民俗男と神社の神様 夜の神社でお前らは出会った
明日に大事なことを控えているためか、ソワソワする。
とりあえず、他力本願がポリシーなので、神社にお参りとかしてみる。
近所の寂れた神社に、財布を持ってかけ出した。
明日の準備をしていたほうが有意義に時間を使えたかもしれない。
だけど今更そんなことは関係ない。
意識さえしなければ人間なんだって関係ないのだ。
関係者以外立入禁止プレートがぶら下がっているロープ。
そこを一足飛びで越え、境内に。
石灯籠に『大奈義神社』と彫られている。
ここだここだ。
境内の中なのに何故か存在する、無駄に長い階段を登る。
そして、賽銭箱にタックルするような勢いで5円玉を放り込む。
順序が色々間違っているように思うが、まあ気にしない気にしない。
はやる気持ちを抑えるため、ひたすら祈る。
「明日の面接、噛まないように。一つ神様、お願いします」
すると唐突に――本当に何の脈絡もなく。
賽銭箱が足にぶつかった。
「痛っ」
おおぅ……痛い。
地味に痛い。……2日後にじわじわくるタイプの鈍痛だよこれ。
でもまあ、気のせいか。
とりあえず、祈りを捧げる作業に戻る。
しかし。祈ってる途中って何考えてたらいいんだろうな。
祈りなんてコマンド。コントローラーを介してしかやったこと無いぜ。
そんなことを考えていると――
今度は鈴がついたぶっとい縄が、顔面をクリティカルヒットした。
「~~~~~~~~~~~~!」
声にならない痛みが……。
いかん、叫びだしそうだ。
いくら人が少ないといっても絶叫を上げればおまわりさんが事情を聞きに来かねない。
というより、さっきから明らかにおかしくないか?
だって賽銭箱が俺の弁慶に的確に有効打を当ててくるんだよ?
あの縄なんて中心線を走る顔の中央への打撃だよ? 鼻骨が折れるかと思ったよ。
「こりゃあ……何か居やがるな?
こんな事するのは深夜外出の中学生や高校生ってところか。
上等だ。俺が年下に手加減すると思うなよ?
したら負けちまうからな、手は抜かない主義だ」
意気揚々と恨み言をつぶやきつつ、隠れられそうな本殿に歩いて行こうとする。
すると、今度はどこからともなく声がしてきた。
「賽銭を……投げ入れよ」
……ん。おかしいな。
透明感溢れる清らかな声で何かを言われたぞ。
お賽銭? でも……
「賽銭って、ついさっき入れたじゃん。5円玉を」
「紙幣を……投げ入れよ」
「なんかすり替わってないか?」
合いの手を入れて、しばらく待っていても何も起こらない。
このまま諦めるのも中途半端な気がして嫌だった。
仕方がないので、帰りに書店で使うはずだった紙幣を投げ入れた。
苦学生の俺が取り出したのはもちろん英世さん。
「……チッ。黄熱病の若造かよ。
学問ゴリ押ししてくるおじさんの方がいいんだけどな……」
すると、またしても先ほどの綺麗な声が耳を刺激した。
しかし、声の主はかなり俗物的のようである。
先程はどこから声が聞こえてきたのは分からなかった。
しかし今の声で位置を特定した。
やはりそこの本殿の中だ。
「あー……、諭吉さんは残念ながら持ってないんだ。でもまあ、紙幣は紙幣だろ?」
「えー、じゃあ今の紙幣を10枚投入しなさい。そしたら願いを聞いてあげるよ」
「あくまで1万円をせしめるつもりなのか……」
一万円……出したくないな。
持ってるけど。
安くならないか交渉に出てみよう。
「頼むよ。苦学生ではこれが精一杯なんだ。出世払いってことで、さ」
「必要な時に金を使う勇気がなくて、どうしてこの先大金がつかめるのか。byドードリオ」
「なんかそれっぽい名言に聞こえるけど、後半のせいで見る影もなく胡散臭くなってるからな」
こんな時間に、神社の本殿で何をしているのか。
遠回しにそう問いかけようかと思ったのに。
変な迷言でからかわれて腹が立ったので、直接確認することにした。
人を舐めた態度には、灸を据えねばなるまいて。
どうせ相手には常識がないのだ。
常識がない相手の対極に、無理に居座ることもない。
俺は本殿に足を運ぶ。
「あー、こら! 来るな! 神聖な場所なんだぞ!
