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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スローター
43/90

放送事故

 ――断罪TV。


 年に数回行われるテレビの特番番組である。不正を犯した役人や軍人などを集団で問い詰め、断罪するという趣旨で、その過激な内容から一部の人間から人気を博していた。


 断罪TVにおける被疑者――いわゆる断罪対象は、カードに罪状のない人間である。法律システム上、捕らわれることのない相手、裁かれることのない相手、しかし、システムの隙間を潜り抜けて好き勝手をやっている。


 一言でまとめるなら、ムカつく野郎がいるから集団リンチして、お茶の間に晒そうぜ! である。


「みなさん、ご覧頂いておりますでしょうか。断罪TV春の真夏の生裁判スペシャル。今夜、あの『狩りに往けるアイドル』こと、ライム・ダッチャーさんが、かの悪名高いスローターを断罪します」

 カメラの向き先がアナウンサーからライムへと移った。


「こんばんにゃー、歌って踊れて戦える、みんなのパワドル、ライムちゃんにゃよー」

「ライムちゃん、今日はあのスローターが相手とのことだけど、本当に大丈夫かな? 心配です」

「ふふん、全然平気にゃよ。なぜなら今夜は心強いにゃーのファンが力を貸してくれるからにゃー! みんなー、準備はどうかにゃー!?」

『うおぉぉおおぉぉぉ――!!』

 野太い声を上げたのは、装甲服の上からピンク色のはっぴを来た男達であった。勢い余って空に向かって小銃を乱射し始める者までいる。


「本日の裁判も盛り上がりそうです! あ、実況はガンマTVアナウンサー、ワリト・シャベルの実況でお送りします」





「ねえ、スロータさん、お家入れてくれないかにゃん☆」

「どうでもいいけど家の中では撃つなよ。壁に穴が開く」

 タクムが正門前のロックを解除すると、男達がライムを囲うようにして移動を開始する。まさに人の壁である。


 肉壁がどかどかと鉄靴の音を響かせながら玄関に侵入、リビングに突入してくる。ライムとテレビクルーが部屋の中央に向かい、ピンク色の親衛隊達は壁を囲むように部屋の隅に寄った。


 リビングは40畳以上もあるはずなのだが、かなりの息苦しさが感じられた。


「今日はお招きいただきありがとうにゃん」

「呼んだ覚えはないが……ああ、楽にしてくれ」

 招き猫のポーズを決めるライムにタクムはソファーを勧めた。


 ――<越後屋サービス>ライム。


 アイドルにして一流の殺し屋である。本業はもちろんアイドル。むしろ暗殺稼業は知名度を上げるための副業に近い。近接格闘に加え、銃撃戦闘まで可能な彼女を人はパワドルあるいはバイドル(バトルアイドルの略)と呼ぶ。


 『強さ』こそ正義なこの世界において、優れた戦闘能力を示すだけでなく、容姿にも優れ、歌や踊りまで嗜む彼女は、どこの世代からも人気があるのだが、その中でも特に戦闘従事者――開拓者や軍人からの人気は絶大なものがあった。


 男のロマンを理解してくれる女性は少ない。実用性のない物――元の世界でいえばオープンカーやプラモデルであろうか――に対する女性の不理解は誰しも一度は経験するものである。


 例えばS&W M500という大口径拳銃がある。50口径(12.7ミリ)のマグナム弾を発射するそれは連続で撃てば手が痺れて字が書けなくなるという化け物めいた反動を持つ人を選ぶ銃。残念ながら、汎用性は低いと言わざるを得ない。


 大抵の女性はS&W M500を使えない銃と断ずる。M4カービンにM203グレネードランチャーを装備させたほうが威力も精度も連射性も向上するでしょう、と鼻で笑う。


 確かに自動小銃に強力なグレネードランチャーの組み合わせは優秀である。雑魚を小銃の弾幕で撃ち殺し、大物はグレネードの熱量と爆発力で叩きのめす。多くの上級開拓者がこの武装を好んで武装しているからもその相性のよさが分かる。威力、精度、連射性、汎用性、即応性、信頼性。もしかしたらあらゆる面でS&W M500を上回るかもしれない。


