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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
61/90

戦後処理

すみません。


しばらく更新を中断させていただき、

4月1日から再スタートします。


本当に申し訳ありません。

お付き合いのほど、どうぞ宜しくお願いします。

「さてと、どうするかな」

 護衛小隊の臨時指揮官となったタクムは腕を組んで、戦車兵達を眺める。11名の戦車兵達は、針金で手足をぐるぐるに縛られ、一まとめにされて転がされていた。


 ちなみに重傷を追った歩兵達は放置されている。敵のためにわざわざ高価な回復薬を使うわけがない。おって、タクムの経験値となるだろう。


「まとめて首を刎ねて経験値にするのもありかな……」

 タクムのぽつりと呟くと、戦車兵達が凍りついた。戦車二個小隊と歩兵中隊を僅か単騎で殲滅せしめた人外ばけものの一言である。棘の付いた剣銃で首を刎ね飛ばされる自分の姿が容易に出来てしまった。


「さて、どんくらいの経験値が入るかな……」

 タクムは計算する。一般歩兵と比べて戦車兵はエリートだ。分厚い装甲に守られているため、生存率が高く、また戦果も上げやすい。人気があればそれだけ人員も選抜出来る。一輌数百万ドルという高価な車輌を任せるとなれば、適正はもとより、高いレベルとステータスが必要となる。


 元々高い素養に加え、戦車に乗り込み、中型生体兵器を日常的に狩り続けることで更に成長し、大型生体兵器を狩ることで人間という生物の格を一段超えた彼等は皆、一流の兵士である。十余名という少数であるが戦車兵であるならばそれなり――大型生体兵器一体分くらい――の経験値が得られるかも知れない。


「いや、そうすると戦車に乗せてから殺したほうがいいか……」

 数名ずつに分けて拘束を解いて主力戦車に搭乗させ、車内にグレネードを投げ込み、殺害。修復キットで戦車のみを回復させるという手順を繰り返せば、それこそ大型生体兵器数体分という膨大な経験値が得られるであろう。


「い、命だけは……」

「お願い、何でもするから!」

 戦車兵の一部が命乞いを始めると、ニタァ、とスローターの口元が歪む。


 狂信者のスキル<精神汚染マインドコンテミネーション>は負の感情に働きかける。憎悪や淫欲などもそうだが、恐怖を増幅させることも可能である。死をも超えるような隔絶した恐れを畏怖へと変貌させることが出来れば彼等を更なる配下にすることが出来る。


 信仰には象徴が必要だ。タクムはそのシンボルを己の赤い瞳に統一することを決めており、早速、サングラスに手をかけた。


 精神汚染の成否には対象の意志が関係してくる。有体に言えば精神的に落ちている時には効果が高いのである。抵抗する意志を失くした敗残兵達ならば比較的容易に宗旨替えさせることが出来る。本来であれば数日から数週間、時に数ヶ月という長期に渡って行う必要があるそれも、二三時間あれば事足りる。


 それと同時、戦車兵を取り囲んでいた護衛部隊達から石が投げつけられた。


「何言ってやがる! この侵略者が!!」

「そう言って、お前等は何人の女子供を殺した!」

 次々に放たれる罵声。部隊を任されるようなその後の統治を考えれば、住民の不信感を買うような真似をするわけがない。ガンマの街で暴行を働いたのは一部の不良部隊であろう。ガンマ一族の追撃任務を任されるような一線級部隊に素行不良者が入れるはずがない。


 しかし家族を殺され、恋人を穢され、故郷を奪われた者達にそんな理屈が通じるわけもない。スローターの演説により、憎悪を増幅させられ、復讐心を滾らせた彼等ならばなおさらである。


 ――ああ、面倒くせぇ……。


 ここで戦車兵を擁護する発言をすればタクムの集めた求心力は失われる。自爆攻撃も厭わないような死兵を失うのは惜しい。しかし、戦車戦闘のプロである戦車兵も捨てがたい。


 ――さてと、どっちを切り捨てるかな……?


