番外編3:醜い嫉妬です―アーネスト視点―
「どうやったら聖女様みたいになれるの?」
孤児院の子どもたちがセレスティアに笑いかけた。
彼女は、自分で馬に乗れるようになると、
領地にある孤児院への慰問を始めたのだ。
幼馴染みのハワードが常に同行している。
「私、聖女クビになったから、聖女じゃないの。
でも! そうねえ、愛する人がいれば…ね?」
セレスティアが、ハワードを見上げた。
ハワードは、筋肉コンテストの第一回優勝者。
今では、伯爵家の護衛をしている。
つまり、四六時中セレスティアにつきまとっているのだ。
「そうだなぁ。
あとは、弱い自分も受け入れることだろうか?」
「説教ジジイ!」
睨見つけるセレスティアは、とても楽しげだ。
(くうぅぅぅ……)
俺は、投影箱に映るセレスティアを眺め、歯噛みした。
投影箱は、俺が新たに開発したセレスティアの見守りグッズだ。
何かあれば、俺がすぐに転移で駆けつけるつもりでいる。
「お義兄様、バレたら嫌われますよ!?」
そう呟いたのは、義妹のディエール嬢だった。
「意地を張らずに、追いかけてはいかがですか?」
「今は無理だ。
魔術師団の引き継ぎと伯爵家の領地経営引き継ぎで、手一杯なのだから」
俺は息を長く吐き出した。
「お姉様も、意地を張らずに"会いに来て!"と言えばいいのに」
彼女は時々おかしなことを言う。
「会いに行っているぞ」
俺は、事実を告げた。
「まさか、お姉様は投影箱のことをご存知なのですか!?」
ディエール嬢が、目を丸くした。
「伝えてないから、知らないだろ?」
「なぜ居場所がわかるのかと、
お姉様は疑問に思わないのですか?」
ディエール嬢が、呆れ顔で尋ねた。
「バレたところで、護衛だと真実を伝えるだけだ。
俺の発明の才能と愛されている実感で、涙ぐむくらいはするかもな」
「あ、あなたねぇ。
もう、お姉様にお伝えしますからね!」
俺の返事に、なぜかディエール嬢は怒っているようだった。
――数日後――
「どうしたらこうなるのですか?」
巡礼から帰ってきたセレスティアは、ものすごい勢いで伯爵家の執務室へ乗り込んできた。
「何のことだ?」
俺は、首を傾げた。
セレスティアが震えている。
(もしや投影箱の件を聞いて、
感動で打ち震えているのか?)
「どこまで、どこまで見ていたのです?」
「やはりそのことか。時間がある限り全てだ」
俺は、照れ隠しに頭を掻いた。
「は、はぁ!?」
「あ、でも、着替えは…見てないぞ」
一度だけ見てしまいそうになったことを思い出し、顔が熱くなった。
「そういうことではありません!!!」
「ん? どういうことだ?」
「覗きだなんて、悪趣味です!」
「覗きではない。護衛だ」
「護衛はハワードたちです!」
「そいつが一番の問題だ。
なぜあんなに気軽に微笑みあって……」
「親戚です!」
「親戚だからと言って、あのように顔を近づけるのか!?」
俺は、少しだけ声を荒げた。
「醜い嫉妬は止めてください!!」
ビクンッ。
セレスティアの言葉に、身体が跳ねた。
「嫉妬だと?
そのような生産性の低い行為を、俺がしたというのか!?」
嫉妬……。
嫉妬?
「次に投影箱を使ったら、婚約破棄させていただきます」
セレスティアが、顔を真っ赤にした。
「怒ってるのか?
だからといって、愛し合う俺との婚約を破棄する?」
俺は、混乱の渦に飲み込まれた。
「そういうところです。
そういうところが――」
「待て! 待ってくれ」
俺はセレスティアの言葉を遮った。
「それよりも俺は……。
俺は、いつまで婚約者なんだ! (ボンッッッ!!)」
頭の中で、ついに思考がパンクした。
「問題はそこじゃありませんのよ、もうっ」
セレスティアが眉を下げて、俺の顔を両手で挟む。
(なんだ? なんなんだこれは!?)
「もう少しだけ、自信を持ってくださいね」
セレスティアは、俺の目をしっかりと見つめた。