 しかし、そうではない。そうではないのだ! その武器にはロマンが足りない。最強の拳銃リボルバー、その言葉だけで手に入れるだけの価値はあるはずだ。

 

 それを女性は分かってくれない。


 しかし、このアイドル――<越後屋>ライムは違った。彼女は武器弾薬に精通し、俗に言うロマン武器に理解を示すばかりか実際に装備しているではないか。


 天使のような可愛らしい顔立ちと、小さく華奢な体には似つかわしくないほどに膨らんだむね。露出の多いお姫様めいたパステルカラーの鮮やかな衣装。

 

 ――そしてスカートの裏にはS&W M500。

 

 重量2キロを超える巨大な拳銃で生体兵器を撃ち倒している姿を見たらどうか。どうなるか。


 あまりのギャップに屈強な戦士達は燃えた。いや、萌えた。新世界の神を見た。


 <越後屋>ライムを信奉する戦闘技能者達は日に日に増した。彼女はロマン兵器という萌えの力でパワドルの新境地を開拓したのだ。


 この場にいる男達は、彼女の信者の中でも特に戦闘能力に秀でた者達だ。元軍の特殊部隊隊員、現役の開拓者、殺し屋、剣闘士――どこに出しても恥ずかしくない古強者ヴェテランばかりであった。


 その数、なんと30名。ガンマ最強と名高い<八百屋>を倒したスローターといえど、一個小隊規模の精兵達と真正面からやりあえばどうなるか。

 結果など目に見えている。


 数の暴力。しかも今度は完全武装。ライムという偶像の下、一致団結して戦いに臨む戦闘集団である。指揮は高く、統制も利いている。<スローター>事件にてタクムが開拓者達を煽り、同士討ちをさせた時とはわけが違う。


 これだけの強者を一時に集められるのは芸能界広しといえど彼女をおいて他にはなかった。


「で、そのアイドル様がなんのようだ?」

 タクムはリビングのソファーに腰掛けながら尋ねた。


 正面には<越後屋>ライムが座っている。フリルたっぷりのきわどいミニスカートからは今にも神秘のトライアングルが見えそうであった。タクムは我知らず目を細めたが、その前に太ももに巻きつけられた大型拳銃を見てしまったせいで一気に萎えた。


 やっぱり女の子は可愛らしい子がよい。象でも殺せるハンドキャノンを携帯する子を可愛いと思う、この世界の住人の気が知れなかった。


「だから、話し合いに来たって、言っているにゃん!」

 ライムはトンと机を叩いた。本気を出せば薄い木のテーブルくらい叩き折れるだろうに、力を緩めている。しかも適度な腕の振りにより、ばるんと胸が揺れた。カメラが寄る。


 ――あ、あざとい……。


 タクムは内心恐怖した。これほどわざとらしい人間を見たのは初めてのことである。正直、ドン引きである。


 しかし、信者達の反応は上場であった。日本文化に比べ萌えへの耐性が低いのか、中には手を合わせて祈り始める者までいた。


 ちなみにサービスという彼女の二つ名の由来は豊満なボディや時折見えるパンチラから来ていると言われており、越後屋は後付けである。


「銃武装した状態で押しかけて話し合いとは片腹痛いな」

「それはそっちも武装しているにゃん。だからおあいこにゃん☆」

 タクムは鼻で笑う。ライムもその後ろにいる親衛隊達も自動小銃クラスの武器を手にしている。完全武装の一個小隊が家の前に居て、武装しない奴は頭がおかしい。


「まあ、いい。で、何を話たいんだ? 言ってみろ」

「それはこの街の治安についてだにゃん」

 ライムはそう言って、ADと思われる男性から一枚のパネルを受け取った。


 そこには折れ線グラフが描かれており、ある一点から赤線は右肩上がりに上昇しているのに対し、青線は下がっていっている。グラフの上には『ガンマの街での犯罪件数と犯罪者検挙数』とあった。


