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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スローター
29/90

ロマン兵器

 愛車の四輪バギーで開かれた鉄板ドアを潜ると、タクムはキーを外した。

 相変わらずのオイル臭。装甲板と思われる鉄板が部屋の隅に材料・形状・サイズ毎に積み上げられている。ネジやドライバーなどもキャスター付きの棚に収められているのだが、如何せん数が多すぎる。

 整理されているのかいないのか、いまいち判別不能な魔空間。


 戦闘車両専門販売店<ワンダー・タンク>に隣接する整備工場である。


「ワンダー、いないのか~?」

 タクムはバギーから降車すると、何やら機械の山に埋もれている一角に声をかけた。


「ちょっと待ってろ! 今終わっから!!」

 言うが早いか、バチバチバチと山の中から火花が散る。ギュィィィイと電動ドライバが回る音がして、ゴゴゴゴ――恐らく電動ヤスリの音――が続く。


「出来た、出来たぞ!!」

 山の中から野太い歓声。機械の山だと思っていたのは、どうやら装甲作業服を着た従業員達であったらしい。わらわらと山が崩れていく。皆肩を叩き合い、『さすがは親方だ』『あの曲線美、凄かったっす』『パネェ、マジパネェ!』などと声を掛け合っている。


 タクムが工場へ来たのは、もちろんワンダーに呼び出されたからである。最近では整備兵メカニックの兵種を獲得し、銃や車両はほとんど自力でメンテナンスが行えるため、足を運ぶ機会は少なくなっている。


 完全に置いてけぼりにされ、困り果てるタクム。さて、どうやって声を掛けようかと思って腕を組んだ。視線を男達に向け、眉を寄せる。


 その姿に気付いた整備工達がビクンッと肩を震わせた。


「……スローター……」

「オーラ、凄いっす……」

「パネェ、マジパネェ! す、すいやせん、殺さないで!」


 タクムが声を掛ける前に、整備工達はそそくさと逃げ出す。


 ジャイアントスローター討伐後の報酬割り当て会議で起きた<スローター事件>。ガンマの街でも名の知れた上位開拓者50名が同士討ちによって死傷した――その内の30名以上が死亡している――事件に付けられた名前である。


 その主犯格であるタクムは、以後<虐殺者スロータ>の二つ名で呼ばれるようになり、恐れられるようになった。


 確かにタクムは、最も自分に利益が上がるような選択・・をしたが、犯罪には手を染めていない。タクムのカードの犯罪歴には<殺人>はない。


 やったのは自分に銃を向け、射線・・に入れてきた相手を撃ち殺しただけだ。


 つまり正当防衛。この世界の法律システム上、<殺人>が認められるのは、相手が重犯罪者であるか、銃口を向けてきた場合なのだそうだ。銃社会であるアメリカなどでは懐に手を入れた相手を殺しても、正当防衛として認められるケースがあるというくらいなので、このルールはむしろ厳しいくらいなのである。


 しかし、50人の開拓者を一人で倒しただの、無抵抗な相手も殺害しただの、ナイフ一本で開拓者全員を返り討ちにしただの、無数の銃弾を全て躱しきっただの――これは事実だったが――と、噂が噂を呼び、真実には尾ひれと背びれが付けられて、タクムは半端じゃない強さを持った、どうしようもない極悪人ということになってしまったのである。


 ――ま、どうせゲームだからいいけどね。


「おい、待て」

「「「ハヒィ!!」」」

 タクムが低い声で言うと、整備工達は立ち止まり、声を裏返した。


「ワンダーを呼べ。今すぐに、だ」

 噂が立ってしばらくはショックだったタクムであったが、今ではむしろ『いいじゃん、悪人、楽しそう』と今では完全に開き直っており、積極的に悪人としての役割を演技ロールプレイをしている。


「俺をあまり怒らせるな」

 黒いロングコートの懐に腕を差し込む。


「は、はい! ただいま!!」

 慌てて駆け出していく整備工達。


 タクムはニヤリと笑って、コートの裏ポケットから取り出したチュッパチャップズのビニールを捲った。


「タクム、よく来たな!」

 ワンダーが姿を現したのは、それから5分ほど経ってからだった。


「ああ、今日はどうしたんだ?」

 人を呼びつけておいて待たせるなんて何んなんだ、貴様? 殺すぞ?


