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第13章:崩壊への道標と、招かれざる客

 地下礼拝堂の祭壇を粉砕すると、その下には無機質なエレベーターシャフトが隠されていた。ワイヤーを切り裂き、重力に任せて落下する。着地した先は、地上の白亜の街並みとは対極にある、血とオイルに塗れた解体工場だった。


「……ここが、あの失敗作たちの製造ラインか」


 ベルトコンベアの上には、まだ息のある「部品(少女たち)」が流されていた。機械アームが彼女たちの手足を切断し、兵器ユニットを縫い付けていく。自動化された地獄。司教や信徒たちは、この光景を知った上で「神の御業」と崇めていたのか。


「マスター。……壊そう」


 ティナの声は氷点下だった。彼女は俺の手を握りしめている。その爪が食い込むほど強く。


「こんな場所、1秒だって残しておきたくない。僕の……僕たちの『特別』を汚すゴミ溜めだ」


 彼女の怒りは、正義感から来るものではない。「自分と同じ顔をしたモノが、大量生産されている」という生理的な嫌悪と、俺に対する独占欲が裏返ったものだ。


「ああ。派手に行こうぜ」


 俺は右手を振るった。蒼い閃光が工場内をはしる。製造ラインが爆発し、天井が崩れ落ちる。警備ドローンや研究員が駆けつけてくるが、今の俺たちの敵ではない。


「邪魔だッ!」


 俺たちは嵐のように進んだ。慈悲はない。ためらいもない。目につく全ての動くものをスクラップに変え、最深部のコントロールルームへと到達した。


 部屋の中央には、巨大なメインサーバーが鎮座していた。俺は血に濡れた端末を操作し、データを検索する。目的はただ一つ。このふざけた施設の「総本山」の場所だ。


「……あった」


 地図データが表示される。大陸の西方。広大な砂漠地帯の真ん中に、ポツリと赤いマーカーが点滅している。『第3管理区域』。そこが全ての始まりであり、終わらせるべき場所。


「西の砂漠……。やっぱり、あの方向だったか」

「データ、もらったよ。……あとは消去デリート


 ティナが端末に手をかざす。彼女はサーバー内に保存されていた「量産型ミスティルテイン」の設計データを、物理的に焼き切り始めた。


「こんなデータ、もういらない。世界に『鍵』は僕一つでいい」


 バチバチと火花が散る。彼女の横顔は、鬼気迫るほどに美しく、そして危うかった。自分以外の可能性を全て塗り潰そうとする、強烈なエゴ。だが、今の俺にはその歪さが心地よかった。


「よくやった」


 俺がティナの頭を撫でようとした、その時だった。破壊されたはずのメインモニターが、不意にノイズを走らせて点灯した。


『――あらあら。随分と派手に散らかしてくれたわね』


 スピーカーから響く、甘く粘り気のある声。俺の手が止まる。忘れるはずもない。あの森で、姉さんを殺す引き金を引かせた女だ。


「お前は……ッ!」


 モニターに映し出されたのは、ワイングラスを片手に優雅に微笑む白衣の女だった。彼女は怒るどころか、まるで成長したペットを見るような目で俺たちを見つめている。


『久しぶりね、オージ君。それにティナ。……随分と仲良くなったみたいじゃない』

「……てめぇ、何者だ」


 俺は殺意を込めて睨みつけた。顔は知っている。声も耳にこびりついている。だが、こいつの名前すら俺は知らない。


 女は可笑しそうにクスクスと笑った。


『あら、失礼。そういえば、名乗るタイミングを逃していたわね』


 彼女はグラスを軽く掲げ、芝居がかった仕草で一礼した。


『私はヒルダ。この施設の主任研究員であり……あなたたち「被検体」の生みの親よ』


「ヒルダ……」


 俺はその名を口の中で転がした。憎悪で胃が焼けそうだ。こいつが、全ての元凶。


『場所は分かったかしら? 「第3管理区域」。私はそこで、あなたたちの帰還を待っているのよ』


 ヒルダは愉悦に目を細めた。


『鉄屑の街、腐海の森、そして宗教都市……。3つの拠点を壊滅させ、多くのデータを取らせてもらったわ。特に、その「感情ノイズ」に支配されたティナの挙動……実に興味深い』


 彼女は俺たちの旅を、ずっと観察していたのだ。俺たちが味わった苦しみも、葛藤も、すべて実験データとして。


『感情を持った兵器が、どれほどの出力を出せるのか。……私の最高傑作である「完成品オルタ」とぶつけたら、どちらが勝つのか』


「……完成品、だと?」


『ええ。あなたたちが来る頃には、調整も終わっているでしょう。……楽しみにしていてね』


 ヒルダがグラスを掲げる。


『さあ、来なさい。ゴミ捨て場の王様。……ここが、あなたたちの墓場よ』


 プツン。通信が切れた。静寂が戻る。だが、俺の中の怒りは冷めるどころか、青白く燃え上がっていた。


「……上等だ」


 俺は拳を握りしめた。墓場? 違うな。あそこは、お前らの処刑場だ。


「ティナ。……全部、終わらせに行くぞ」

「うん、マスター」


 ティナが俺の腕に抱きつく。その瞳は、暗い情熱で潤んでいた。


「行こう。あいつらを壊して、僕が唯一だって証明しなきゃ」


 俺たちはコントロールルームを出た。背後で時限爆弾のカウントダウンが始まる。地上へ脱出し、街の外へ出た頃、背後で巨大な地響きが起こった。白亜の宗教都市が、地下からの爆発によって内側から崩れ落ちていく。偽りの神の国は、一夜にして瓦礫の山へと変わった。


「……せいせいするな」


 俺は振り返らずに歩き出した。目指すは西。死の砂漠の向こう側。


 長く、泥にまみれた旅路の果てに、ようやく「敵」の喉元が見えた。ここから先は、彷徨さまよいではない。明確な殺意を持った、進軍だ。


 俺たちの背後に、朝日が昇る。だが、俺たちの行く手には、血のような夕焼け色の運命が待っていた。

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