「これはここ3ヵ月の犯罪の被害にあった人の数と、犯罪者の検挙数にゃ。見ての通り、この辺から一気に赤線、犯罪被害者が増え、青線、検挙数が減っているにゃん。この辺に何があったかスローターさんは分かるかにゃ?」


「ああ、なにせ当事者だからな」

「そう、スローターさんが起こした<スローター事件>にゃ」

こすい開拓者共がジャイアントスローター討伐の報酬を巡って殺し合いしたやつだろう? 最後は滑稽だったな。幾らでも払うから回復薬をくれって懇願する奴とか、痛くて小便漏らしている奴とか、何でもするから命だけは助けてくれって泣いてすがる奴とか、いろいろいたぞ。あ、そうそう、あんな顔のやつらだ」

 タクムはニタりといやらしい笑みを浮かべる。リビングをぐるりと囲むように立つ親衛隊の中に何人か見知った顔を見つけていたのだ。


「その後どうだ、怪我の具合は? あの時の下着はまだ履いているのか? ああ、お前さんも居たのか、命が助かったようで何よりだったな」

 銃を構えようとした男達は周囲の親衛隊によって止められた。こんな狭い部屋で戦闘を始めれば<スローター事件>の二の舞になりかねない。


 流石のスローターといえど強力なライフル弾までは止めようがない。しかしその際に発生する跳弾によって崇拝対象たるライムが傷ついてしまう可能性もあった。


 タクムはチッと舌打ち一つ。安い挑発ではどうにもならないらしい。


「よく躾けてあるな。俺もあんな手駒が欲しいよ」

「駒なんかじゃないにゃん! みんなにゃーの大切な友達だにゃん! にゃーのことは馬鹿にしてもいいけど、みんなのことは馬鹿にしないで!」 タクムはわざとらしい台詞に嫌な顔をした。


「ライムたん……」

「マジ女神」

「俺の嫁……」

 親衛隊達がひっそりと感涙していた。使い古された台詞だが、この世界ではそうでもないらしい。


「ふ……」

 にやりという笑みを零すライム。さすが時代の最先端をひた走る最強アイドル。大した厚顔っぷりである。


「お前の言動ってさ、いちいちカビ臭くて気持ち悪いのな」

「って、ほんとに馬鹿にするやつがあるくゎ――ッ!!」

 再びテーブルをドン。先ほどよりも余裕がなくなり力が入ってしまったのか、いい音がした。胸も盛大に揺れる。おお、神よ、信者共が祈りを捧げる。


「まあ、いいや。で、その事件がどうしたって?」

「よくない! いや、よくにゃい! けど、もういいにゃ……つまり、にゃーが言いたいのはスローターさんのせいで街の治安が悪くなっていることにゃ!」


「それで?」

「それでって……その……ど、どう責任を取るのかにゃ!? スローターが開拓者を殺したしまったからその分、狩られる犯罪者が少なくなって治安が悪くなったと考えられるにゃよ!!」

「ハッ、てめえの身ぐらいてめえで守れって話だがな。まあいい。しばらく狩りは控えて犯罪者殺しに精を出そう。とりあえず、ウォルトシリーズから攻めてみよう」

「そ、それはだめにゃ! そんな目立つことされたらしょうばい……」

「商売?」

「しょう、しょう……そうばい! また巻き込まれる人が出てしまうっとばい!」

「何で博多弁?」


 タクムは<肉屋ミンチ>ことアインビーキーとの狙撃戦を思い出した。その戦いで巻き込まれ、死傷した人の数は二十名を超えている。


「まずは<肉屋>との戦いで殺されたり、怪我させられたりした人にどう償うのかにゃ!?」

 そんなことを言われても困る。タクムが殺したわけでもないし、NPCの命なんざどうでもいい。


 困惑するタクムを他所に、親衛隊や撮影クルーと思われる人間達から一斉に声が上がる。

「そーだそーだ!」

「どう落とし前つけるんだー!」

「土下座しろ!」

「腹切って死ね!」


 ――なんなんだ、コイツ等。


 責められる理由が分からない。死傷した開拓者のほとんどは同士討ちによる結果である。<肉屋>に至ってはタクムは撃たれたので避けただけである。ほとんどイチャモンと言っていいレベルの話である。