 サングラスに隠された朱色の瞳で両者を見比べる。


 二者択一。敵対する彼等を同時に支配することは難しい。ほぼ同数、更にどちらも有用であるならば希少性の高さで選ぶしかない。


「そりゃ戦車だ……」

 歩兵は数が多く、またガンマから逃げ延びた連中も多くいるだろうことから――護衛部隊に比べると質は格段に落ちるが――補充は容易であろうと思われた。しかし、専門家である熟練の戦車乗りは絶対数が少ないため、これを逃せばいつ手に入れられるか分からない。


 履帯を切られただけのT-64やT-55などは修理すればすぐさま使える。僅か10名程度の護衛部隊と主力戦車を駆る戦車部隊であればどちらを選ぶかなど考えるまでもない。


 ちなみに<特選部隊スナックペナズ>の隊員達は皆、ガンマ一族の信者だったため憎悪や復讐心を滾らせることは出来たが、引き抜き可能なレベルにまで洗脳するには至っていない。彼らが存在していれば天秤は間違いなく前者に傾いていただろう。


 タクムは、回収した戦車や装甲車をカフカの指揮の下、修理をしている特選部隊を横目に見ながらサングラスを外した。


 ふっと意識を切り替える。


「黙れ」

 戦車兵達に集まっていた視線が、一斉に赤い瞳に集中し――すぐさま離された。


「お前等に発言を許した覚えはない。次に喋った野郎は殺す」

 あれほど血気に駆られていた兵士達が押し黙る。全身から立ち上る濃密な殺意に怯えたのだ。


 それは生物としての生存本能が為せる業か、実際に一人か二人くらいは斬って捨てるつもりであったスローターはやや不満そうに剣銃<ドリームリッパー>の柄から手を離した。


「さて、部隊長は誰だ?」

 黙りこくる戦車兵。その内の一人――若い少年だ――が、仇の問いに答える謂れはないという挑戦的な目でタクムを見た。


 もちろんタクムは、最後の<ドリームリッパー>による一撃で隊長機を倒したことを知っている。情報を手に入れるための質問ではない。彼らの口でこう言わせたいのだ。


 隊長リーダーはお前が殺したのだ、と。


「その目ぇ、気に入らんな……」

 タクムは言うと少年の顔に手を伸ばし、


「あ、ああ、ぎゃ、ぎぁぁぁあぁあああぁぁぁ――ッ!」

 指先を目蓋の裏に押し込んで、そのまま眼球を刳り取った。その場で転げまわる少年兵。


「まったく、目玉ひとつでうるせえなぁ。も一つあんだから黙ってろよ」

 タクムは陽気に哂いながら、その顔面を踏み潰す。


「片目くらいじゃ死にやしねえよ、そうだろ、ベジー?」

「ああ、眼球を取ったところで出血量は高が知れている。せいぜい目が見えなくなるくらいだ」

 大げさだとばかりにスローターは肩を竦め、かつてガンマ最凶と呼ばれた殺し屋が応じる。


 <殲滅者>と<八百屋>の悪名はテレビや新聞、ゴシップ雑誌を通じて国外にまで知れ渡っており――国外での暗殺活動が多かったベジーのほうが名前が売れているようだ――二人の見せた残虐性は周知の事実だ。そして立ち上る強者特有のオーラから二人が本人であることは間違いない。悪魔のような人物である、記事の内容もまた事実なのだと戦車兵達は確信した。


 そうして恐怖が生まれる。


 生存本能という最も原始的かつ強力な本能が、鍛え上げた兵士達の心を狂わせていく。


「ベジー、俺に質問されたら、きちんと答えるのがマナーだよな?」

「ああ、彼らはどうやら死にたいらしいな……おいっ! いつまで呻いている! この蛆虫が!!」

 ベジーが目玉を刳り貫かれた少年兵士の腹部を蹴り上げる。


 ボゴッ! ボグッ! ブチュッ! ゴジュ!! 


