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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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突発イベント 都市戦争

 二人を下がらせ、ドラゴンワゴンの銃座に腰を落ち着ける。夜間戦闘は経験したことがなかった。万一のこともあろうと、目視や聴覚による探知と常時掛けっ放しにしている<サークルレーダー>を併用して警戒を蜜にする。


 探知スキルを掛け直し、タクムは更に警戒を続けた。普段行う狙撃による狩りに慣れているため、2時間程度の待機を続けることなど何の問題もない。


「ん……?」

 <サークルレーダー>を掛け直し、そろそろ交代という時間になったところで狙撃手として鍛えられたタクムの視力が違和感を伝えた。


 ガンマ方面に目を向けると遠く、豆粒以下の小さな光が移動しているのが見えた。車輌のヘッドライトだろう。タクムは偵察用に購入しておいた暗視双眼鏡を覗き込む。


 5輌ほどの戦闘車両の群れ。2輌のストライカー装甲車が先行し、その左右をM22自走砲シーサペントが取り囲む。その背中を守るようにM60パットン――第一世代主力戦車――が続いている。


「撤退戦か……」

 部隊の主軸である主力戦車を背面に配置していること、また主力戦車の長大な105ミリ戦車砲が後方を向いていることから、タクムは状況を察する。


「起きろ」

 タクムは緊急回線を開く。


『ふわ~、にゃんだよ、今、寝付いたばかりだっちゅーに』

『何かあったか?』

「戦車が近づいてきている。総員、戦闘準備」

 ライムの戯言は無視し、ベジーの問いにだけ端的に答えたタクムは、続けざまに指示を出す。


『承知。1分で整える』

『え、えッ、マジ? もしかして軍が追ってきたの!?』

 ほとんど夜逃げ同然でガンマから逃げ出したタクム達を、街政府やそれに指示された軍が追いかけてくることは考えられた。


 しかし、可能性は低いとタクムは踏んでいた。軍は近隣の生体兵器狩りで忙しいし、大量の在庫を浴びせ売りしたことで大恐慌は沈静化しつつある。これ以上、余計な波風を立てるのは政府としても容認しがたいことであろう。


 そもそも彼等がタクム達を追ってきたというのなら、この編成はおかしい。先行すべきは戦車か偵察車輌としても使用可能な<シーサーペント>であるべきだ。ストライカー装甲車には10名からなる戦闘部隊が乗っているはずだ。それを矢面に立たせるのは意味がない。


「知らん。今から聞く。お前等は黙って迎撃準備をしろ。ベジーは<クラーケン>に搭乗。ライムはドラゴンワゴンのキーを回しておけ。いつでも撤退できるようにな。以上だ! 死にたくなければさっさとしろ!!」

『承知!』

『わ、わかったにゃん!』

 タクムはドラゴンタンクの銃座から連結されたコンテナの屋根に飛び乗った。鉄ワイヤーを取り外すとすぐさま<ツヴァイホーン>を機動させる。


「こちらガンマギルド所属<鉄屑兵団スクラップ>。そちらの所属と目的を言え。それ以上、近づくというなら迎撃の準備がある」

 通信機を操り、オープン回線に繋ぎ直しながら、タクムは言った。


『ガンマの開拓者か! 助かった! 緊急依頼を発行する! すぐに受諾してくれ!!』

 通信兵の声が帰ってくる。


-------------------------------------

依頼ID:EX1203012

表題:【緊急】重要人物の護衛

さる重要人物を護送中であるが敵部隊より追撃を受けている。

策源都市デルタまでの護衛として雇い入れたい。


報酬額:1,000,000$

-------------------------------------


「緊急依頼か……」

 公募するなど正規の手順を踏まずに直接、開拓者に発注する依頼のことを緊急依頼という。発行できるのはギルドの管理者権限を持つ者だけであり、恐らくはその権限を持つ者が護送中の重要人物なのであろう。


