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鍾乳洞と神隠し

作者: HORA

海岸線から陸地に向かって続く鍾乳洞(しょうにゅうどう)唯一(ゆいいつ)確認されている入口にはお地蔵様が並び、室町時代から神聖な場所であるとされる。だがその一方で神隠しが頻発すると噂される場所でもある。複数人で調査や探検をすると神隠しに遭わないとされているが、それはある意味当然だろう。岩にハマって動けなくなったりしても複数人なら救助できるが、独りであれば事故死もとい神隠しだ。


他の入り口からこの鍾乳洞(しょうにゅうどう)に侵入できるルートは未だ見つかっていない。奥行・深さはどれ程の深さがあるか分からないが総延長数十kmはあるだろう。ルートの大半が海抜0m未満となっており、大小多数の地底湖も存在している。成分が淡水か海水かはチェックしてみないと分からない。ルートの中には10m程を潜航(せんこう)しなければならない完全に水没した箇所も存在する。


2024/07/06 (1日目)

俺はこれまで単独で12回この鍾乳洞(しょうにゅうどう)の調査を試みてきたが幸い神隠しに()う事は無かった。神隠しに()いたい訳ではない。共に調査してくれる友人や仲間がいないだけだ。そして今回の13回目でケリを着けるつもりである。これまでの長くても3日程の行程を大きく越え、倍以上の1週間分の食料を持ち、鍾乳洞の中に足を踏み入れる。


2024/07/07 (2日目)

すでに入口周辺の無数の枝分かれと行き止まりに関しては調査済みである。今回の調査では最も奥深くまで到達できるであろうルートを調査する。ただその過去の資料でさえまだ奥行きは不明。すべてマッピングするつもりでまずはその資料のルートの最深部に向かい進み続ける。


2024/07/08 (3日目)

天井に白骨死体がある。高さが5m程の所にありどのように天井に張り付いているのかが分からない。鍾乳石に貫かれているのか、衣服の一部が引っかかっているのか?ただ、もし海水なりが流れ込んで来たらあの高さにまで水位が上がるのかと考えると、探索にはこちらの準備や体力の他に運も必要なのだろうと恐怖がふつふつと湧いてきた。


2024/07/09 (4日目)

分岐はほぼ無くなり道なりに進めている分には良いのだが食料が心許なくなってきた。節約しつつ食べてはいるが気温が低く、移動・潜水・クライミングなどエネルギー消費はどうしても大きい。明日には退()くかどうかの大きな決断が必要になるだろう。


2024/07/10 (5日目)

道なりに奥へまだ続く。すでに地上では隣県に到達しているだろう。あるいはカーブして海の底だろうか。引き返し、改めてチャレンジすれば良いのだろうが、そこの角を曲がったところが突き当りかもと考えてしまうともう止まる事ができない。俺は現代のダンジョンに飲み込まれてしまったのだろう。行き止まりにボスがいる訳でも、宝箱がある訳でも、転移で入口に帰れるわけでもない。むしろ俺の死体を突き当りに残したいという意味の分からない考えが正しい事のように思えてしまう。…よし!進もう。進んでしまえ!


2024/07/14 (9日目)

馬鹿な事をした…とも、俺は馬鹿だから正しい事をした…とも思う。食料は尽きた。ずっと一本道を進んでいる。すでに失敗の定義については突き当りに到達しない事。になっていた。死は避けられないだろう。


2024/07/15 (10日目)

俺はやり遂げた!とうとう鍾乳洞(しょうにゅうどう)ダンジョンの突き当りにまで到達することができた。死を避けられない状況を作っておきながら思い通りとはこれ如何(いか)に?即身仏(そくしんぶつ)として埋められる僧侶のような心境なのだろうか。別に俺は世の中の安寧(あんねい)を願っている訳ではないが…。しかし、意外な事にその地点は前人未踏(ぜんじんみとう)では無かった。(ほこら)祭壇(さいだん)?のような80cm程の高さの明らかに人の手が加えられているものが存在した。造られた時代は観察しても分からなかった。形状による宗教的な背景、掘られた文字の時代に詳しくなかったからである。現代のものでは無さそうであったので、ざっくり昔…であろう。