 こんな訳の分からない台詞を履き続けて、この女は恥ずかしくないのだろうか。カメラの前だぞ、とタクムは疑問を隠せない。


「つづいて<スローター事件>で被害を被った人やその遺族に対して保障するにゃ!」

「そーだそーだ!」

「金払えー!」

「死んで詫びろ!」

「腹切って死ね!」


『ハーラキレッ! ハーラキレッ! ハーラキレッ!』

 そして腹切れコールが始まる。


 ――何なんだ、この茶番は?


 タクムは困惑していた。てっきり、すぐに戦闘が始まるものだと思っていた。この時間は必要なものなのか?


 ――ああ、もうさっさと早く殺してえ。


 タクムは飢えた野獣のような眼で敵集団を観察する。


 弾幕作成により鍛え上げられた広い視野が、テレビクルーの人間が時計を気にし出すのを捉えた。腹切れコールの中、なにやらひそひそと耳打ちを始める。


「裁判長、そろそろ判決をお願いします」

 ライムの隣に立っていたアナウンサーがそう告げる。


「わかりましたにゃん。判決を申し渡しますにゃん」

 ライムは木槌でテーブルを叩くと、皆に静粛を促した。


「被告人、タクム・オオヤマ…………有罪ギルティ!!」

有罪ギルティ!!』

 瞬間、無数の白線がタクムの体を捕らえた。




 テレビなど見ないタクムは、『断罪TV』の存在なぞ知らない。被疑者がどれだけ真っ当な理由を述べようが、容赦なく、関係なく、情状酌量一切なく、圧倒的な数の暴力で刑を執行するのがこの番組の恐ろしさである。

 言葉や状況で追い詰めるだけ追い詰めて、最終的には被疑者を複数人でタコ殴りにし、家財一式を没収する、そんな究極の冤罪エンターテイメントなのだ。本来であれば許されざる犯罪行為であるが、人を裁くのはシステムではない。人である。都市政府や軍の高官をバックに持つ、彼等はまさにやりたい放題であった。


手を挙げろホールドアップ!」

「お前には黙秘権はない!」

 カンカンと再びライムが静粛を促した。


「裁判長、今回の刑罰の内容は?」

「ふむ。全身百叩きの上、財産没収の刑と処す。抵抗しなければ命だけは助けること!!」


「そういうことだ!」

「抵抗するなよ!」

「お前は一度、裁かれろ!」

「あの屈辱を味合わせてやる!!」

 <スローター事件>の被害者と思しき男達が、アサルトライフルを構えながら前に出た。セーフティはもちろん外れており、引金には指が掛けられている。軽く指を弾けばその瞬間、タクムは文字通り穴だらけになる。


「あはッ……あははッ……アハハハハハハッ――」

 タクムは嗤った。


 面白いことが他にあるだろうか。中型や大型との戦闘経験がある、高位の戦闘者が30余名。その全員がタクムに向けて銃口を向けている。これだけの数、これだけの質、一体どれだけの経験値をタクムに齎すのであろうか。


 ――正当防衛、成立!!


「何がおかしい!」

「気でも触れたか!」


「そりゃ、おかしいに決まってるだろ。お前等、そんなちゃちな鉄砲玉で俺を殺せるとでも思ってるのか?」


「く、こ、このキチガイが!!」

 男の一人が銃床で殴り掛かって来る。タクムは肩に背負ったほのかに黄金色に輝く鉈剣を握った。


 ――金色の閃光ザンッ!!


