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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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ハメコンボ

『北東5キロ地点に有力な敵勢力を発見』

 偵察隊長からの通信に、ソフィスト連合第二大隊長サモワール中佐は顔を顰めた。


「またか……それで、規模は?」

『ハッ、戦車1輌、戦闘車両が2輌。例の護衛部隊かと……』

 サモワールは舌打ちをした。車輌が足りないことから、恐らくガンマ一族を逃がすための囮であることが分かる。


 敵勢力は規模こそ小隊程度ではあるが、ガンマ軍が誇る精兵ばかりを揃えた護衛部隊だ。加えてガンマ子飼いの<特選部隊スナックペナズ>まで付き従っているとなれば、戦闘能力はそこらの中隊とは比較にならないほど高いと考えたほうがいい。


 油断など出来るはずもない。迂闊に踏み込めば無用な犠牲が出ることは分かり切っていた。本来であれば時間を掛けて偵察を繰り返し、敵陣形や敵戦力、拠点を確認し、地理を把握し、少しずつ少しずつ戦力を削ぎ落としていくべきような相手である。


 しかし、彼等には時間がない。


 一族が乗ると思われる最新式のM1126ストライカーは機動力に優れた装輪装甲車である。整地での最高巡航速度は時速100キロを超える。荒野を平らに整えただけの34号線でも70キロ以上で移動することが出来るだろう。

 護衛部隊が消えたこともあり、今後は生体兵器や野盗への警戒もしなければならないことから若干、その足は鈍るだろうが、もはや時間的な余裕は皆無と言っていい。


 デルタの街に逃げ込まれれば現在の戦力ではどうしようもない。策源都市の戦士達はそれこそ経験豊富な古参ヴェテランばかりだ。それが5万。数で負け、質でも負ければ勝てる道理などあるはずがない。


 ――ここは……多少の消耗を覚悟の上で……。


 サモワール大隊の最大の敵は時間であった。最短で敵を打ち倒し、最速で護衛車輌に追いつかなければいけない。10輌を超える戦闘車両、完全機械化された歩兵100名という大戦力で追撃戦を挑んでおきながら、みすみす敵の首魁を取り逃がしたとあっては連合軍人の名折れである。


 ――いかん、何を考えている……消耗なんて陳腐な言葉に逃げるな。


 消耗とはつまり、隊員の死であった。部下とはいえ、同じ戦場に立ち、死地を共に分かち合った戦友達の死なのである。


 その時、副部隊長であるチャイコフ少佐からの通信が入った。


『何、ビビってんです、隊長。グズグズしてたら逃げられちゃいますぜ』

 安い挑発だった。しかし、余裕を失っていたサモワールはそれに乗ってしまう。上官相手になんて口の利き方だ、減棒するぞ! 抗議しようと自然とハッチを空けていた。


 そんな彼の視界に広がるのは横一列に並んだ戦闘車両の群れだった。その内の戦車6台がすっと前に進み出てくる。


 その中から更に突出する主力戦車――副長が駆るT-64が長大な115ミリ滑空砲を掲げながらすっと前に進み出てくる。


『アンタの優しさは嬉しいがね、勘違いしてもらっちゃ困る。俺達、軍人は仲良しこよしはしちゃいけねえ。なあ、そうだろう? 俺達は何のために戦車に乗ってんだ?』

 歴戦の戦車兵らしいチャイコフ少佐のしゃがれ声は、サモワールの日和った心に酷く沁みた。


「……そう、だな」

 サモワールは通信機に口元を押し当てると、全車両へ向けて回線を開いた。


「北東5キロ前方に敵の主力を発見した。全車、楔形陣形パンツァーカイルを組め! そのまま踏み潰すぞ!」

『野郎共、聞こえたか!? この七面倒臭い追いかけっこもこれで終いだ!! 隊長の奢りで女抱くぞ!!』

『うぉぉぉ―ー! マジか! マジなのか!?』

『滾ってきた!』

『隊長太っ腹! さすがむっつりダヌキの異名を取る男!!』

『……男って最低……』

『……ほんとよねー、ほんと下品ー』

『お前は男だろ、ボルシチ』

『煩ぇ! いいからさっさと隊列組めや! このヒヨッコ共が!!』


 チャイコフのいつも通りの怒声にサモワールは苦笑いを浮かべた。緊張をほぐすため、大きく胸を逸らし息を吸い、


 ――爆炎に包まれる戦車を見た(ドゴォォォォォォォォ!)






