幕間
誰もいない美しかった街。
人だったものが散らばり、殺し損ねた者もとうの昔に逃げ出している。
窓が割れ、焼け焦げた民家や商店。
硝子に交ざり、売られていた商品が地面に転がっている。
ローブの男が躊躇せずにそれらを踏み砕く音だけが存在していた。
パチパチと火花が弾ける音と小川の音だけが静かな夜に響く。
「……なんで、街で夜を明かさなかったんだ?」
「……街は嫌いだ」
「……それもそうだな」
汚れを洗い流したローブを乾かすためにと、カイルは焚き火の傍にローブを広げる。
焚き火の焦げたような匂いが、嫌いな場所の匂いを彷彿とさせて不快感が込み上げてくる。
誰かの足音がする気がして、後ろを振り返る……だが、そこには何もない。
その感覚を振り払うように携帯食料……水分のない硬いビスケットにかじりつく。
「もっと良いもん食えばいいだろうに……」
「……これで良いんだよ」
「まあ、食い慣れてるもんな?」
焚き火を挟んで反対側で腰かけたノアが笑いかける。
「世界を救った勇者様がビスケット齧ってるって……夢がねえよな」
立ち上がりのびをし、その場で退屈をまぎらわせるかのようにうろうろと歩き始める。
「……おい、落ち着いて食えないだろ」
「……そんな繊細じゃねえだろ、お前は」
クスクスと笑いながら、歩き回るノアから視線を外して、カイルは手元のビスケットに視線を落とす。
「……お前は……ずっと一緒に居てくれるんだよな?」
夜の冷たい風が焚き火を揺らし、大きな欠片がパチリと弾ける。
ノアが足を止めて、焚き火とカイルの間に入り、ビスケットを持つ手に手を重ねる。
「当たり前だろ? ……お前が望んでくれたんだから、ずっと一緒だよ」
「……間違いじゃないから、な」
夜の寒さに包まれて、焚き火の暖かさをやけに遠く感じていた。




