079 再会②
突然のシュナの言葉に、イルは慌てて両手を振った。
「あ、いや、その……僕、男なんだけど……」
「え!? ご、ごめんなさい!」
シュナが真っ赤になって謝罪する。
すると、イルは苦笑しながら首を横に振った。
「いや、いいんだ。よく間違えられるし、自分が弱々しい見た目なのは理解してるから……あはは、こんなだから、タンクとしても頼りなくて、パーティーに入れてもらえないんだよね……」
そう言うや否や、イルの肩が落ちる。
蜂蜜色の瞳から光が消え、まるで萎れた花のように俯いていた。
俺は苦笑いしながらそんなイルをしばらく眺めた後、声をかける。
「そう落ち込むな、イル」
「ありがとう、ゼロス。でも仕方ないよ。見た目だけじゃなくスキルだってそうだ。デコイが二つあったところで、僕にできることなんて――」
「とびっきりの活用方法がある、って言ったらどうする?」
「――……え?」
驚きに目を見開くイルに対し、俺はゆっくりと説明を始めた。
そもそも俺とシュナがここにやって来たのは、優秀なタンクを探すため。
その条件に合う人物を探していた矢先、【インペリアル・デコイ】を持つイルと出会えた。
だからできれば、臨時パーティーを組みたいと思っている――と。
それを聞き終えたイルの表情には、驚きと疑いが交錯していた。
「ゼロス……本気で言ってるの?」
「ああ。それにこれはイルにとっても悪い話じゃないはずだ。応じてくれるならレベル上げにも付き合うし、それに……」
「?」
「ゼロス?」
俺は周囲を確認し、イルとシュナを手招きする。
他の冒険者の耳に入らないよう、三人で顔を寄せ合った。
「初めて会った時に話したことを覚えてるか? 新しいスキルを獲得するための裏技があるって」
「う、うん。確かそれで、ゼロスは【無の紋章】なのに幾つもスキルを使えたんだったよね?」
「その裏技について、イルに教えようと思う」
「っ!」
イルの瞳が大きく揺れる。
その反応を見て、俺は手で落ち着くように促してから続けた。
「もっというと、これから俺が獲得しようと思っているのは、攻撃にも利用できる盾のスキルだ。そういうスキルがあるってことも、以前に少し伝えたな」
「うん、もちろん覚えてるよ……もしかして、その裏技ってのを使えば、僕もそのスキルを覚えられるの?」
「ああ。どうだ? 悪い条件じゃないはずだ」
イルは数秒だけ考え込んだ後、真剣な表情で頭を下げた。
「こんな機会、ここを逃せばもう二度と手に入らないよね……僕からもどうかお願いするよ、ゼロス、シュナ」
「決まりだな」
「よろしくね、イル」
こうして俺たちは臨時パーティーを結成することになった。
その後、レベリング用のダンジョンを探そうとした矢先、イルが何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえばゼロス、ここのギルドマスターにはもう挨拶した?」
「? まだだけど……」
「だ、だったら少し待ってて!」
「「…………?」」
イルはそう言い残すと、慌ただしく立ち去っていった。
俺とシュナは思わず顔を見合わせる。
……っと、そうだ。
「悪いな、シュナ。勝手にイルをパーティーに入れるって決めた」
「ううん、大丈夫だよ! ゼロスがそう判断したってことは、イルは信頼できる相手なんでしょ?」
「ああ」
イルと出会ったのはこれまでに一度しかないが、その短い時間で、彼の性格はそれなりに理解できていた。
特に印象的だったのは、イルを騙した犯罪冒険者を俺が捕えた時のこと。
報奨金の半分はイルにも入る予定だったのに、自分は貢献できていないとし、彼はそれを俺に譲ってくれた。
駆け出しの冒険者にとって、あれはかなりの大金だったはず。
それでも、イルは自分の筋を通すことを選んだのだ。
スキル獲得の裏技についても、これまで誰かに漏らした様子はない。
秘密を共有する相手として、他の初見冒険者よりも遥かに信頼できる存在だった。
そんなことを考えていた矢先、イルが戻ってくる。
「お待たせ、二人とも」
「イル。突然立ち上がって、どうしたんだ――」
そう尋ねようとした直後、新たな声が響く。
「これは驚きました……まさか本当に、この場所でゼロスさんとシュナさんに出会うだなんて」
「――え?」
「うそ……」
聞き覚えのある声に、俺とシュナは顔を上げる。
そして同時に驚きの声を漏らした。
そこにいたのは、ブロンドに近い茶髪を首元で揃え、落ち着いた雰囲気を漂わせた女性。
――つい先日まで冒険者ギルド、シルフィード支部でギルドマスターを務めていたはずのアリサだった。
というわけで、アリサさんも再登場!
初出は『015 ギルドマスター』です。
貴重な大人のお姉さん枠ですから、いっぱい活躍させたいところです。(ノアはもはや別枠なので……)
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