「地雷だとッ!?」

 サモワールが声を上げた。有り得ない。護送部隊は取るものも取り合わず、一目散にガンマから逃げ出したのだ。それがどうして対戦車クラスの大型地雷などを保有しているのだ。


『ボルシチ! 大丈夫かてめ!?』

『大丈夫よん。もう、びっくりしちゃったわん』

 擱座したT-55から通信が入る。


 サモワールはほうと胸を撫で下ろしかけ――戦車から上がる火柱に言葉を失う(ゴォォォォォォォォ!)


「なっ……焼夷弾……」

 対戦車地雷によって履帯を断ち切られた戦車は、もはや動くこともままならない。そんな状態で焼夷剤を装填した砲撃を食らえば――戦車装甲はともかく――内部の乗組員は生きたまま蒸し焼きにされることになる。あるいは火柱内部の枯渇により発生した一酸化炭素により、中毒死するだろう。


『……なんて……えげつねえ真似しやがる!!』

 本来であれば戦車や装甲車を一輌、戦線から外し、救助に当たらせなければならないが――


 ――戦車から更なる火柱が上がる(ドシュゥゥゥゥゥゥゥッ!)――焼夷砲弾は二発、三発と今も吐き出され続け、火力は弱まるどころか強くなる一方であった。


「くっ――ダメだ、これでは間に合わん……なんでこんなことに……」

『落ち着け、隊長! 道中で武器商人かなんかと合流したんだ。地雷はまだあるぞ!』

「――ッ!? 工作兵は今すぐに視認!!」

 ぼやぼやしている暇はない。サモワールは通信機ですぐさま指示を出した。この世界では地雷はあまり使用されない。開拓者や軍の部隊では必ずと言っていいほど罠探知スキルである<ブービーチェック>持ちがいるからだ。肉眼での視認が必要であるが、車輌を止めずに地雷を確認することが出来る。


 戦車あるいは装甲車のハッチから次々に工作兵が顔を出し――その頭部を弾き飛ばされていく。悲鳴と混乱が部隊の専用回線を飛び交った。


『黙れ、ガキ共!! 狙撃兵だ! 探索兵は<サークルレーダー>だろうが!』

 チャイコフの怒号に皆が静まり返る。<探索兵>達はスキルを発動させたのだろう、次々に応答が返ってくる。


『くそ、駄目だ。ひっかからん!』

『こっちもダメ! 一体、どこにいるのよ!?』

『狙撃手は範囲外にいるのではないか……』

『……馬鹿な……サークルレーダーの範囲は500メートルだぞ……』

 移動物、しかも500メートル以上も離れた距離から頭部を確実に撃ち抜くなど正気の沙汰ではない。500メートル以上も離れた距離に潜む、擬装された狙撃手などどうやって探し出せばいいというのか。


隊長ぼうず! 何ぼやっとしてやがる!!』

「縦隊隊形! 先頭は……」

『俺が行く! 小僧共、付いて来いよ!!』

 T-64が猛烈な加速で先頭車両を追い抜いた。ソフィスト連合の新型主力戦車であるT-64の前部装甲に追加装甲板を貼り付けた副長機なら強力な120ミリクラスの砲弾にも耐えられる。


「チャイコフ!」

『なに地雷踏んだら、そのまま後続がカマ掘って運んでくれりゃあいいだけだ。そんでそのまま盾に使え。何、T-64なら死ぬことはねえだろうよ』

 チャイコフ機は地雷除去車の役目を買って出た。縦一列に並べば先頭車両だけが対戦車地雷による攻撃を受けるだけで済む。対戦車地雷とはいえ、重厚な主力戦車の底板を撃ち抜き、内部の人員を殺すことは――炸薬量を増やすなどすれば可能ではあるが――難しい。例え履帯が切れたとしても、後ろから他の車輌に運んでもらえれば蒸し焼きにされることもない。


 ついでに地雷では強力な115ミリ滑空砲はもちろん、重厚な前部装甲板も傷つけることは不可能であるため、盾役としての機能も果たせる。


「これで一安心か――……ッ!!」

 そうして後続車輌――73ミリ滑空砲を備えたBMP-1が爆発炎上した。対戦車地雷と同等かそれ以上の威力でもって装甲車を弾き飛ばした。


『……リモート爆弾……奴等は悪魔か……』


 敵陣地までの5キロが限りなく遠い。道程はいまだ半分以上残されているというのに既にして戦車1輌、装甲車1輌、20名近い兵士が命を落としている。


「全速だ……全速! 全車、全速前進!! さっさとこのクソったれた地雷原を抜けるぞ!!」

 戦闘車両の群れが荒野を一直線に駆けていく。


 そうして彼等が敵の塹壕地帯にまで到着した時には、さらに1輌の戦車が壊され、2輌の兵員輸送車が潰されていたのであった。



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