殲滅者VS暗殺者
タクムが狙撃ポイントに向かうと、狙撃手はビルの屋上に仰向けで倒れていた。高威力の.338ラプア弾を全身に受けたために鉄板の中には全身の骨を砕かれ、肉を潰され、ミンチ状態になっていた。
流石に挽肉に手を出すのは躊躇われ、タクムは襲撃者のカードだけを奪ってギルドへと向かった。
狙撃手は、名うての暗殺者であったらしい。
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氏名:アインビーキ
別名:肉屋
年齢:34
性別:男性
職業:暗殺者
兵種:狙撃屋Lv5
犯罪歴:殺人19件
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――<肉屋>。
銃身を切り詰めたブローニングM2を使い、中距離からの狙撃を得意とする。高威力の12.7ミリ弾によって相手の四肢を千切り、内蔵をメチャメチャにすることから、彼はこの界隈ではそう呼ばれていたらしい。
因果応報といったところか。標的を散々肉塊に変えてきた彼は、被害者達と同じ末路を辿った。随分な皮肉である。屋上の凄惨な光景を思い出してしまい、タクムは気分が悪くなった。
高名な殺し屋である<肉屋>には、当然賞金がかけられており、その額はなんと200万ドル。いわゆる賞金首というやつで、彼の首級には大型生体兵器並みの値段が付けられていた。ちなみに犯罪者の資産は、倒した相手が奪い取ることが出来る。彼の口座にあった預金は、即日中にタクムの口座に振り込まれた。
その額は8万ドル。
少ない。タクムはそう感じた。
彼の契約していたアパートに押し入ったが、金目のものはほとんどなかった。強いて上げるなら防弾処理の施されたSUVと、12.7ミリの銃弾の束と銃を整備する道具くらいしかなかった。
それらを合わせても15万ドルにも満たない。
やはり、少ない。
名うての殺し屋が15万ドルぽっちの資産しか持たないはずがなかった。恐らく本命は、名義の違う隠し口座か、隠れ家などに分散されて管理されていたのだろう。
情報屋にも聞いてみたが、話すことは出来ないと断られた。裏稼業を営む者なりのルールがあるのかもしれない。
軽く脅しをかけてみたが、<スローター>の悪名も裏社会で生きる情報屋には通じなかった。当然である。タクムは積極的に殺人を行うタイプの人間ではない。いざとなればゲーム世界なので、躊躇することはなかったが、こんな升もしょうもないところで犯罪者になるつもりはなかった。
盗賊ギルド、人身売買ギルド、そして暗殺者ギルド。この世界には非合法な組織が数え切れないほどある。もしもミンチの情報を売ったことが露見すれば今度はその情報屋が狙われることになる。
そもそもタクム一人を相手にするのと、組織を相手にするのとでは訳が違う。彼だけなら最悪、街から離れるだけで事足りるが、犯罪者組織では何処に行っても狙われることになる。
タクムはこれ以上の情報収集を諦め、家に帰ることにした。
その日、タクムは眠れない夜を過ごした。<サークルレーダー>の効果が切れる一時間毎にを張り直す必要があったからだ。
襲撃がこれで終わるとは思えない。
スキルの発動は一瞬で、それ以降はやることはなく、だらだらとベッドの上で過ごした。体は疲れ切っているのに心だけが休まらない。思えばこの世界に来たばかりの頃にもこんなことがあった。頭が冴え渡り、寝つきが異常に悪くなった。
こんな時は話をして過ごした。この世界で唯一心許せる相手と。その相手は――アイは、もういない。
そうして夜明けを迎えた時、タクムのキレた。なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのだと、怒りが沸々と湧き上がった。
――そうか! これはイベントだ!?
タクムは確信する。そうであれば必ずやまた暗殺者は姿を現す。彼の隙を突いて、命を付狙ってくる。恐らくは狙撃屋を差し向けてきた依頼人を殺すまで。
――狩ってやる。狩ってやるぞ……。
相手の出方を窺うまでもない。積極的に攻勢に出て、罠を仕掛け、連中を燻り出してやる。
そう心に誓う。
そうしてタクムは徹夜明けでハイになったテンションのまま、机に向かい、作戦を練り始めた。
この街で名の知られた暗殺者は四人。
タクムが倒した狙撃暗殺者<肉屋>アインビーキ。
装甲車を操り類稀なる操縦テクで相手を轢き殺す<走り屋>ターク。
百の武器と八つの必殺技を組み合わせて戦う<八百屋>べジー。
可憐な容姿でよいではないかとベッドに連れ込んだ所で殺す<越後屋>ライム。
酷い名前だ。だが、彼らは呼び名こそダサいが、実力は本物とかであるらしい。前線都市裏の四強とか、影の四天王とかとか呼ばれている。全員が上級兵種にクラスアップしており、レベルも高いそうな。
他にも右腕の義碗をガトリング砲に変えている<右腕の>マウスや、高名な格闘家の弟子だったという<戦闘狂>ミュウモ、<玩具銃>のウッディなどもいるそうだが、四天王に比べると格も実力も一段劣るとのことだった。
それにしても名前がダサい。とはいえ、高位の暗殺者であれば――その真偽はともかく――使用される手口や戦術の情報を手に入れるのは容易かった。
自分の情報が知られていることは、暗殺者のほうも承知しているはずだ。知られていない切り札を隠し持っていてもおかしくはないが、その辺りの心配は全くしていない。
――この兵器さえ完成すればどんな攻撃手段でも怖くない!!
「できたー!!」
タクムは出来上がったそれを掲げながら快哉を上げた。
その日の朝、タクムはガンマの街随一と名高い職人達を呼び付けた。
「そうか、暗殺者ギルドか……」
恰幅のいい大男は渋い声で言った。巷で話題のマイクロ戦車<シーサペント>の生みの親である整備工にして戦車設計者のワンダー・ランド。
「しかもミンチだと!? あんなのに襲われて、しかも返り討ちにしたってか!?」
背の高い鷲鼻の男は甲高く叫んだ。ピーキー過ぎて誰も使えないような高火力銃を作り続けて20年のヴェテラン銃職人ドリーム・ランドである。
二人は兄弟である。雰囲気やしゃべり方こそ異なるが、二人とも子供が見たら一発で泣きそうなほどの強面の持ち主であった。
「ああ、悪いんだが協力してくれないか」
いつも閑古鳥が鳴いていそうな銃職人のほうはともかく、マイクロ戦車の製造で忙しい工場長のほうまで来てくれるとは思わなかった。
「とはいえ、俺がやれることと言えば車いじりぐらいしか出来んぞ」
「特注の銃を用意してやるぐらいなら出来るが、戦力としては当てにならんぞ! 俺達は!!」
その昔、ランド兄弟はコンビで開拓者をやっていたことがあるらしい。しかし、一向に芽が出ずにドロップアウト、職人の道を志して成功を収めた。
ワンダーの小型化志向や、ドリームの火力信仰は開拓者時代の苦い経験から生まれたそうだ。
「十分だ。むしろ、それを頼みたかったんだ」
タクムは言って、二人に一枚のA4用紙を渡す。
「なんだ……」
「こりゃ!?」
目を通した二人が絶句する。その紙に記述されていたのは紛れもなく<新兵器>の設計書であったからだ。




