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第六章


 整えられた街道の別れ道で、彼は足を止めた。

 

 グランヴェルドの王都に続く道に足を踏み出しかけ……ローブを翻しもう一つの道を選ぶ。


「……こっちは?」


 案内板に手で触れながら問われるが、首を横に振る。


「……違う」










 揃った軍靴が街道を踏み鳴らす。

 みすぼらしいローブとは比較もできない、美しい鎧を纏った騎士が彼の進路を塞ぐように隊列している。


「元勇者……カイル!!」


 指揮官であろう騎士が前に出て、声を張り上げる。


「貴様はもはや英雄ではない……人類の敵、魔王だ!」


 目の前の騎士に、カイルは虚ろな瞳を向ける。

 

「……間違いだ」


「間違いではない!! 貴様のしてきたおぞましい行為、全てを把握している!! 周辺国全て……いや、人類は貴様を共通の敵として粛清するべく、我々はここに集結した!!」


「あれで、人類の代表顔してるのかよ……せいぜい周辺国の義勇兵だろ?」


 カイルの側からそんな軽口が聞こえてくる。

 カイルは一つ頷きを返し、フードを取り、騎士達に向き直る。


「なんと……おぞましい姿だ……!」


 這い回るように動く黒い紋様を肌に浮かべた化け物が騎士達の眼前に晒される。


 身勝手な人間達は、カイルの姿を口々に罵り、嫌悪の言葉を投げ掛ける。


「……もはや、貴様の生を許すわけにはいかない。そんな手段を持っても貴様を討ってみせよう!!」


 高々と宣言する指揮官の声に賛同するように、騎士達が声を上げる。


 そして、後ろから両手を縛られた壮年の男が連れてこられる。

 

「カ、カイル……」


 幼い頃の記憶がカイルの脳裏をよぎる。

 一人になったカイルに食事を分け、剣を教えてくれた男。


「お前……どうしてこんなことに……」


「……ぁ」


 胸につまった空気が喉でつまり、言葉にならずに音を出す。


「あいつら……信じられねえな」


 憤る言葉がカイルの横を通りすぎる。


「なあ、あんな奴ら、全部始末しちまえばいいだろ?」


「観念するのだな元勇者……いや、化け物よ!!」


 騎士達がカイルを殺せと叫んでいる。

 壮年の男がカイルを見つめて涙を流す。


 手足が強ばり、呼吸が浅くなる。


「ノア……どうすればいい?」


「……やっちまえよ」


 耳元で導く声に……身体が軽くなった。


 カイルの思考が、ぐらりと揺れる。












 血に濡れた柄が滑り、カイルの手から剣が落ちた。


 静かになった街道にその音だけが響き渡る。


「お、まえ……そんな、力をどうやって……」


 壮年の男が震える口を開く。

 カイルは答えずに剣を拾い上げる。


「流石に疲れたんじゃねぇか?」


 ノアが気遣うように、カイルの顔を覗きこむ。


「いや、このくらい……平気だ」


「本当かぁ? お前昔から無茶しがちだっただろ?」


「……お前に言われたくない」


 おどけて言うノアにムッとしながら返せば、ノアはカイルに笑い返す。


「な、なあ……カイル……」


「……ここはもういいな」


 ローブを被り直して、汚れた手を拭い、身支度を整える。


「……残ってるけど、いいのか?」


「……残って」


「カイル!!」


 言葉を遮るように、壮年の男は声を荒げた。

 ノアとのカイルの間に割り込み……彼はカイルを見つめて問いかける。


「……おまえ……ずっと、誰と話しているんだ?」


 カイルの視界が再び揺れる。

 目の前の男の輪郭がぼやけていく。


「誰……だれっ、て……」


 視線を落としたカイルの足元に、始末した者の持っていた紙切れが飛んでくる。


 ぼやけていて良く見えないその紙を、ノアがぐしゃりと踏み潰す。


「なあ……こいつも間違いなんじゃないか?」


「ノア……」


 カイルは迷子の子供のような声で、ノアの名前を呼ぶ。


「カイル……大丈夫だよ。全部、間違いにしてきただろ?」


「ああ。そうだ……全部間違いで……」


 帰るべき家を見つけたような視線で話続けるカイルに壮年の男が詰め寄る。


「カイル……しっかりしろ! ノアは……王都で処刑、されたんだろう?」

 

 微笑むノアの輪郭が崩れていく。



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