"惡黨"
美食は呪いだ
少なくとも、まずいものを食べる暮らしには戻れ無くなる
魔の者に生まれて暫く経つが、もはや人型種を殺しても『残酷』とは感じ無くなった
当然、魔族としての僕は赤児の様なものだが、それでさえ他種族からすれば圧倒的で在るらしい
今や、造作も無く生命を奪える位には、僕も強くなった
そして、美食である
換毛期のハーピーだけが持つ、『血羽』の霊妙な味わいに、僕は狂ってしまった
その味としなやかな食感から、ハーピーしか食べない魔族は美食家の中では珍しくなく、人間にすらハーピーを好んで食べる者が存在する
柔らかだが存在感の在る筋繊維に甘い脂が絡まった特有の肉は、個人的には生食にも加熱にも適していると感じる
そして───こうした趣向は、むしろ我々よりも人間の美食家の領域だが───最大の美味である、翼を食い千切られたハーピーの憐れなる様もまた、僕は美食の一部で有ると考えて居た
どの道、我らは神に選ばれ無かった怪物なのだ
それならば、享楽を慰めとして無辜の者を踏み躙り生きるのが、自らの生命、与えられた生という時間への礼儀なのでは無いかと僕は思う
力尽きたハーピーが、山林の道で泥に塗れて斃れて居る様を
僕は、冷めた眼で視下ろして居る
僕の眼ならば山中で在ろうと、ハーピーに血羽が生えているか判別する事が出来る
一般的な羽獣と違い、ハーピーの換毛期は年齢によって訪れる
これは即ち『美食家』の狩りが、季節に関係無く常に可能である事を意味して居る
また、その換毛期が『幼生の時に行われる』という事実も、狩りをより楽しく、簡単なものにして居た
斃れたハーピーが、雨に打たれながら僕を睨む
少年を食べるのは初めてだった
偶然が重なって居たのか、はたまた僕の好みの肉が雌だったのか
「たまには趣向が変わるのも」
「面白い」
歩き寄りざまに片足で数度、あちこちを踏み付ける
少年の口から赤い唾液が溢れ出し、痛みに少年は躰を丸め、短く痙攣した
きっとこれで、戦意は喪った事だろう
僕なりの『調理』だった
ハーピーの片羽根を掴み、無理矢理持ち上げる
血羽は生え変わりたての羽根な為、内部には僅かに血管が通って居る
僕の与えた乱暴で、既に幾つかの血羽が剥がれては、純白だった少年の翼を紅く汚して居た
血は雨に濡れ、水彩のように拡がっていく
その様をしばし眺めたあと
僕は彼の翼を、可食部位で在る根本から噛み千切った
わざと少年を地面に再び転がして、視せ付けながら翼を貪る
ハーピーの血羽には幼い柔らかな肉が付着して居て、この部分が最大の美味だ
少年が悔しそうに涙を溜めて、僕を視上げる
「もう片方は食わない」
「次に血羽が生える時になったら、また僕が味わう為にね」
少年が堪えきれず、声を上げて泣き崩れる
その涙を拭う為の翼は片方が毟り取られ、もう片方は骨が折れて動きもしなかった
僕は、無防備にも腹を晒して仰向けで泣き崩れる少年を肴に、わざと音を立てて羽根を貪り続けた