 そして、三人が死んだ。


「約束どおり、腹を切ったぞ」

 胴を断ち切られ、崩れ落ちる男達。瞠目すべきはその切れ味。恐らく最上位の生体兵器<ジャイアントスローター>から取得された素材を使っているのだろう。単分子カッターは何の苦もなく、装甲に斬り込み、三人まとめて一刀両断にした。


「あはははは――ッ」

 敵が混乱から覚めるよりも早く、タクムは躍り掛かる。まずはテーブルを蹴り上げて前方の視界を塞ぐと、<ステップ>で真横に跳んだ。

 

「ヒッ、やめ――」

 首が飛ぶ。凶刃は男達の首だけに留まらず、コンクリート壁ごと切り裂く。


 タクムは居並ぶ親衛隊達を目に付いた端からなで斬りにした。ひとり、またひとりとスローターの剣が親衛隊を斬り殺していく。


 そうして被害が全体の3分の1、約10名ほど殺害したところでタクムは気付いた。


「チッ……こりゃ、ダメだな」

 残った20名の男達が整然と一列に並んでいた。前後に二列。前面は散弾銃を構え、後ろにはアサルトライフルや機関銃を構えている。


 その中央には<越後屋>ライムの姿がある。顔は蒼ざめ、目元には薄っすらと涙が浮かんでいた。


「う、撃って、撃って、撃って! 早く、アイツを、アイツを、殺してぇぇぇ――!!」

 号令一下、20という銃口から閃光を放たれる。


 ――ああ、こりゃ逃げ切れんわ。


 弾道予測線がタクムの目の前を覆いつくしている。殺到する死の銃弾。拳銃弾など比較にならない高威力のライフル弾や大口径の散弾銃が襲い掛かる。


 全方位、全方向、全身の至る所を撃ち抜かれ、吹き飛ばされそうになったところを背後からの銃弾にまた撃ち抜かれ、打たれ、撃たれ、討たれ、貫かれ、弄ばれるようにして殺される。


 強固な女王蟻素材の強化服は無事だ。しかし全身を襲う千を超える凶弾の威力までは防ぐことが出来ない。高ステータスによる無類のタフネスも無限の弾丸の前には意味をなさない。


 銃声と硝煙がリビングを包み込む。


 鳴り止まない銃撃音。全員がマガジンを空にするまで銃弾を撃ちまくった。普段なら絶対にやらないようなオーバーキルであった。目の前で人が一刀両断される姿に皆、混乱をきたしてトリガーハッピーになってしまったのだ。




「皆、無事か……?」

「ああ、けど……」

「そうだな……あそこはまず武装解除すべきだった」

「開拓者だから犯罪者の扱いには疎かったのだろう……不憫な」

 親衛隊達が煙のなかで互いの無事を確認する。被害者が出た。数を揃え、質を高め、万全の体制でもって臨んだスローター狩りであったが、結果は無残なものだった。

 

 隊員の3分の1を失った。軍隊でいえば壊滅状態である。勝利の余韻など皆無であり、残るのは後悔だけだ。


「化け物め……」

 誰かが言った。この場にいた戦闘員全てが共有した認識であった。もっと早く、問答無用で撃ち殺しておけばよかった。


 30名という戦闘員に囲まれた状態から、まさか単独で踊りかかってくるなど埒外だ。そんなのはもはや人間などではない。人によく似た別の、例えば人に扮した生体兵器だったと考えたほうがまだ納得がいった。


 その言葉を最後に、隊員達は口を閉ざした。


 せめてもの幸いは、同士撃ちによる被害が全くなかったことだろう。事前の申し渡しの通り、親衛隊達は壁にそって二列に並んだ状態から、スローターに一斉射撃を行った。射撃方向を一点に絞ることで同士撃ちを回避したのだ。おかげで反撃するまでに時間を取られ、多数の被害を出してしまったわけだが。


 跳弾こそあったが、この場にいる人間のほどんどが高位の戦闘技能者である。装甲服を着た上で<エアガード>などの防御スキルを併用すれば、バウンドして威力の低下した弾丸などは通さない。


