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番外編4:二人の過去

 昔から、乗り物という乗り物に弱かった。

 馬車も苦手、船は地獄、転移魔法は――怖くて使ったことがない。


 貴族令嬢として、致命的。気づいたのは、忘れもしない7歳のお祝いに親戚の家を連れ回されたときだった。

 一軒目の祖父母の家でぐったりと青白い顔になり、二軒目の従兄弟の家では、馬車から一人で出ることすら難しくなった。


 そんな私の人生は、常に酔いとの戦い。


 一番苦労したのは、貴族の子なら誰もが通う王立学園への入学だった。


「セレスティアお嬢様、本当によろしいのですか?」

「ええ。後のことはお願いね!!」


 当時の私に通わないという選択肢はなく、強力な睡眠薬を飲んで、寝ている間に王都へ運んでもらい、入学試験を受けた。


「やった! 一位よ。……これで、学生寮が使える!」


 試験の結果を見て、歓喜した。王都にある我が家のタウンハウスから学園までは、馬車で30分。だけど、30分は私にとってとても大きな壁。

 学生寮は、本来タウンハウスを持たない下位貴族や優秀な平民のためのもの。学園内にあり、衣食住が無料で提供される。


 入学してしばらくすると――


「平民の居場所を奪って楽しいか?」と、フルネス侯爵家の次男、アーネスト様に詰め寄られ、少しだけ傷ついた。

 他にも「家族仲が悪い」だとか、「成績を自慢したいのだ」とか。ありもしない事実が噂されていた。


「仕方ないだろう。何も事情を知らないんだ。それに――」

「そうよね。できるだけ事情を明かすなとお父様に言われているものね……」


 慰めてくれたのは、同い年の従兄弟のハワード。お祝いの時に訪れた二軒目の家の嫡男だった。


「社交ができないなんて知れたら、婚約が難しくなるからな」

「私は結婚なんかしないで、いつまでもお父様の傍で楽しく暮らしたいわ」

「その言葉を喜ぶのは、お前の父親だけだよ……はぁぁ」


 ハワードの言葉は正しい。グラウス伯爵家は、私と妹の二人姉妹だから、どちらかが婿をとって家を継がなければ、断絶してしまう。


「まぁ、お前が聖女にでもなれば、少し風向きが変わるかもな?」

「それも、お父様にはあまり明かさないように仰せつかっているわ」

「そうだな……はぁぁ」


 私には、少しだけ癒しの力がある。でも、この国で癒しの力を持つものは珍しい。悪用される恐れがあるから、ひた隠していた。


「自分の乗り物酔いも治せたらいいのにね?」

 私は呑気に笑った。


 

 一方、その頃のアーネストは……


 

 昔から、物事の真理を知るのが好きだった。

 気になったものは、寝食を忘れて調べる。

 優秀な兄と比べられても、何も気にならなかった。


「兄さん、俺、学園を卒業したら、王国魔術師になろうと思うんだ」

「いいんじゃないか」

 兄のフローリーは、のんびりと笑った。


 見た目はのんびりなのに、とてつもなく頭が切れる。俺の自慢の兄だ。


「家を継ぎたくないんだろ?」

「だって、兄さんの方が優秀じゃないか!」


 俺は怒りが湧いた。俺も優秀だと言われるけれど、兄さんも優秀。2人の違いは見た目だけだ。

 のんびり見える兄さんと、冷徹に見える俺。周囲は同じ優秀さなら、侮られない方が良いと言った。


 でも、両親や兄は違う。


「お前は優秀だが、気になると周囲が見えなくなるからな」

 兄は大きく口を開けて、朗らかに笑った。


「そうだろ? それに、兄さんの方が相手を油断させられる」

 俺は、口角を上げて、ニヤリと笑った。


 そんな俺達を両親は優しく見守ってくれる。


「王国魔術師でも、将来は実績を認められれば爵位が与えられるらしいぞ。

 今、王太子が必死に法案を練っている」

 兄がこっそりと教えてくれた。


「へぇぇ」

 気のない素振りで返事をしたが、心は未来への希望で溢れていた。


「まずは、学園を卒業しなきゃな!」

 兄が俺の頭をガシガシと撫でた。


「やめてくれよ兄さん! もう幼い子どもじゃないんだぞ!!」

 そう言いながらも、嬉しくて顔がニヤけそうになる。


 俺は、静かに野心を燃やした。


 入学試験の結果は次席。

 首席は、伯爵家の令嬢だった。

 貴族のくせに、寮で暮らす変わり者だ。


「君か、貴族のくせに寮でふんぞり返っているやつは」


「どういう意味でしょうか?」

 令嬢は、強い瞳で俺を見返した。


「平民の居場所を奪って楽しいか?」

 令嬢は、わずかに瞳が揺らし、何も答えずに立ち去った。


 貧しい平民のための寮を独占するなんて、許せない。

 理由が聞きたかったのに、失敗だった。


(すぐに俺が首席を奪い、追い出してやる!) 

 

 今日からクラブ活動だ。俺が入ったのは、魔術研究部。

 俺の未来は、きっと明るい!


 ――これは二人が出会った頃のお話。


*おしまい*

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

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