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第一章


 異形の存在……魔王の身から溢れでた青い血が人の赤い血と混ざり合い、床を汚していく。


 身体のあちこちから血が滲み、痛みを訴えない場所などない。それでも、命を削る覚悟で振った勇者の剣が、魔王に届いた。


 力が抜けたがらくたのように魔王は血だまりの中に倒れ伏す。そして、この世の全てを恨むような声で勇者に語りかける。


「勇者よ……身のほどを知らず、力を求めた愚か者よ。……お前が望んだ力を与えてやろう」


 呪詛のようなその言葉と共に勇者……カイルの身を黒い霧が包み、その身に焼けつくような痛みが走った。


「ぐっ……!!」


 思わずその場に膝をついたカイルの肌に、文字のようにも、紋様のようにも見える黒い痣が浮かび上がる。


「おい!! 大丈夫か!!」


「ああ……このくらいなんともねえよ」


 カイルは駆け寄ってくれた戦友……ノアに心配をさせまいと笑顔を向ける。


「けど……」


「……俺よりもお前の方がボロボロじゃねえか」


 尚も心配するノアに、いつものおどけたような調子で返せば、彼も戦いに臨むためのはりつめた空気を緩ませ、口元を綻ばせる。


「そりゃあ、まあ……流石に戦闘では勇者様には敵わねえからな?」


「そうだな……全く、一兵士が良く魔王との勇者の戦いについてこようと思ったもんだな」


「まあ、勇者様とずっと一緒に鍛えられてきた兵士だからな。それに……弱くてもタフだろ? 子供の時にした約束どおり、ちゃんと最後まで一緒に戦ったんだから」


「……ガキ庇ってボロボロになってたやつがよく言うな」


 ノアが差し出してくれた手を取り、カイルはゆっくりと立ち上がる。彼のことを笑ったが、カイルも他人のことを言えないほどに疲弊している。


「でも、これでやっと終わりなんだな……」


「ああ……お前はこれで人類を救った英雄……本当に誰にも否定できない勇者様になったって事だな」


「まあ、暫くはのんびりしたいな……兵士なんてやめて二人田舎で畑でも耕すか?」


「勇者様印の野菜……とか言って売り出しちまうか!」

 

 魔王という存在に脅かされることなく平和を享受し、何て事のない日常を送る。……その筈だった。











 華やかだった筈の王都に響き渡る悲鳴。

 白く美しい煉瓦道は人から流れ出た赤と、焼け焦げたような黒に穢れていく。

  

 我先にと逃げ出そうとして足を縺れさせて転ぶ者達。

 子を庇うようにその腕の中に抱き締める母親。


 圧倒的な魔法になぎ払われ、塵のように地面に崩れ落ちる。


 広場の中心に立った黒いローブの男は呼吸するように魔法で、剣で、人を殺していく。

 

 民を守ろうと騎士が斬りかかれば、大人が子供をあやすようにいなされて、斬り払われる。


「ば、化け物……!!」 


 かろうじてその場に立っていられた者が、男に向かって叫ぶ。

 

 返り血に染まったローブが翻った。

 震えながら叫ぶその姿が虚ろな瞳に写る。


 化け物と詰られたその男の肌には、時折脈動するように蠢いている黒い紋様があった。


 化け物は叫ぶ彼に、手を向ける。


 人が焼け焦げる匂い。

 散らばる血液の鉄臭さ。


 どこからか、風に飛ばされてきた紙切れがガサガサと音を立てながら男の足元を飛んでいく。


「間違ってる……こんな世界は」


 その声を聞く者はもう誰もいなかった。


 

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