 水滴混じりの音が破裂するような音が辺りを包む。


「タクムが! 話している! 最中だろう! 聞くか! 死ぬか!! どちらか選べ!! もういい死ね!!」

「ベジー、もういい。これ以上は死ぬぞ?」

「すまない……危うく獲物を横取りするところだった……」

「次から気をつけてくれればいいさ」

 タクムは笑顔で答え、しゅんと肩を落としたベジーを下がらせる。


「さて諸君、もう一度聞こう。部隊長は誰だ?」

 スローターが尋ね、

「応えろッ!!」

 ベジーが吼える。


 スローターの殺気が濃密な怨嗟、凍てつく憎悪を源泉とするならば、ベジーの殺気は燃え滾る狂った獣のそれである。主の命に背く者は何人足りとて許さない、そんな猛烈な意志の発露。


 気圧された戦車兵達の視線が一人の男性へと注がれる。


「まさかお前が部隊長か?」

「ハンッ、俺みてえな戦車馬鹿に中隊長なんて大層な仕事が務まるかよ」

 二メートル近い巨躯を誇る戦車兵が笑う。ビール樽のような腹に太い腕、白髪交じりの長い髭。さながらファンタジー世界のドワーフをそのまま巨大化させたかのようだった。


「先任軍曹ってやつか。名前は」

「チャイコフだ。先任みたいなもんだが、階級は少尉だ」

 どうやらこの部隊の中心は、隊長ではなく副官のこの男にあるようだった。


「そうか、ところでチャイコフ。死ぬのと国を裏切るの、どっちがいい?」

 タクムはそう確信すると、先任軍曹に向かって尋ねた。


「ああ? そりゃどういうこった?」

「そのままだ。この場で俺に無残に殺されるのと、祖国を裏切って俺の配下に付く。どちらを許容する?」

「ふざけるな!! 国を裏切るつもりなら最初から軍人なんぞやっちゃいねえ!! 俺を舐めてんのか、クソガキ!!」

 <精神汚染>を先ほどから試しているが、どうにも掛かりが悪い。恐らくはこの男が原因だろうと思われた。<殲滅者>や<八百屋>を目の前にしてこれほどの反骨心を示して見せた。恐怖に支配されかけている戦車兵達の拠り所となっていた。


「ここにいる連中もそうだ! 悪魔に魂を売るくらいなら、自ら死を選ぶってな! そうだろ、皆!?」

 戦車兵達は肩を震わせながらも小さく頷く。彼らは瞳に浮かんだ絶望に小さな光が灯った。


 タクムはチッと舌打ちをする。


 求心力を持った人間を無闇に殺してはならない。カリスマを持ったまま殺され――殉教すれば――彼は戦車兵達の中でたちまち神格化されてしまう。十字教におけるキリストのようなシンボルとなってしまう。彼は最後まで反抗した、ならば自分も反抗すべきだ。そう考える輩が出てもおかしくないのである。


 ――折角、隊長機を潰したのに……。


 タクムは内心舌打ちをする。普通、部隊の主柱である部隊長を殺せば士気は落ちるものだが、この戦車中隊の場合は先任士官によって士気が保たれていたようだ。先の少年のような連中が出てくるのもむべなるかな、と言ったところなのである。


「じゃあ、これもか?」

 タクムは足元のそれを顎でしゃくる。腹部を蹴り上げられ、少年戦車兵は血と泡を吹きながら気絶していた。恐らく内蔵の幾つかが破裂しているのだろう。半ば死に掛けの状態だ。