 タクムが本物のスローターであればおもむろに銃を抜いていたことだろう。アイが居た頃から友好関係にあったこの男に、にわか仕込みの悪人ロールプレイなど通じるはずもない。


「新兵器を開発した! お前さんに使ってもらいたい」

「またか……」

 マイクロ戦車ことシーサペントで、テストドライバーを買って出てからこっち、ワンダーは事あるごとにタクムを呼びつけては新兵器の試験を頼むようになった。


 前回はマイクロ戦車の車体に90ミリ戦車砲を取り付けた新マイクロ戦車<ガルム>なる試作機を押し付けられたが、砲弾を撃つと反動で引っくり返るという散々な結果であった。


「今度は正真正銘の新兵器だぞ!」

 髭面でにんまり、ドヤ顔で言った。どうだ、胸が躍るだろう? とでも言いたげである。


「アンタもよくやるな……工場で忙しいだろうに」

 アイとタクムの協力により、運用試験を重ねた結果が考慮されたマイクロ戦車は見事、軍のトライアルに合格した。


 もちろん<戦車>としてではなく、自走砲としての採用である。M22式軽自走砲<シーサペント>と名を改められたそれは、既に50輌近く調達されているそうだ。


 前面の装甲を分厚くして20ミリ機関砲を装備させることで簡易式のトーチカに早代わりにした重装型M22-B式軽自走砲<クラーケン>、迫撃砲を外してエンジンを小型のに換装することで機動力と静穏性を高めた偵察型のM22-S式軽自走砲<ワーム>、シャーシの剛性から見直して操縦席の上に砲手座が付いた複座式のM22-T式軽自走砲<ドレイク>と、新たなヴァージョンに加わっており、マイクロ戦車シリーズの売り上げは軍内部だけで100輌にも及ぶ。


 民間からの注文も殺到しており、総売り上げ台数はその数倍と考えていいだろう。予想外の反響に気をよくしたワンダーは、新たに工場を建設し、生産量を増やす予定だそうだ。目指すは月産300台とのことだが、本当に大丈夫なのだろうか。


 ワンダーは戦車の開発者エンジニアや整備士としてなら超一流だが、経営者としての実力は高くない。あの恐ろしい店名から察するにあまりある。


「ばっきゃろう! だからシーサペントに代わる新兵器の開発に力を入れてんじゃねえか!!」

「拡大戦略ってわけか」

「おうよ、だからてめえも協力しろや!」

 快活に笑うワンダーを見て、タクムはつられて笑う。仕方ない、付き合ってやるかと思い直す。


「で、その新兵器ってのは?」

「おう、こいつだ」

 例によって例の如く、新兵器は工場の中央――通称、お立ち台にまで運ばれており、ご丁寧にも青いビニールシートまで被らされていた。


「見て驚け、使って唸れ! これが俺の新兵器!」

 青い敷居が外され、新兵器が姿を現す。


「随伴型多脚戦車<ツヴァイホーン>だ!」

 お立ち台に配置された兵器<ツヴァイホーン>は、一見すると鋼鉄で出来た競走馬の模型のように見えた。長い脚部が4本付いた太い胴。その先からすっとバイクハンドルのように首と頭が伸びている。頭部のコメカミあたりから伸びたハンドルは僅かに湾曲しており、二本の角に見えなくもない。


 その形状は確かに二角馬ツヴァイホーンと呼ぶに相応しいのかもしれない。


「何が戦車だよ! ただのロボットホースじゃねえか!」

 ロボットホースはその名の通り、機械で出来た馬である。この世界では割とポピュラーな随伴車両であり、大型車両の入れない遺跡や洞窟、山林を開拓する際に武器弾薬食料その他、様々な物資を運搬する車両として利用されている。


