灯が導く先へ
深夜の山間の集落を、パトカーの赤いランプが照らす。ひとりの母親の悲痛な声が、塗りつぶされた夜空に響き渡る。
「蒼真! 蒼真! どこにいるの!?」
騒ぎの聞きつけて、深夜にも拘らず近所の家も明かりをつけ、窓を開けた。
「なんだ? 宇津森さんのとこ、なにかあったのか」
「子供がいなくなったんだって。学校の裏山に向かっていったのを見た人もいたみたいよ」
ざわつく近隣住民の声は、パトカーのサイレンに掻き消された。パトカーの中の警察官がぼやく。
「またあの山か。これで何人目かな」
「そこの山、しょっちゅう迷子が出るんですか?」
助手席の若手警察官が首を傾げ、運転席のベテランはため息をついた。
「そんな生易しい話じゃねえよ。よく覚えとけ、新人。ここらに住んでる人には分かりきった話だ。あの山には、固有種の変なキノコが生えててな」
唸るサイレンの中で、警察官は淡々と話した。
「冬虫夏草って知ってるか?」
「あー、虫に寄生するキノコでしたっけ。菌糸の状態で寄生して、最後には虫を養分にしてキノコ生えるやつ」
「そう。それの近縁種の中には、虫の行動をコントロールする種類もあるんだが……」
この集落には、昔からわらべ歌が残っている。
「そこの山のキノコは、虫じゃなくて人に寄生するんだ」
森の奥に 光が灯る
誰も知らない 木の根の下で
ひとりぼっちの 子供が来れば
優しい声が 名前を呼ぶ
「発光して、人を誘導してな。胞子を吸った人間は、ものの数分で寄生されて脳神経を支配される。意志を菌に操られて、ゾンビみたいに彷徨う」
「ひえっ、怖!」
水をあげれば 地が潤い
手を触れれば 心が繋がる
「脳を菌に持ってかれたら、外見はその人のままでも本人の思考は一切なくなる。キノコの繁栄のためだけに、新たな餌食を探すように行動操作されるんだ」
「寄生されたら、もう助からないんですか?」
「脳がやられてるからなあ……。聞いた話じゃ、身も心も地中の菌糸ネットワークの一部に取り込まれて、キノコの養分になっちまうとか、なんとか」
けれどその先 帰り道
「菌類学者の話じゃ、菌糸ネットワークの中心となる木に、吸収された人間の記憶が保存されてるんだとよ。木が『記憶の中枢』になって、菌になんらかの作用を起こしてると考えられてるらしい」
「体も、心も、記憶も、全部乗っ取られちゃうんですね」
「ああ。だからあの山には入っちゃいけない。この地域ではずっと、そう言い伝えられてるのになあ」
どこにも もう 見つからない