 こちらの所属もろくに確認しないとは、そうとう切羽詰まっているようだ。タクムはぽつりと呟きながら情報端末のパネルから敵部隊情報をタッチする。


-------------------------------------

敵部隊情報

6輌の戦車からなる戦車小隊。

並びに

2輌の装甲車、

7輌の兵員輸送車、

総勢100名からなる機械化歩兵小隊。

-------------------------------------


「なるほど中隊規模か……豪勢なことだな。ベジー、クラーケンをコンテナに戻して待機。ライムは車を出せ。全速力で目的地まで向かう」

 オープン回線を閉じ、パーティ専用のプライベート回線に繋ぐとタクムは矢継ぎ早に、指示を出す。タクムも機械馬を駆り、コンテナの屋根に飛び乗った。


 ガンマ都市軍ですら大隊――1000名規模の部隊であることを考えれば、その規模の大きさが分かる。都市防衛に必要な戦力の1割――貴重な戦車小隊が随伴していることを考えればそれ以上の戦力――をたかが個人のために投入していることからも事の重大性が理解できる。


 車輌が走り出したところでタクムは再び護衛部隊と回線を繋いだ。


「すまんが、この条件では承諾できないな」

『なっ!? こちらにははく……ギルドの緊急依頼だぞ!?』

 断られるとは思わなかったのだろう。緊急依頼には強制力がある。従わない場合には脱退処分、最悪、拘束される可能性すらあった。


「馬鹿を言うな。この敵戦力相手に100万ドルでは少なすぎると言ったんだ。適正価格ではない。承諾したら承諾したらで、護衛部隊の後方で足止めしろとかそんなだろう? 要するに捨て駒だろう?」

 生き残りたくば戦車3台、100名からなる機械化歩兵を殲滅しろということである。一億円で命を捨てろ、この通信兵はそう言っているのだ。


『そ、そんな役割はさせん……』

「じゃあ聞くが、なぜ他の開拓者の部隊がいない?」

 護衛部隊は恐らく軍属であろう。主力戦車、最新式の装甲車、軍が大量に調達しているマイクロ戦車と来れば疑いようがない。中隊規模の人員を動員するような大人物を守るのに、どこの馬の骨とも分からない開拓者は使わない。


 そもそも公人を守るのは軍の職務であろう。護衛対象に管理者権限を持つ者がいることから、重要人物が公的な職位を持つ人間だと分かる。ギルドの管理者権限は、各都市ギルドの支部長や幹部、あるいは所属する都市の首長や政府高官だけなのである。


「大方、高額報酬に釣られた開拓者達を追従させておいて、敵に追いつかれそうになったら逐次投入してきたんだろう? 戦車砲で脅しでもかけたか? 殺し文句は、そのまま街道の障害物にしてもいいんだぞ? かな?」

『ち、違う! 我々は脅しなど……』

「なるほど、やはり道中で開拓者を雇い入れたんだな。彼等はどうした? 開拓者に、自己犠牲なんて尊い精神を持ち合わせているはずがないが?」

 カマを掛けられたことに気付いた通信兵が呻く。


 ククク、とタクムは楽しげに嗤う。プライベート回線を開いたまま、オープン回線にも接続する。通信兵にも聞こえるように指示を出してやる。


「ベジー、後ろから<クラーケン>でトラックを押してやれ。少しは速く移動できるだろう。俺は地雷でも街道に撒いておく。戦車砲で脅されてはたまらん。このまま連中を敵部隊とかいうのに押し付ける」