『今ある素材で最高のものを――』

 タクムは今後、アイのデータ復旧アイテムを捜索する旅に出る予定であった。未知の遺跡や未踏の土地に足を踏み入れるために必要なためにワンダーに特別注文したことがあった。その際、ギルドに売らずに取っておいた女王蟻の外殻などの素材一部を持ち込んでいる。


「まあ、いいや。要するに注文した品が出来たから引き取ってくれってか?」

「甘ぇ、甘々だぜ、タクム! 見ろ、これがスペック表だ!」


-------------------

ツヴァイホーン

シーサペントを開発したあの・・ワンダー・タンク社が新たに開発した多脚騎乗戦車マルチライドタンク


一見すると普通のロボットホースのようにしか見えないが、骨格や装甲にはジャイアントスローターより鋳造された最高級品を使用しており、防弾性能はEN-B11。20mmクラスの機関砲弾にさえ耐え得る強度を誇る。


武装としては臀部から伸びたM61バルカン――通称、<フェアリーテイル>がある。射撃時には6本の砲身が尻尾のように飛び出し、20mm×102機関砲弾を毎分5000発もの速度で吐き出し続ける。給弾ベルト式で装弾数は3000発。


高い火力と耐久性を持ちながらも、車重はかなり軽量。四本の長い脚部を馬のように動かすことにより、不整地でも時速80キロという高速移動が可能となっている。

また随伴車両ではあるものの背中の部分には鞍や鐙が付けられており、頭部の角をハンドル代わりにして騎乗することができる。


しかし、前述の通り、機動方式は四足獣とほぼ同一であるため、騎乗駆動しながら正確な射撃を行うのはまず不可能。


耐久性:1200/1200

積載:D

装甲:B+

加速:B(S)

速度:C+(S)

命中:F-

静穏:B

整備:D

視界:最高

乗員:1名


武装1 M61バルカン

性能

殺傷力:B

貫通:B

打撃:B

熱量:C-

精度:E-

連射:5000/min

整備:D

射程:1200m


武装2 空き


参考価格:2,500,000$

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「250万ドル……だと……?」

 確かにタクムは言った。『最高のものを作れ』と。


 ――が、やりすぎだ!