2024/07/16 (11日目)

(せい)を諦めて丸一日。(ほこら)を陣取っているが俺は(ほこら)の製作者ではないので恥ずかしくなってきた。後年(こうねん)、この突き当りの地点で自身の遺体と(ほこら)が発見されたならば、俺がこの(ほこら)を作ったと誰が見ても思うだろう。やっぱり祠から距離を置きたくなる。加えて異常なのかは分からないが突き当りに到達したことで交感神経が馬鹿になったのだろうか。お腹が減らないどころか、体調が良く元気になってきた。外に到達できるとは思っていないが出口に向けて歩き出す事にした。


2024/07/18 (13日目)

まだ確定的な事は言えないが何とかなりそうな感じがする。4日間は何も食べていないのだがお腹が減っていない。体調もすこぶる良い。気のせいの可能性もあり、ぽっくり()ってしまうかもしれない。すでに死にかけで幻覚を見ていたり、死んで霊になっている可能性もあるが、ほっぺをつねるとちょっと痛い。ただ前向きに考え、もしかすると脱出できるのではないかと希望は出てきた。今日もドンドン出口に向かって進み続ける。


2024/07/19 (14日目)

一本道がほぼほぼ終わり分岐が多くなってくるので手製のマップを確認しながら進むのだがあべこべになっている。全く違う訳ではないのだがルートが左右逆であったり、同じルートのはずが奥に進んでいた時と比べて地面のデコボコが増え若干歩き辛いような気がする。この数日で水が一旦流れ込み地面を変に浸食したのだろうか?元気である事と、帰りは後方に分岐があっても無視できるのであまり深く考えていなかったのだが不思議ではある。


2024/07/20 (15日目)

ある事に気が付いた。本日も何度目か数えるのも辞めた水中潜航ルートを進んでいた最中(さなか)、水中で息を吐いたのだが、泡が出ていない。私は呼吸をしていなかったと気づいた。冷たいはずの水中に長時間いても、体感では寒いと感じていない。かといってもう死んでいるのか?というと、ほっぺをつねるとやっぱりちょっと痛い。これはダンジョン踏破のご褒美に不老不死でも授かったのでは無かろうか?それにしては分かりづらいのではないか。

確かに私が好きでやっていた【ダンジョンRPG】や、近年では【ローグライク】というジャンルのゲームには最深部の99Fに到達してもイベントも何も無く、クリアのログだけが画面に表示され「あれ?それだけ?」と不満に思った事があるが…。


2024/07/21 (16日目)

鍾乳洞(しょうにゅうどう)に入って3日目に見かけた白骨が地面に落ちている。この2週間程の間に落下したのだろう。やはり一度浸水があり水が引いたのだろう。その白骨の服装は前回見かけた時と同じであるし、マップ上での距離や天井の高さも同じであるので別の死体であるとは考えづらい。


2024/07/22(17日目)

遂に外の自然光が見えてきた。食事をとらずにここまで帰って来れた事は非常に嬉しいが、光を浴びたら成仏してしまうんじゃないかと一瞬よぎった。だが、やはり暗闇の世界から解放され外に出られる喜びが勝った。一歩、また一歩ゴールとなる外界に近づいていく。しかし見える景色に何か違和感が大きくなっていく。天井の延長、外の世界に海が広がっていたのだ。そして鍾乳洞(しょうにゅうどう)から出るギリギリまで歩みを進め下を覗き込むとどこまでも空が広がっている。