 スローターは煙幕手榴弾を装備していたのか、リビングに充満した煙は非常なほどに濃い。随分と長いこと充満していたが、それでも隊員の一人が窓ガラスを叩き割って歩いた結果、徐々に視界は回復していった。


「よかった……ちゃんと、死んでる……」

 男の一人がぽつりとこぼす。それはこの場にいる全員の総意でもあった。


 スローターは言った。


『そんなちゃちな鉄砲玉で、俺を殺せると思ってんのか?』


 その言葉が隊員達の心にずっしりと残っていた。煙が晴れた時、もしもスローターが立っていたら――長い不良視界が彼等にそんな不安を、妄想を駆り立てた。


 しかし、その懸念は今や完全に解消されている。


 塗装が剥がれ、装甲は剥き出しとなり、外部に幾つもの弾痕を残した装甲服が射撃方向、リビング奥の壁に埋まっていたのだ。


 千を超えるライフル弾や散弾の雨は、彼の体をコンクリートに打ち付けるほどの威力を持っていた。これで生きている道理がない。


「っち、放送事故か……」

 テレビクルーを指揮するディレクターがぽつりと呟く。後悔しても遅い。お茶の間に生放送で殺し合いを放送してしまった。10人もの陪審員役しんえいたいが斬り殺され、最終的にはスローターも死んでしまい、断罪TV特有のアッパーな雰囲気はぶち壊しである。


 ディレクター本人は元より、その上役たるプロデューサーや取締役はしばらく後始末に追われることになるだろう。


「ま、数字とれるからいいか」

 死傷者が出たり、流石に一方的過ぎて外聞が悪いなどの理由からお蔵入りとなった放送をまとめたディレクターズカット版のDVDはよく売れる。それこそ下手な映画よりも出回る。


 差し引きはトントンといったところであろう。


「さてと、奴の私財を回収して帰るぞ……?」

 カメラこそ回っているが、生中継は既に終わっている。パンパンと手を叩き、現場指揮官としての仕事を始めたディレクターの耳にガシャンガシャンと鉄の擦れるような音が届いたのだ。


「おい、なんだ、この音――」


 その時――壁が爆発したドゴォッ


 爆ぜた壁からぬっと飛び出してきたのは一輌の戦闘車両であった。


「なんだ、これ」

「あれだろ、マイクロ戦車シリーズのトーチカ用」

「馬鹿だな、もう終わったっつーの」

 それはスローターがジャイアントスローター討伐の際に用いた<シーサーペント>。他にもマイクロ戦車シリーズとしていくつか派生型が開発されている。


 それは車両前面の装甲を分厚くし、20ミリチェーンガンという強力な機関砲弾で弾幕を形成できる拠点防御型の<クラーケン>という車種であった。


「いや、終わってねえぞ。むしろこれからだろ?」

 そう言って銃座盾から顔を出したのは――


「え、あ……」

「す、スローター……」

「何で、どうして」

「死んだはずじゃ……」

「いや、教えてもいいんだけど、意味ないだろ?」

 驚愕する男達に向けて、タクムはニタりと笑った。


 ――だって、全員この場で死ぬんだから。


「え、が……あぎゃあああぁぁぁぁぁ――」

「ぐえ、ぐぼ――」

「――ひッ、やめ、いぎゃぁぁああぁぁ――」

 20ミリという分厚い砲弾が、男達の体を次々に切り裂いていく。手を脚を胴を頭部を、弾き飛ばし、切り刻み、挽肉に変えていく。


「あは、あはははは――ッ!!」

 タクムはトリガーハッピー。奇声を上げながら砲弾が空になるまで引金から指を離さなかった。


 結果、床一面に広がる血の海。タクムは大きく息を吸い込むと、実に爽やかな笑顔で言った。


「ふぅ、すっきり」


訳あって、今日は11時の更新は中止となります。

申し訳ありません。


ちなみにソンビ映画みたいに2回に分けて

襲い掛かってみましたが

1回のほうがよかったですかね……?

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