指揮官
カフカ率いる<特選部隊>や護衛部隊と合流したタクム達は早速、迎撃準備に入った。
ストライカー装甲車とシーサーペント1輌はご老公を始めとするガンマ一族護送のために使用できない。タクムは現状の戦力を洗い出した。
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■戦車
M16パットン
・105ミリ戦車砲
・ブローニングM2(12.7ミリ重機銃)
■装甲車
M1126ストライカー
・40ミリグレネードマシンガン
・ブローニングM2
■自走砲
M22シーサペント
・106ミリ無反動砲
・ブローニングM2
M22Bクラーケン
・20ミリチェーンガン
■歩兵戦力
20名(鉄屑兵団:2/特選部隊:7/一般歩兵:10)+1
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対する敵部隊は以下となる。
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■戦車
T-64×2
115ミリ滑空砲
DShK38重機関銃(12.7ミリ重機銃)
T-55×4
100ミリ戦車砲
DShK38重機関銃(12.7ミリ重機銃)
■装甲車
BMP-1×2
73ミリ低圧滑腔砲2A28
PKT機関銃(7.62ミリ)
■兵員輸送車
BTR-40×6
SG-43機関銃(7.62ミリ)
■歩兵戦力
100名以上
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人員は元より、戦車や戦闘車両の数でも完全に負けている。常識に照らし合わせて考えるならここは撤退すべき場面である。
「ジジイ、よくこんなんで戦おうと思ったな」
ストライカー装甲車より飛び出してきた装甲服姿の老人に笑いかける。希代の英傑はその名前に相応しい威容の持ち主であった。二メートルはあろうかという巨躯に衣服の上からでも分かる隆々とした筋骨。見事な禿頭に褐色肌。左のコメカミから頬を縦断する刀瑕。掛けた右耳。歴戦の勇士であると疑うものはいないであろう。
「ほっほっほっ、怖気づいたか、スローター? ワシさえおればこの程度の戦力差屁でもないわ」
衰えを感じさせないぴんと伸びた背筋、タクムをかくしゃくとした口調で言う。
「護衛対象が出てきてどうする」
「ワシはもう伯爵位から退いたからのう。守るべきは愛すべき子供等よ」
ハッチの開いた装甲車より、心配そうな視線を投げているのはガンマ一族の子供達であった。ひ孫に当たる世代である。この偉丈夫は強面に似合わず非常に子煩悩なことで知られている。
「スプリッツ、子供等を頼んだぞ」
「お爺様こそご武運を」
スーツ姿で言うのは現ガンマ伯であるスプリッツ・ガンマである。ガンマ都市軍司令官、カール大佐の実兄でもある人物だ。
頭でっかちのインテリ眼鏡。タクムは心の中でそう評した。
「ハッ、現当主が老人に守られていれば世話ねえな」
「ほっほっほっ、可愛い孫に噛み付くのは止してくれ、スローターよ。職分というやつじゃ。ワシは戦場にしか居場所のない戦闘馬鹿。政治は苦手でのう、嫁等が頑張ってくれんかったらガンマは財政破綻で潰れていたじゃろうな。スプリッツもそう。戦うことは出来んが、政治屋としては大したもんじゃよ。身贔屓を除いてもな。ワシもきゃつが残っているから安心して戦場に出られるというなんじゃ」
「まあいい、なら非戦闘員はさっさと護送してくれよ」
カフカは「頼む」と特殊部隊の隊員であろう男に頷きかけた。
「ライム」
「え、あ、あたしも逃げていいの?」
「ああ、お前には荷物を運んでもらう」
「え、ほんとに……あたしだけ……いいの?」
「足手まといはいらん」
ライムの<音響爆撃>の威力は、彼女のテンションに比例する。対人戦闘の経験の少ない――人殺しに忌避感を持っている――彼女では望むべき威力は得られない。
「そういう言い方は……」
「大丈夫よ、ベーにゃん。にゃーではあんまり役に立ちそうににゃいもにょ……」
もそもそとライムが言う。対人戦闘ではテンションが上がらない。上げようがない。平和な日本生まれて、平和にアイドルを目指してきた彼女にとって人殺しでハイになれるはずがないのだ。
「ハッ、今更シリアスを演じられても困る」
タクムはそんな彼女を鼻で笑う。弱い彼女を嗤ってやる。