人間の若造が軽々しく立ち入っていい場所じゃ……」
古びた障子に手をかけ、思い切り横に開いた。
「ご開帳ー」
「神の話くらい聞けやー!」
絶叫虚しく、俺は襖を勢い良く開けた。
うえ……ホコリがやばい。
と、辺りを見渡すと、何かと目があった。
そこにいたのは、いとなまめいたるおなご……ではなく、
どう見ても中学生くらいの寸足らずな少女だった。
長い黒髪を、爽やかな涼し気なかんざしで綺麗に止めている。
それに、顔立ちも……全然悪くない。
でもまあ守備範囲より随分下だな。
「誰? あんた」
「……まさか人間に姿を見られるとは。不覚……」
「聞いてますかー? お嬢さん」
俺の追及に、少女はその場で地団駄を踏んで威圧してきた。
「あーもう! うるさいなあ。ここは神前だよ?
私は大奈義神社に祀られてる神様だよ? 頭が高い!
私の姿を見るんだったら這いつくばれ! この若造」
はあ……でも、ここで這いつくばったらそれこそ犯罪的な画だよ。
それより、今この子なんて言った? 噛み様?
おいおいなんてこった。
面接中に噛みたくないからお参りに来たっていうのに。
まさか祀られてるのが噛むことのプロフェッショナルだったなんて。
最悪じゃん。
火を消そうとして火事現場に灯油を撒くが如しだよ。困ったな。
「で、まあ噛み様? つったっけ。どうなの? 俺が明日噛まないようにできるの?」
「まず致命的な名前の間違いから正していこうか。私は神様。アイアムゴッド。オーケイ?」
「イエース、アイ ハブ ゴッドハンド」
蹴られた。綺麗に弧を描いてのローキック。
結構痛いぞ。
「神様相手に下ネタ言うな。分かった?」
「はい、分かりました。すいません、噛み様」
「一番直したいところが直ってねー!」
あー、もうこの俗物が、と頭を抱える少女。
あんまり悪い気はしない。
まあ、それはともかく、真面目な話。
果たしてこの少女は神様なんだろうか。
そりゃあまあ胡散臭いけどさ。
こんな手の込んだ悪戯、最近の子はしないだろ。
メリットないし。
となると、マジモンの神様か。
やばいなー、機嫌損ねたら存在持っていかれそうだよ。
下手に出ようか。
「で、まあ神様。私はこの度、非常に切実な願いを叶えてもらいたいがため、
そこの箱に諭吉を投げ込んだ所存でありまして……」
「だから神様欺こうとするなって。投げ込んだのは英世でしょ」
「そうです英世です」
こんな無礼な参拝客見たことないよ……。
と失礼なことを仰る少女な神様。
そんなこというなら俺だって神様なんて見たこと無いよ。
それはともかく、俺は明日が面接なのだ。
噛むか噛まないかで就職の可否が決定する、まさに瀬戸際。
ちゃんとお願いしないと。
「でさ、さっきも言ったけど。
明日俺が緊張して噛んじゃうような事態が起こんないように、
神通力か何かで未然にどうにかできる?」
「んー…………えっとね、信仰の強さで、叶えられる願いって決まってるんだ。
そりゃあ某稲荷大社とかになると、賽銭さえ考慮すれば、
寿命10年伸ばすとか楽勝な訳だけど。
うちの神社だったら、精々抜け毛の量を2%抑えられるくらいの願いが最高かなー。
それも一日限定」
へえ、どうやらこの少女は、人類を超越した神通力という能力によって、
人の抜け毛を微妙に少なくする事ができるらしい。
そうか、俺は今日この日、生まれてきて初めて知ったよ。
神通力って、コンビニにおいてある化学に負ける代物だったんだ。
育毛剤って凄いんだな。
まさか神通力を凌駕する代物だったなんて。明日妹に教えてやろう。
「なるほどなるほど。
大層な力をお持ちで、この辺りに住む者として誇らしい限りだよ。
ん、それじゃ夜分遅く失礼しました。英世さん回収して帰ります」
「あ! ちょ……待って。おいこら! 待て! 賽銭ドロボー!」
叫ばれてしまった。
しかも随分と情けない罪を付与されている。
叫んで文句を言いたいのはこちらだというのに。
……おいおい、何か叫んでるうちに少女が涙声になってきたぞ。
これは良心が痛む。回収がし辛い状況に陥ってしまった。
え……いや、でもさ、皆願い事を叶えてほしいからお参りするわけじゃん。
お金を投入して。それでも、もし結果的に叶わなくても、夢が見れるわけだろ?
