を飛ばした。


「あ、ああ……」

 タクムは視線を動かすこともせずにぼんやりと答えた。


「おい、どうした……」

 ハッチから顔を出して不敵な笑みを浮かべてみせるクリスであったが、首領の表情からはやる気というか生気が抜け落ちていた。


 タクムの武装はいつもの金色の強化服でない。それだけで何かあったのだと推測できる。


 しかし、その何かまでは分からない。


 我等が偶像アイドルライム・ダッチャーは土下座したまま身じろぎしない。そんなライムを見つめたままタクムも身じろぎ一つしていない。そんな二人を厳しい表情でベジーが見つめているが、彼もまた身じろぎしない。


 ――わけが、わからん。


 クリスは推理をそうそうに諦め、


「おいッ! 聞いているのか!?」

「ああ、すまん。クリス……車輌の接収を頼む……全壊しているのもあるが、一部の車輌はまだ使える」

 タクムはまるで生気の抜けたような表情でこちらを向くと、クリスに指揮官としての指示を下した。



 



 ――大丈夫なんかよ、大将……。


 クリスはそう思う。義勇軍と都市軍、両軍の立場は都市軍が名目上は上であり、両軍の総司令はカフカ翁ではあるが、実質的に戦闘部隊を取り仕切っているのはこの少年である。


 戦闘能力が皆無でありながら<銀の雫>という大層な二つ名を持つニーアは、この世界において最高の軍略家である。そんな化け物と戦術レベルでやり合えるのは、異世界知識を持つタクム以外に有り得ない。


 ニーアが倒れたことさえ、正確ではない――開戦当初のソフィスト軍の動きは指揮官不在を感じさせない見事なものであった――今、彼に腑抜けられてはたまらないのである。


 しかし、そんな感情は戦闘現場に到着し、肉眼でそれを確認した時に吹き飛んだ。


 ――なるほど……ガキは本当の化け物だったか……。


 辺り一面に後方に配置されていた自走砲とその護衛の戦車、戦闘車両が転がっていた。


 黒煙を上げながら。


 その数は二〇輌を超えていた。塹壕の中は赤い水溜りが出来ており、ソフィスト兵士が浮かんでいる。


 人の死は慣れっこのはずだった。しかし、そんなクリスでさえも顔を顰めてしまう。それほどの血臭――濃密な死の気配が戦場を包んでいた。後ろでは部下達がゲェゲェと吐いていた。


 これまで<殲滅者スローター>は目ぼしい敵を見つければ生け捕りにしてきた。あらゆる手法でもって追い詰め、敵の反抗心を削り切る。それは当然のことながら普通に倒すよりもずっと困難な作業である。


 ただ殲滅だけを考えて行動すれば中隊規模の敵などものの数ではないのである。加えて今回は完全な奇襲であり、更にベジーと<遠隔操作>で動き回るT-55の支援火砲があった。


 クリスはタクムの戦闘能力の一端しか知らない。


 曰く、移動する一キロ先の人間の頭を打ち抜くことが出来る。


 曰く、<ダッシュ>スキルで時速100キロ超える速度で荒野を駆け抜けることができる。


 曰く、特殊な銃剣<ドリームリッパー>で戦車装甲さえ切り裂くことが可能である。加えて剣の先についた銃口から発射される焼夷榴弾によって確実に敵搭乗員を焼き殺す。


 曰く、神がかり的な先読み能力で銃弾を見切ることが可能。


 どこまでが本当なのか、分からない。それが全て本当であれば攻略のしようがない。


 クリスやカフカのような最上位兵種持ち――人外クラスの戦士を小隊規模でぶつけるか、大隊規模で包囲して全方角から銃弾をぶっぱなすくらいしかない。もはや最上位に位置する生体兵器と同等の脅威度である。発見が困難なのと、知恵が回ることを考えればそれよりも厄介かもしれない。


 何はともあれ、クリスは難しいことは考えない。タクムは味方であり、こちらが裏切らなければ攻撃を仕掛けてくるような男ではない――短い付き合いながら、彼の人となりはある程度把握している。


 ただ、ただこう思うだけだ。


 ――ああ、タクムが味方でよかった。


 と。

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