「アンタ、ほんとさいってー」
「褒め言葉だ。しかし、自分の役割も理解出来ない脳足りんに言われたくはないがな。分かるか、腐れアイドル。お前の仕事は運搬だ。荷物はガンマ一族。せいぜい励ましてやることだな。出来るだろう? お前の歌には物理的な力があるんだから」
ライムが、ベジーが、揃って顔を上げた。その頃にはもうタクムは二人に背を向けており、カフカと打ち合わせを始めていた。
「見てろ、スローター! やったろうじゃないの!! きっちりかっちりパーペキに偶像こなしたろうじゃにゃいのー!!」
ライムは言うと、ドラゴンワゴンに飛び乗った。
「上手いもんじゃの~。このアイドル殺しめ」
カフカのニタりとした笑みに殺気の篭った視線を送る。背後でベジーがコクコクと頷いているところにタクムは頭を抱えた。素直すぎるだろう、殺し屋。
「戦意向上は指揮官の務めだ。それより作戦会議、始めるぞ」
タクムは地図を広げ、その上に小石を置いた。ガンマ=デルタ間を繋ぐルート34は前半が延々と続く荒野であり、後半は山間地帯となる。山だが日本のように木々に覆われているわけではない。
遮蔽物が少ないのは火力に劣る迎撃側としては辛いところであった。互いに隠れられる場所はないのであれば後は単純な火力勝負。戦車戦では間違いなくあちらに軍配が上がる。
そのため迎撃ポイントとして選んだのが――現在位置――山の裾野にある岩石地帯となった。これに加えてタクムは特選部隊や護衛小隊に指示をして、塹壕を掘らせることにした。
敵部隊の現在予想地点はここから20キロほど後方にある。捨て駒に使った開拓者をさっくり倒して北上中だろうとのことだ。
30分もすれば接敵する。
三台のマイクロ戦車のワイヤーアームも導入して急ピッチで行われている。ついでにコンテナ内にあった対戦車/対人地雷やクレイモア、遠隔爆破可能なC4爆弾を提供し、工作兵達に配置させていく。迫撃砲も2門あったため一般歩兵に提供した。まさに総力戦といったところである。
しかし、時間も罠も足りない状態ではまともな防衛拠点など作れるはずもない。
起死回生の一案どころか、まともな作戦も立てられる状況ではない。
作戦の基本方針は『適当にやれ』であった。タクム達開拓者、特選部隊、一般兵にあたる護衛部隊、急場の混成部隊ではまともな連携など取れるはずがない。幸いにも一人一人の兵士の質、戦闘能力ではこちらが上回っている――護衛部隊とて一般兵から選りすぐられた精鋭だからだ――なれば各員が持てる最大火力でもって一人でも多くの敵兵を道連れにするのが正解であろう。
「ふむ、罠でどれだけ削れるかのう」
禿頭を叩きながらカフカが言う。
「知らん。戦車と殺り合うのは初めてだしな」
「ほほ、そのくせ指揮官役を奪い取るとは大口を叩いたのう?」
「俺の邪魔をされたくないからな」
ほっほっほっ、とカフカが笑う。隣に座るトンガ・リ・コン少佐は殺気の篭った視線とは好対照である。
「のう、スローター? ワシ等は勝てると思うか?」
「ハッ、問題ないな」
――敵を殺すだけなら、な。
タクムはニタリと残酷な笑みを浮かべた。
「交渉は?」
「ああ、上手くいったよ。基本報酬2000万ドルに出来高払いだ」
臨時のブリーフィングルームと化していたストライカー装甲車からタクムが出てくると、鉈、小銃、ロケットランチャーと完全装備のベジーが駆け寄ってくる。
タクムがわざわざ意味のないブリーフィングに参加したのは、依頼の詳細――指揮権の所在や報酬面の詰めを行うためであった。
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依頼ID:EX1203013
表題:【緊急】敵部隊の迎撃
カフカ率いるガンマ軍特殊部隊と共に敵部隊を迎撃せよ。
なお、戦闘時の指揮権は貴隊に一任する。
報酬額
基本報酬:20,000,000$
出来高
戦車 :2,500,000$
装甲車:1,500,000$
車輌 :500,000$
歩兵 :5,000$
なお、提供された地雷や罠での討伐の場合、ボーナス額の半分を報酬として支払うものとする。
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タクムは岩石地帯の中でも一際大きな岩に昇った。その足元にはベジーが立つ。
