この雌豚!
五〇〇メートルの彼方で荒れ狂う金色の暴虐。彼の通った先には黒煙が上がり、死体の山が築かれる。
『アハハハッ、ヒャーハハハ!』
悲鳴の中に混じる、出来の悪い三流映画の悪役のような嘲笑が彼女の鼓膜にこびり付く。
<殲滅者>が人を殺す度に、あるいは戦車を破壊する度、ピコンピコンという電子音がした。
――レベルアップ。
当然のことであった。今、タクムとベジー、ライムの三人は開拓者部隊を組んでいる。タクムやベジーが敵を倒せばその経験値は――ラストアタック成功者が多く取得できるため等分ではないが――当然、ライムにも入ってくる。
ピコンピコンという機械音の中に、タクムの嘲笑、そして被害者達の悲鳴が入り混じって頭の中で溶けていく。
レベルアップ時の癖でライムはログを開いてしまっていた。
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ソフィスト兵A、B、C、Dを倒しました。
T-62を撃破しました。
<弾幕屋>のレベルが上がりました。
<狙撃手>のレベルが上がりました。
<格闘家>のレベルが上がりました。
<偶像>のレベルが上がりました。
T-55を撃破しました。
<踊り子>のレベルが上がりました。
<通信兵>のレベルが上がりました。
<突撃兵>のレベルが上がりました。
上位兵種への条件が満たされました。
自動転職設定がONされています。
<格闘家>と<踊り子>を融合した結果、新たに<舞踏者>の職種を得ました。
T-55を撃破しました。
<格闘家>のレベルが上がりました。
T-55を撃破しました。
<弾幕屋>のレベルが上がりました。
<狙撃手>のレベルが上がりました。
<偶像>のレベルが上がりました。
上位兵種への条件が満たされました。
自動転職設定がONされています。
<弾幕屋>と<突撃兵>と<通信兵>を融合した結果、新たに<小隊長>の職種を得ました。
ソフィスト兵E、F、G、H、I、J、K、Mを倒しました。
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ログ画面には次々と戦果が舞い込んで来る。戦車を撃破――中の人間は死んでいる――経験値――兵士を倒した――その人物は殺された――レベルアップ――人を殺したその経験が自分の中に入ってくる。
その感覚に恐怖を覚えた。
「い、いい加減に――ッ」
無機質な機械音が死者を知らせる鐘であった。その音は人間の死を悼むことなく、単純に平坦に淡々とただひたすら自動的にライムのレベルを上げていく――これではまるで、私が彼等を――
恐怖を塗りつぶすような強大な怒りが脳裏を覆い尽くし――
「ファアアァァァックッ!!」
ライムは気が付けば声を張り上げていた。半ば衝動的に声を張り上げ、彼女は忌み嫌う『暴力』を――その化身に向けて放っていた。
スキル<音爆>。
攻撃対象に音波による爆撃を加えるユニークスキルである。音による攻撃は装甲の性能を無視して、超振動による『崩壊』を促す。分厚い戦車装甲でさえ、この攻撃の前にはなんら意味を持たない。
防御力無視のその攻撃はまさに強力無比。
そんな攻撃を味方にしてしまった。
爆心地の中心にいた金色の兵士は――タクムは弾き飛ばされ――
「タクムッ!!」
遠く、ベジーの声が聞こえた。彼の焦った声など初めて聞いた。
そんなことを思った瞬間、ライムの視界はぐるりと回り、直後に背中と腰がひしゃげるほど衝撃を受けた。
「――カッ――ハッ……」
肺の中の空気が全て吐き出され、一時的な呼吸困難に陥る。背中の激痛と酸欠による苦しみで、彼女はパニックを起こす。
手足を振り乱し暴れることはおろか、痛みにのた打ち回ることも出来ない。
「この雌豚が! 雌豚が!!」
ゴッ――視界が真っ赤に染ま「恩を仇で返すとは」ゴッ、鈍い音が頭に響く「恥を」ゴッ「知れ!」遅れて痛みが「雌豚!」やってきて――
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ――。
ライムは意識を手放した。