『承知した』

 コンテナから飛び降りたマイクロ戦車がワイヤーアームでトラックを押し始める。


『き、貴様……ッ! 今、この車にどなたが乗っておられるか』

「関係ない。俺は、俺の相棒以外に興味がない。それ以外は全て意味がない」

 タクムは淡々と言った。電子を介しても分かる冷徹な声音に通信兵のみならず、ライムやベジーまで息を呑んだのが分かる。


「交渉は決裂だ。それじゃあな。精々、頑張って生き残ってくれ」

『……待て! 貴様……』


「よし、出発だ」

『承知』

『アンタ、意外といい奴なのね……これが噂のツンデレ……』

 若干一名、勘違いしている輩がいたが、タクムもベジーのも誤解を解くようなことはしなかった。この状況で彼女のイカれた言動に付き合っている暇はない。


『トンガ、通信を代わってくれるかね』

 タクムが通信機を落とす寸前、しゃがれた男の声がした。


『部下が失礼したね、<スローター>殿』

「気にしなくていいぞ、ご老公」

 タクムは言う。ご老公とは先々代の伯爵の呼び名であった。


 初代ガンマ首長。


 カフカ・ロッテリア・ガンマ。かつての一軍を率い、古代遺跡ガンマに蔓延っていた生体兵器を蹂躙、支配たる最上位生体兵器<フェザーフェンリル>を討伐した稀代の英傑の名前である。


『ほっほっほっ、その名で呼ばれるのも久方ぶりじゃな』

「いや、聞き覚えのある軍人さんの声だったもんでな。政府の犬で有名な男がぶんぶん尻尾振るようなご老人っつたら一人しかいねえだろ?」

『貴様ッ……』

「ジジイ、交渉したけりゃ、まずはその犬黙らせろ」



『ほっほっほっ、元気じゃのう。しかし、さすがにトンガをして切れ者と言わしめるだけのことはあるようじゃな。これは心強い。で、スローター。単刀直入に聞こう。幾らなら引き受ける?』

「今の条件では、この百倍は貰わなければとても引き受けられんな。あいにくと俺は金だけは唸るほど持っている。100万ドル程度のはした金で折角そろえた戦力を捨てられん」

 さしものスローターとはいえ、戦車付きの中隊戦力相手に無傷でいられるとは思えない。タクムならあるいは戦い抜けるかも知れないが確立は五分といったところ。数は暴力だ。多数の敵から攻撃が集中されれば――回避ルートを完全に潰されれば<弾道予測>も意味はない。戦車砲が直撃すればさしもの<スローター>もゲームオーバーだ。


 ライムやベジーを投入すれば勝率は限りなく高まるであろうが、そうなれば二人の内どちらか、あるいはその両方が消耗するしぬはずだ。タクムにとっての最終目標グランドフィナーレであるデータ復旧アイテムイベントならばともかく、こんな下らないイベントのために消費させることは出来ない。


『分かった、今の20倍出そう』

「話にならん。呆けたか、老人」

『迎撃要員として雇うと言っても?』

 カフカは撤退ではなく、撃退すると言った。彼は齢八十を超えているはずだ。いい歳こいた老人が血の気に走っているのか。


「おいおい、ジジイ。年寄りの冷や水って言葉知ってるか?」

 タクムは嗤った。


『ガンマが誇る<特選部隊スナックペナズ>に<スローター一味>が加わるのだ。たかが戦車二個小隊、100名程度の兵隊も始末できんか?』

 なるほど、タクムは納得する。<特選部隊スナックペナズ>――上位兵種を持つ、尉官以上で構成された選抜部隊――が加わるならば取れる戦略の幅も増える。ついでにM60パットンやストライカー装甲車などの戦闘車両が加わるのも大きい。通常、戦車を屠れる兵器というのはやはり戦車砲を持つ戦車以外にないからだ。


「いいだろう、だがジジイ。お前はひとつ勘違いしている」

『ほう? ワシの何が間違っていると?』

「いいか? お前等に俺達が加わるんじゃない。<鉄屑兵団おれたち>が<特選部隊いぬども>を使うんだ。お前等には俺の下についてもらう。それが最低条件だ」

『ふは……フハハハハ、言いよるな。小僧! いいだろう、お前さんの力を見せてもらおうか』

 通信機の先、カフカの大きな声が響き渡った。



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