 今の所持金を思えば買えないわけではないが、250万ドルといえば、装甲車とほとんど変わらない価格である。たかが運搬車両にそんな大金を支払えるわけがなかった。


「ああ、安心してくれ。この価格設定はほとんど女王蟻の素材代だ。お前さんの場合は素材持ち込みだし、これも試作機だからな。75万ドルでいい」

「いや、それだと流石に申し訳なさすぎるだろ……」

 高価なM61バルカン砲や装甲以外の材料費――エンジンや、その他の電子機器、加工費などを考えればほとんど儲けなどないだろう。恐らくは赤字である。


「気にすんな。あと、ついでに余った素材でコイツも作っておいた。ツヴァイホーンとセットで持っていけ」


-------------------

デゥラハン

シーサペントを開発したあの(・・)ワンダー・タンク社が開発した強化服パワードスーツ


骨格や装甲にはジャイアントスローターより成型された合金を使用しており、防弾性能はEN-B10。12.7mmクラスの弾丸にも耐えられるほどの強度を誇る。


装甲板の裏にはジャイアントスローターの筋組織を培養した人工筋肉で覆われており、強力な動作補助を行うだけでなく、被弾時における衝撃も大幅に吸収する。


素材が良いこともあり、軽量な強化服でありながら、防御力面だけを考えれば重装強化服にも引けを取らないものとなっている。


また動作補助のために人工筋肉に電流を流すだけの動力さえ確保出来ればよいため、かなりTNP。

腰部にあるポーチサイズの蓄電池を装着するだけで24時間稼動し、内燃機関エンジンなどを持たないことから薄く軽く動きやすく、また静穏性にも優れた一品となっている。


ただし人工筋肉は消耗品であるため、72時間ほどの駆動させたら交換する必要がある。


耐久性:1000/1000

積載:E

装甲:B-

加速:A

速度:A

静穏:S

整備:G

視界:良好

乗員:1名


武装 なし


強化値

STR+2.50

VIT+2.50

AGI+2.50

耐酸+100%


参考価格:1,000,000$

-------------------


「二つ合わせて100万ドルでどうだ?」

「いや、これ……いいのかよ、こんなの貰って……」

 機械馬はともかく、強化服は前々から欲しいと思っていたものだった。


 強化服は重厚な鎧であると同時、装備者の能力を底上げする効果がある。動作補助機能と呼ばれるそれは、<デゥラハン>のように人工筋肉に電流を流すことで発生する筋肉収縮を利用したり、間接部に機械駆動アクチュエータを取り付けて動かしたりと駆動方式こそ千差万別ではあるが、装甲服とは違って装備による負担を強いることなく装甲を身に纏うことが出来る。


 また強化服自体の加重による体重の増加や、動作補助機能によって膂力が増すことにより、反動の強い銃を扱えるようになったり、重火器を楽に携行できるようになるなどメリットは多岐に渡る。


 旧時代の遺跡や危険の多い洞窟地帯を探索するのに欠かせないアイテムのひとつといえた。


 ものによってはブースターが付いていたり、ワイヤーアームが付いていたり、腕部や肩部に機関砲が付いていたりするものがあるが、そういった重装強化服には大抵エンジンなどの動力が必要となるため、擬装からの奇襲や狙撃を信条とするタクムにはあまり嬉しくはない。


 それに比べて<デゥラハン>の人工筋肉による動作補助はありがたい。機械駆動に比べてステータスの上昇率は低く、メンテナンス性には劣るものの、とにかく静穏性に優れているのだ。


 まさにプレートメイルに似た形状もタクムの趣味に合っていた。


「いいんだよ、どうせお前が持ち込んだ素材とありあわせの部品で作ったもんだからな。他の材料費やら加工費なんかはちゃんともらってる」


 経営者が、こんなどんぶり勘定で大丈夫なんだろうかとタクムは逆に心配になってしまうが、まあ、マイクロ戦車も売れていることだし、心配ないのだろうと思い直す。


 事実、マイクロ戦車は生産が追いつかないほどのペースで売れに売れている。


 その要因となったのがタクムとアイの活躍だった。


 ふたりがマイクロ戦車に乗り込み、生体兵器の中でも最上位に位置するジャイアントスローターを一輌編成ソロで討伐するという大戦果を上げたため、知名度が一気に上がったのである。


 その情報はもちろん、販売元の<ワンダー・タンク>社の経営者たるワンダーの耳にも入っており、この高価な車両と強化服を格安の値段で譲るのは、むしろ謝礼の意味が大きい。


「ちなみにだが、ツヴァイホーンには頭部にもう一門、銃器を据付けられる。これだ、っつーのがあったら持ってきてくれ。取り付けてやる」

「ああ、遠慮しないで貰っておくよ。サンキューな」

「おうよ。で、うちのことを宣伝しておいてくれよな! この戦車と強化服は、うちで手に入れたってよ!」

 良くも悪くも彼の有名な<殲滅者>がワンダー・タンク社製品を好んで使っているという噂が広まれば、宣伝効果にも期待できる。


 ――ホント、正直なことで……。


 言わなきゃいいことまで言ってしまう経営者ワンダー様を見て、ますます会社の未来に不安を覚えるタクム。


「なにより騎馬に乗り、騎士鎧を身に纏って戦うなんざ、ファンタジーみたいで格好いいだろ? 俺は思うんだよ、やっぱり兵器にはロマンが必要だってな!」

 いい年こいて夢見る少年みたいなことを言うおっさんを、タクムは残念そうな表情で見つめるのだった。



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