ひょっとしたら神様が叶えてくれるかも知れない……みたいな。
その過程を糧に生きたいからこそ、賽銭入れるわけじゃん。
でも、でもだよ?
もう神様が俺の願い無理って明言してるんだよ?
俺が信じてた神通力って髪5、6本抜けないようにする程度のものだったんだよ?
賽銭をドブに捨ててしまったと感じても、俺のせいではないと思うのだが……。
紐で英世を釣り上げて持って帰ったら怒るかなぁ……。
と思案しながら、少女の方をチラリと見てみる。
「う……ひぐっ……うぅぅ……」
うわぁ……泣いてるよ。
本気でしゃくりあげてるよ。どうしよう。
俺の良心にボディーブローだよ。血が出そうだよ。
「うぅぅぅ……、くすん……うぇぇ……。
……だいたい、お前達が、賽銭を、入れてくれないから……。
こんなに、神通力がショボイんだよぅ。
そのくらい、分かってるよ、私だって……。
うぅ……私の……、私の力は、本当は、こんなに弱くないのに……。
生きてた頃は……必死に、この辺を守ってたのに。
何で、何で皆……こんなに冷たいんだよぅ……」
何か……死にたくなってきた。
俺の罪悪感のメーターが振り切ってるんだけど。
てか、メンタル弱すぎないか?
賽銭ケチっただけで号泣されてしまった……。
何でここまで……ひょっとして寂しいのかな。
でも、参拝客とかがいたらそこまで寂しくは────
と、ここで気付く。
遅すぎるといえば遅すぎるが、俺に洞察力や論理的思考を求めないでほしい。
そう言えば、俺が大学に行く時と帰る時――というかいつ見ても、この神社に参拝客はいない。
一人もだ。
あんまりにも参拝客がいなさ過ぎて、
ここの地元の者でさえこの大奈義神社を知ってるのか怪しいくらいだ。
そういえば、この神社を管理してた最後の神主が、
随分前にお亡くなりになったという話を、
以前何処かで聞いたことがあるような……気がする。
印象が、余りにも薄すぎる。淡すぎる。
待てよ? てことはまさか……この神社って、廃神社に分類されるのか……?
