突発イベントVS暗殺者
ガンマの街に帰還し、解体工場へ獲物を運び終えたところで本日の狩りは終了した。
「うーん、どこかにいい経験値が落ちてないもんか」
大型生体兵器ならば一体倒すだけで確実に兵種レベルが上がる。
しかし、大型クラスとなると配下である小型中型生体兵器の生産能力を持っており、森や山などの未開拓の土地に巣を作っている場合が多い。見つけるのも大変なら、倒すのはそれ以上に困難である。一体一ならばともかく何十、何百という小型中型に囲まれた状態で戦うのはさすがのタクムも辛い。というよりも確実に死ぬだろう。
「そろそろ引越しするかな……」
タクムは半ば本気でそう思っている。さっさと最上位兵種になりたいなら強力な生体兵器のいる策源地へ行くべきだ。
四輪バギーを片手で操りながら、機械馬<ツヴァイホーン>の手綱を引く。本人は涼しい顔をしているが、実はこれ、かなり難易度の高い芸当だ。ステータスによる補正と兵種<猟騎兵>による補正がなければ忙しすぎて目を回していただろうことは間違いない。曲芸じみた操縦に行き交う人々は皆目を丸くしている。
フィールドであれば自動追従モードで勝手について来てくれるのだが、いかんせん、人通りのある街中で機械馬を放つような真似はできない。怪我でもさせれば犯罪歴に傷が付く。
なぜこのような面倒なことをしてまでツヴァイホーンを連れ回しているのかといえば、「念のため」の一言に尽きる。
本来なら機械馬に乗ってしまいたい。しかし、とてつもなく乗りづらい。四足を使って走る<ツヴァイホーン>の乗り心地はまさに馬。乗馬経験のないタクムにとっては最低の一言に尽きる。
しかしその機動性と高火力は捨てがたい。ツヴァイホーンの不整地での移動能力は一般車両とは比べ物にならないほど高い。障害物を飛び越え、狭い道でも入り込めるコンパクトさは強力な武器となる。また臀部から生えた尻尾――M61バルカン砲は強力な20ミリ機関砲を秒間100発もの速度で吐き出すという反則じみた兵器である。対大型戦での切り札にもなり得るそれを携帯しないわけにはいかない。
手札は常に多めに持ち、いざという時の選択肢を広げておく。タクムはその事実を多大な出費を払ってそれ学んだ。活かさなければアイに申し訳が立たないとも思っている。
それ故、タクムは狩りの時には必ず四輪バギーとツヴァイホーンを携行するようにしていた。
「ん?」
街に戻り、大通りを直進する。ちょうどその時、索敵の容易さから掛けっぱなしにしていた<サークルレーダー>に何かが引っかかった。
かすかな違和感。
タクムが導かれるにように顔を上げた。
「――ッ!!」
ビルの屋上がきらりと光り、タクムの胸を中心に幾つもの弾道予測線が浮かび上がった。
素早くハンドルと手綱を離し、道路へと転がる。つい先ほどまでタクムが立っていた四輪バギーの上を何かが通り過ぎていくのが分かった。
小さな何かが石畳の通りに吸い込まれ、猛烈な破砕音を立てる。丈夫な石畳は抉れ、小さなクレータを形成していた。間違いなく対物ライフル級の威力であった。
――襲撃ッ!?
弾道予測線の方向から敵の位置は既に掴んでいる。タクムは肩掛けにしていたデイドリームを構え、スコープを覗く。10倍率の視界、400メートル先でライフルを構える男と目が合った。
「クッ……<ステップ>」
直後にタクムの元へ、無数の銃弾が殺到する。鍛えられた敏捷性とスキルによって射線から逃れる。撒き散らされる致死の弾丸、流れ弾が道行く人々や一般車両を襲い、辺りが血と悲鳴に染まっていく。
タクムは400メートルの彼方を睨みつけた。米粒以下の小さな人影。しかし、偵察兵として鍛え上げられたタクムの視力ならば見えない距離ではなかった。
襲撃者は屋上の壁に隠れ、銃身と僅かな頭部だけを出している状態だった。下から覗くと本当に僅かな隙間しか狙うことが出来ないことが分かる。分が悪い。このまま地上に居てはいつか撃ち取られるであろう。
――だったら、地上にいなければいい!!
