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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スチール
25/90

ゾーン

 作戦は決まった。後は指示通りにやるだけだ。


 タクムはハッチを開けると、荒野の近くにある岩場に向かって飛翔した。車高2メートルの地点からだったため、滑空距離は10メートルにも及んだ。


 乾いた砂を蹴散らしながら着地。小銃とミサイルランチャーとその予備弾丸やその他、サバイバルキットを満載にしたナップザック。重量にして30キロにも及ぶ重装備で無傷なあたり、いよいよ俺も人外じみてきたな、などとタクムは笑う。


 すぐさま岩のくぼみに姿を隠し、黄土色の迷彩擬装シートを被る。背嚢から弾頭を取り出し、発射口にセットする。


「こちらタクム。準備完了だ。オーバー」

『こちらアイ。こっちも順調。いやぁ、女王、意外とお馬鹿さんなのかな。機銃を避けるのに精一杯で、マスターの存在ガン無視してたよ。取るに足らないくらいに思ってるんじゃないかな』

 アイは言って、馬鹿だねーと笑う。


『おっと、合図とかないから、適当に撃っちゃって。オーバー』

 ここでいう『適当』とは、普段のふたりの会話みたいなテキトーではなく、自己判断で状況に『適』した行動に『当』たれという意味である。


「了解した。適当にぶっ殺す。オーバー」

 タクムは言って、擬装シートから顔を出す。相変わらず芸術的なまでのレバー捌き(戦車の移動にはハンドルではなく座席側面のレバーを使用する)で女王蟻を翻弄している。


 1分ほどかけて離れていったジャイアントスローターが近づき始める。タクムは擬装シートの下で膝立ちになり、RPG-7の弾頭に<フレイムランチャー>を付与して肩に担いだ。


 距離が300メートルから200メートル、100メートル、50を切る直前、膨らんだ腹のせいでタクムの姿が死角に入ったところで引金を弾いた。


 ――|灼熱の閃光にタクムは目を背けた(ドゴォォォオォォォォォッ)!!――


「しゃぁぁぁ――ッ!」

『撃ったら即移動! 見つかっちゃうよ!!』

「そうだったー!」

 タクムはすぐさま立ち上がり、シートで頭上を覆いながら走り出した。


 その背後で新たな炸裂音がする。106ミリ無反動砲による一撃だ。成型炸薬の埋め込まれた弾頭が爆発し、タクムの装甲服の背中を焼いた。


 女王蟻の咆哮が響き、続けて機銃の掃射音がしたが、その頃にはタクムは岩場に点在する無数のそれの中に紛れている。


「準備完了だ、ばっちこい! オーバー!」

 これならば問題ない。タクムはそう確信した。自信満々に言う。


『早いね、さすがマスターだ! 射撃のタイミングといい、この位置取りといい、マスターはもう一流の兵士だね! ボクに教えられることはもうないよ……』

「よせやい、照れるじゃないか」

『ふふっ、じゃあ、そろそろ次、行くよ! オーバー!』

「了解だ、オーバー!」

 アイも同じように判断したのだろう、楽しげに笑いかける。


 互いに背中を預けるような、肉体を持たないアイとは絶対に出来ないような感覚をタクムは覚えた。それはただひたすらに心地よく、<生きている>と声高に叫びたくなるような快感を伴っていた。


 ――俺は、この世界で生きていく!!


 あちらの世界などもはや未練などないと、ロケットランチャーの対戦車弾頭を蟻の腹部に打ち当てながらタクムはそんなことを思っていた。


『マスター、次!』

「おう、任せとけ!!」

 全身を包む万能感。心が繋がったという全能感。


 擬装を解き、タクムはRPG-7を構える。


「おおおぉぉぉぉ――ッ!!」


『「ちろぉぉぉぉおおぉぉぉぉッ!!」』


 ロケットランチャーと無反動砲を前後から受け、女王蟻はその巨大な体躯をとうとう地に着けるのだった。



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