誰もが作業を止め、事の成り行きを窺った。
この戦闘での指揮権がタクムに――<殲滅者>に一任されていることは既に周知されている。<鉄屑兵団>のことは知らなくても、<殲滅者>に<八百屋>ベジーの名を知らぬ者はいない。
「総員作業止め!! 集合!!」
ベジーが声を張り上げると、全ての兵員は作業を止めて駆け足で並んだ。
この場にいるのは護衛部隊も含めて忠誠心に溢れた精鋭ばかりである。指揮官の変更に不満や、それがかの悪名高いスローターだからといって従わない道理はない。
「これより指揮官からの挨拶がある!! 総員、傾注ッ!!」
副官たるベジーが命令を発した。兵士の視線が指揮官へと集まった。
タクムは小さく息を吸うと、掛けていたサングラスを外した。
居並ぶ将兵達に動揺が走る。
朱色の双眸。開き切った瞳孔から放たれる圧倒的強者の雰囲気が兵士達を黙らせた。
「諸君、我等を害する輩がいる。諸君等の故郷を襲った敵共である」
なぜカフカ等、ガンマ一族が街を離れたのかについてタクムは聞き及んでいる。
ソフィスト連合――スター都市国家連合と共に世界の覇権を争う大国――に戦争を仕掛けられたのだ。
「卑劣な手段で街を襲い、女子供区別なく犯し、殺し! それは今もなお続いている!」
宣戦布告も使者もない、一方的な先制攻撃。気が付けば200輌を超える戦闘車両に囲まれていたという。開拓者に扮した工作兵によって――現在、ガンマは開拓者不足であったため登録者の身分などをろくに精査していなかった――仕掛けられた爆弾が城壁は破られた。
突然の強襲であったため、組織的な抵抗を試みることは不可能であった――効率の良い素材確保のため上層部が出払っていたのも一因となった――軍ならびに開拓者達は各個撃破されていく。
そして始まったのが略奪だった。この世界に戦争条約など存在しない。ソフィスト連合の兵士達は街を一方的に蹂躙した。それは人の姿に扮した獣であった。金があれば奪い、反抗する者は即座に殺し、その死した男の前で妻を、娘を、恋人を犯す。
その話を聞いた彼は、この世界に対する認識が正しかったと確信した。
「そして今、諸君等はその憎き相手に踏み潰されようとしている! それは何故だ!? 何故、諸君等が、諸君等が愛する者が、このような目に遭わねばならないのか!?」
この場にいるのは家族を、友を、恋人を――危険な占領地帯に置き去りにして任務に就いた者ばかりである。己の職務と愛する者の安否を天秤に掛け、前者を取った忠実なる政府の犬。
しかし、彼等に愛情がないわけではないのだ。彼等は荒れ狂う感情を、強靭な理性で押さえ込んだだけなのである。
「力だ。力がこそが正義だからだ! どんな不条理も力さえあればまかり通る!! この世界のルールだからだ!!」
――が、今はそんなものは不要だ。
劣勢な状況において一兵士に必要なものは憎悪と殺意と忠誠心。理性は指揮官さえ保っていられれば問題ない。
「問おう、奴等が憎いか!?」
最初の問いに兵士達は咆哮で応えた。
「問おう、奴等を許せるか!?」
次の問いに兵士達は中指を突き上げた。
「力が欲しいか!?」
兵士達が天高く腕を挙げて絶叫する。
スローターが大きく息を吸う。朱色の瞳が凄惨な光を宿す。ただひたすらに一つの物を求め、代わりにこの世の統べてのものを壊し、穢し、殺戮すると誓った<狂信者>だけが持てる瞳。
「くれてやる! くれてやるぞ!!
奴等を蹂躙し、殺戮し、同じ屈辱を味遭わせるだけの力を!!
絶望の淵に叩き落せるだけの力を!!」
――<精神汚染>。強烈な信仰心を周囲の人間にばら撒くことで使用者への<信者>を増やす狂信者専用の神経系スキルである。
本来であれば数日、あるいは数ヶ月という時間をかけて重ね掛けしていかなければならないスキルであるが、今、この時だけは例外である。
植え付けられた感情が、対象の意に沿うものであればあるほど浸透率は高くなる。
スローターが放った信仰は<復讐心>。連合軍により、街を蹂躙された彼等の憎悪は完全に煮詰まっている。そんな時に復讐を肯定されてしまえば殺意は容易に信仰心へと傾くだろう。
「将兵よ! 咆哮しろ!!
我等に挑む愚か者を殺害しろ!!
全ての者を灰燼に!!
全ての物を鉄屑に!!
殺して殺して殺しまくれ!!
この俺様に付いて来い!!!」
タクムは兵士達の目の色が暗く澱むのを見て、胸中で哂うのだった。