ちょっと失礼して、賽銭箱の中身を見てみる。
俺が先ほど入れた英世。
それが箱の底の方にある蜘蛛の巣にひっかかって、ブラブラと揺れている。
これは……相当の期間手入れされてないぞ。
最後に、本殿の襖の横に、
ビニールをかぶせて水に濡れないようにしている紙が貼り付けられている。
そしてそれを見て、懸念は確信に変わる。
ビニールが劣化して破れてしまい、
紙地が直接外気に晒されていて、インクさえも掠れてしまっている。
だが、何とか……読める。
『求人告知。
神主不在のため、善意でこの神社の神主をしてくださる方を募集しています。
仕事内容は、神社内の清掃、管理、運営。有志のため給与はありません。
その代わり、住み込みでの運営等を許可します。
志願者は、市役所までお申し出下さい。告知開始:1987年、4月7日
改訂:大奈義神社は、行政の方針により、廃神社となることが決定しました。
よって、神主が決まるまで、大奈義神社は地方行政が所有する保留土地とします。
改訂日:1989年、12月7日』
……決まりだな。
ここは、大奈義神社は、正式な神社じゃない。
20年以上前に人々から忘れられた、廃神社だ。
信仰どころか、認知すらもされていない。
神社ならざる神社。
神様を必要としなくなった現代の風潮が、顕著に現れた結果、というわけか。
「うぅ……ひぐぅ、もう良いよぉ……帰れよ馬鹿野ろぉ……」
土地を見守り続ける神様は、人の心に残っていない。
誰も自分の存在を、必要としない。
人間に置き換えてみても、そんな境遇を強いられれば確実にやさぐれる。
むしろ、やさぐれるだけで済むのなら、それは精神が強いの部類に入るのかもしれない。
さっきはメンタルが弱いと言ったが、そんなことはなかったか。
「誰も、私なんか……覚えてないんだ。
うぅぅ……。必要とされてなんて……。
なのに、願いを叶えろなんて……勝手すぎるよぉ……。
帰れ。帰れよぉ……」
孤独に打ちひしがれた神様――いや、少女の姿は、見ていてとんでもなく辛い。
こんな状態に身を置いていれば、こっちまで欝になってしまう。
何でこんな状況に居合わせなきゃいけないんだ。
……そういえば、俺は何でこの神社に来た?
全ての原因と根幹はそれなんだ。
理由は……なんとなく。
そうだ。なんとなくだ。
明日が面接だから、神頼み、なんてことを考えてたんだ。
なんという、他力本願。破滅的な願望。
自認しているだけに、その言葉は好きでない。
俺が本当にしたいのは、人に何かをしてもらって、ヒモな生活を送ることじゃない。
本当は、自分の好きなようにして、
人を、他人を――誰でもいいから俺以外の誰かを、幸せにしてやりたい。
郷土を研究すればそこに行き着くと信じて、俺はこの学科を先行したのだ。
その思いを忘れること無く、今日俺は学び舎を卒業したんじゃないのか。
そうだ、思い出した。
誰かを幸せにする。してやりたい。
――これが、嘘偽りのない、俺の本心なんだ。
「ひぐっ、うぐっ……。帰れ……帰れよ……帰れよぉ……。
帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰帰れ帰れ帰れ────────」
「分かった」
「……え?」
俺は、踵を返して、本殿の外に出た。
そして、そのまま歩を進める。
迷いや躊躇は一片もない。
俺が本殿を立ち去るようにして外に出ると、後ろから少女が追いすがって来た。
泣き腫らした悲哀に満ちた顔で。
そこには神としての威厳がどこにもない。
切実な願いを前にすれば、人間も神も区別はなくなる。
「あ……あぁぁぁぁ。待って……待ってよぉ!
嘘! 嘘だよ! えへへ……ごっどじょーく。
ぁ。嘘! だからさっきのは嘘だって! 行かないでよぉ……。
──お願いだから、一人にしないでよぉ……」
少女も、本心をここに来て――吐露した。
それが本心なのだと、信じたい。
数十年ぶりに来た参拝者に帰ってほしくなかったから。
気付いて欲しかったから、賽銭箱をぶつけた。
縄をぶつけた。
傲慢に振舞った。
強がった。
そして──泣いた。
……ちょっと勝手な解釈かな。
でも、外れてはいるかも知れないけど、当たってはいるはず。
矛盾した感情についてくる答えも、また矛盾しているのだから。
俺は、少女の嘆願を聞いても顔には何も出さず、境内の外に通じる階段へ向かう。
先程も言ったが、迷いは微塵もない。
これが、俺の答えだ。
――ジャラジャラ!