タクムはすかさず駆け出した。
一瞬にしてトップスピードへ。その速度は恐らく時速100キロを超えていた。人類としての枠を超えた高ステータスとデュラハンによる動力補助を受けたタクムならばこの程度の当然のことであった。
向かう先は付近でもっとも大きなビル。壁が近づく。横目に敵が銃を構え直すのが見える。
「<ウォールラン>!!」
漆喰の壁に足裏が吸い付く。タクムはビル壁面を駆け上る。彼の足元をチョーク大のライフル弾が追いかける。
「おぉぉぉぉおおぉぉぉ――ッ!!」
壁面を登り切り、タクムは屋上に到着する。高度はこちらのほうが勝っている。
――いける!!
タクムは<デイドリーム>の銃床を肩に当て、光学照準器を覗き込む。不利を悟った襲撃者は階下へと続く通路へ走っていた。
――逃がすかよ!!
反射的に引金を弾く!
スコープの先で男が吹き飛ぶのが分かった。通路まであと5メートルもなかった。
危うく逃げ切られるところであった。タクムはほっと息をつく。
照準は甘かった。セレクトレバーがオート状態であったことが幸いした。セミオート、あるいは3点バーストであったらタクムは狙いを外し、逃げ切られていたかもしれない。
「はぁ、はぁ……まじで、疲れる……」
狙撃戦というと策士同士の裏の読み合いみたいなイメージが沸くが、実際にやってみれば撃って走ってむちゃくちゃ体育会系であった。
「それにしても今回は危なかったな……」
ジャイアントスローター素材で作られた強化服は弾丸を徹しはしなかっただろう。しかし、ライフル弾の威力の衝撃までを殺し切ることは出来ない。全身を強く打ちのめされて昏倒、最悪、死亡していた可能性だってある。
そもそも、あの時、違和感に気付いて顔を上げなければ、便利だからと<サークルレーダー>を掛け続けていなければ、スキルの範囲外である500メートル以上の距離から狙撃されていれば、
――負けていたのは、俺のほうだった……。
薄氷を踏むような勝利であったのは間違いない。
タクムはこの世界において、トップクラスのステータスを手に入れた。高ステータスの要因は適正のある兵種が多かったことだろう。通常、適正のある兵種は1つか2つしかないそうで、3つあれば優秀な部類に入ると言われている。1つの兵種をレベル10まで上げるよりも、3つの兵種をそれぞれレベル5まで上げたほうがステータスは高くなる。
平均ステータスが5.00あれば一流と呼ばれるこの世界で、平均ステータスが10.00を超えたタクムはまさに超人の域にいる。
しかしそれは単なる数値上の話だ。この世界の開拓者や軍人――いわゆる兵士達はその少ない才能を極限まで磨き上げている。プレイヤースキルとでも言えばいいのだろうか、自身の兵種に対する戦術理解が非常に深いのである。あちこちに手を出しては状況に切り替えるタクムとでは雲泥の差がある。
それは仕方のないことであった。タクムはこの世界に来てまだ1年も経っていない。生まれた時から銃に触れ、戦闘経験を積んできた兵士達と同じ技量を身につけられるはずがない。
この世界にはまだまだ強い奴等がいる。先ほどの襲撃者など比べ物にならないほどの実力者だって存在するのだろう。
――そんなのにまた命を狙われたら……。
タクムは全身から嫌な汗が噴出すのを感じる。
「強くならなくちゃ……強く…………」
焦燥感に身を焼かれながら、タクムはビルの屋上から移動した。