「当たり前だ! ボルシはなりは子供だが、立派なソフィスト軍人だからな!」

「そうか、残念だ」

 タクムは拳銃を引き抜くと少年兵を撃った。眉間を撃ち抜かれ、ビクンと体を硬直させ、その後すぐに少年は全身を弛緩させた。


 小さな悲鳴。


「残念だ。彼が従順な手下になるというのなら、生かしておいてやったものを」

 タクムは腰ポーチから取り出した回復薬ポーションを弄びながら言った。ガラス瓶は無色透明な液体を湛えている。少なくともB等級――四肢欠損でも即座に完治させる――は下らない高純度の治療薬であった。


「……なんて、ことを……」

 恐怖とは違う感情でスローターの朱い瞳で睨みつけるチャイコフ。


「しかしまあ、戦車兵は臭いがしなくていいな、ベジー」

 長時間狭い車内に篭るため、戦車乗りのスーツには糞尿を吸い取るパッドが付いている。おかげで殺しても血の臭いくらいで済む。


「うむ、楽でいい。そのまま焼却処分すればいいからな」

 ベジーは少年の髪の毛を引っつかむと、一まとめにした歩兵達の死体の山に放り投げる。


「てめえら、正気か!!」

「当然だ。俺は捕虜を取るつもりはない。それよりもお前等こそ正気なのか? 死か恭順か俺はどちらかを選べと言ったぞ? だから死を選んだこいつを殺した。間違ったことはしておるまい? チャイコフ少尉の言葉によればこの兵士は聞くまでもなく、殉死を選んだんだ。そうだろう、先任?」

「……許さねえ……」


「敗残兵の許可など取る必要はないだろうに。まあ、チャイコフのおかげで確認を取る必要がなくなった。感謝するよ。

 さて、諸君。公開処刑おまちかねの時間だ。手に手に石を持て。ゆっくりじっくり痛めつけながら殺すとしよう。おっと、女も居るな。これは別にしておくか。街に着いたら好きなように使って構わんぞ?」

 護衛小隊の面々に愉悦に似た表情が浮かぶ。暴力に身を委ねるなど軍人としてはあってはならない所業であるが、タクムのスキルによって彼らの心は軍役という枷から解放されている。一介の戦士、あるいは復讐者としてこの時を存分に愉しむつもりだった。


「い、いやぁ! やめてぇ!!」

 集団から引き釣り出される二名の女兵士。


 これから彼女を待つのは果てのない暴力と陵辱、その果ての死――。


「ま、待て! 待ってくれ!!」

「ん? なら、俺の軍門に下るのか?」

「下る……下るから……俺はどうなってもいい……こいつ等だけは……頼む……許してやってくれ……」

 先任士官の男が膝を付き、深々と頭を垂れる。


「いいだろう、少尉。その心意気に免じて、お前の命だけで済ませてやる」

 タクムはチャイコフの足元にコルトガバメントを放った。ベジーがすぐさま駆け寄って鉈で手足の拘束を解く。


「死ね。代わりに彼らの命だけは保証しよう」

 チャイコフの目が見開かれる。怒りにより震える肩。しかし、どれだけ睨みつけても罵声を浴びせても、この男は方針を変えるようなことはすまい。下手なアクションを起こそうものなら、全員を殺すといいかねない。


 奥歯が割れるほどに噛み締める。チャイコフは震える手で拳銃を握った。


「皆、は……生きろ……何があっても、絶対にッ…………」

「少尉!」

「おやっさん!!」


 手足を縛られた兵士達が這いずり寄ろうとする中、パンッ、という乾いた音が響いた。


「いや、いやぁぁああぁぁぁぁ――!!」

 悲鳴。


「この、この、この人でなしが!!」

 罵声。


「ちきしょう、おやっさん、なんで、俺達も……ッ!」

 慟哭。


 そうして柱は倒れた。士気は消え去り、この場にいるのは絶望を宿した敗残兵のみとなる。


「次はアレだな。お前等、この死体、踏みつけろ」

 タクムの洗脳は続く。



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