――バサッ! パサッ、パサッ……
財布をポケットから取り出して、ジッパー的なのを開け、
札も取り出し、財布にあったすべての金を賽銭箱にねじ込んだ。
総額、71万7000円てところか。
何度も言うが、俺は苦学生だ。
この金は、大学で4年間バイトして、卒業後上京しようと思って貯めていた金。
これが俺の全財産であり――俺の気持ちだ。
「……え。……えぇ!? か、帰るんじゃなかったの?
そ……そんな、いっぱいのお金っ、いいの?
貧乏なんじゃ……なかったの?」
小さな神様は、泣き腫らした目を丸くし、俺に慌てて訊いてくる。
「苦学生だからって金がないと決め付けんなよ。
これは俺が死ぬような想いをして貯めた金だ。
まあ、それはいいけど。それより、俺に帰って欲しかったのか?」
俺の意地悪な問いかけに、少女は必死になって首を横に振る。
……そんな反応をされるといろいろ困ってしまう。
「ホントは、帰って欲しくないけど……しょうがないよね。
……あ、お金は神通力に換えるね。
これだけあれば、噛まないようにできるよ? 神通力が増強できるから」
何か、急に表情が明るくなったと思ったらまた沈む――そしてまた明るく。
少女の心を知るのは難しいな。
あれ、神様だったけか。
なら、神様に嘘は付けないな。
真摯に紳士に行こう。
「いや、もうその願いはいいよ。
てか、その金は俺の金だ。
そしてその賽銭箱は俺の貯金箱。
勝手に神通力に換えたら許さないぞ。
それと──20年前に死んだ神主さんは、何代目なんだ?」
俺の貯金箱宣言の意図がわからないらしい。
ま、可愛いからいいや。
少女は口に手を当てて黙考した後、緩やかに答える。
「に……二十六代目……かな?」
そっか、結構歴史あるんだな、ここ。
俺はフッと笑う。
気障っぽいと思って少し恥ずかしく感じたが、まあいいや。
「じゃあ、二十七代目神主として、よろしくな。小さな神様」
少女はしばらく黙りこむ。
……頭の回転は早いほうじゃないのかもしれない。
「え……それって……つまり……」
「昨日まで、民俗学を専攻してた大学生だ。
今日卒業式を済ませたばっかの若輩者だけど。
そこは……まあ、なるようになるさ。
重ねて言うぜ。よろしくな、神様?」
少女は何かを言おうとばっと顔を上げたが、少し考え直していきなり走ってきた。
あ、神様の移動方法って浮遊とかじゃないんだ――
と、そんなことを考えていたら、神社に来た時よろしく深刻なダメージが、腹に。
「グハァッ」
ナイスタックル。
胃液が飛び出るかと思ったぜ。
トライを封殺できそうだ。
そんな気も知らず、少女は背中に手を回して、抱きついてくる。
暖かい、それは少女そのものの――温もりだった。
ああ、神様にも体温ってあったんだな。これは良い発見。
民俗学の研究が進みそうだ。
でも……そういえば、もう卒業したんだっけか。
この神様の熱に当てられてうっかりしてた。
神様な少女は、先ほど言い澱んだことを俺の胸に頬を当てながら――言った。
「……ありがとう。……よろしく……ね」
俺は、微笑みながらそれに答える。
「これでもう、一人じゃない……よな?」
言ってるうちに恥ずかしくなって、語尾の声が上ずってしまった。
本当、俺は決めることができない男だ。
まあ今更って話だけどさ。
思い返してみれば、随分普遍的で、
変則的な気の迷いから俺の将来は決定したけど、全然後悔してない。
むしろ、嬉しいって感じだ。
俺の本当にやりたいことは、ここで出来るんだって分かったからだと思う。
幸せの定義なんて知らない。
一人の定義なんて知らない。
でも、こいつが、そして俺が、幸せだ、って感じたんなら、それは幸せだよな。
そう信じて、今日も俺は小さな神様と協力して、神社を盛り立てる。
こいつと出会ったあの夜、それを俺は忘れることはないだろう。
あの夜の3日後に、市役所の廃神社リストから、
一つ神社名が消えたことと、同じようにさ――