天地がひっくり返っていた。


昨日の白骨死体を思い出す。あの時点ですでに俺は地球の重力(じゅうりょく)でなく斥力(せきりょく)により天井で歩みを進めていたのだろう。さらに言えば地面を歩きにくく感じたり、地図が左右反対だと思っていたが上下左右が反対だったのだ。となると原因はやはりあの(ほこら)だ。あの(ほこら)に到達した前後の時間で俺は地面と天井がひっくり返っていた。鍾乳洞(しょうにゅうどう)という閉鎖空間の中ではなるほど確かに気付きづらいのかも知れない。だがそれにしてもである。水中潜航のどこかで違和感を感じても良いような気はしたが、呼吸が不要だったり、帰りは道中ずっと元気であったので明確にすべての潜航の時間やポイントを憶えている訳ではない。とにかく、これからどうするかに関して考えを進める。


昨日の白骨死体。あれはきっと俺と同様に(ほこら)にまで到達して、天地が入れ替えられた人物なのだ。事故死なのか自殺なのか餓死なのかは判断ができなかったが、ここ数日の様子を見るに餓死はしそうにない。飲まず食わずでもエネルギーが満ち溢れている。

さて、、、

鍾乳洞(しょうにゅうどう)の天井に暮らすとなると暇で死ねると思う。もし人がやってきたとしても妖怪扱いされるだろう。しかしそれはそれで面白そうだなと思った。したがって誰かと鍾乳洞(しょうにゅうどう)で出会うまではマッピングでもしながら待ってみようと思う。

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2024/08/25(51日目)

良い話と悪い話があるぜ。どっちから聞きたい。じゃ、良い話からする。人が入ってきた。大学生ぐらいの3人組が肝試しで夜にこの鍾乳洞(しょうにゅうどう)に入ってきた。予想通りとはいえその3人組は俺から見て天井を歩いてたからめっちゃ肝が冷えたけどな。もっと数か月単位で待たされるのだと予想していたのでこれは運が良いだろう。

悪い話?あぁ。認識されなかったんだ。(のど)が裂ける程に声を張り上げたんだが届いていないようだったんだ。これはやっぱり俺はすでに死んでんじゃないか?と思ったけどやっぱりほっぺをつねると痛かったんだよ。

今日までに(ほこら)までもう一往復はしてみたが天地のひっくり返ったままだった事も悪い話の一つだろう。


2024/08/26 (52日目)

行動を起こそう。自殺をする勇気はない。では選択肢は1つ。飛び上がり(?)だ。もしも重力が斥力(せきりょく)に変わってしまったとするならば鍾乳洞(しょうにゅうどう)から一歩踏み出した時点で空に落下する。暑さ、寒さ、呼吸、圧力での不具合がもし起こらなければ宇宙空間にまで到達し、人間ロケットと化す事になる。他の星の斥力(せきりょく)までが適用されるのであればどこか別の天体に到達することはできない。物凄く辛い旅になることが予想される。ただ、俺は冒険者だ。未知の世界に飛び込める素晴らしいチャンスだ!日記を書くために使っている鉛筆は宇宙空間でも使えると聞いている。高所恐怖症だけど飛び降りてみようじゃないか。きっとすぐ慣れるしまぁたぶんきっと何とかなる!小さく紙をちぎり切れ端に近況を書き込み、天井ではあるが岩と岩の間に挟んでおく。決して遺書ではない。これから長い長い旅に出るだけだ。そして鍾乳洞の外に足を踏み出す。


2024/08/27(53日目)

宇宙空間をおそらく高速で進んでいるのだが、周りに比較するものが無いので速度の体感は分からない。地球が少しずつ小さくなっているのはかろうじて感じる事ができる。予想通り熱い、寒い、苦しいなどは感じない。半袖短パンで絶好調だ。

暇なのではないかと思っていたのだが宇宙空間には様々な物が存在しており楽しい。UFOだかアメリカの最新の宇宙船だかがこちらに明滅してコンタクトを取ってくるが、もちろん何を意味してのシグナルなのかは分からない。

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87502/12/19(7805855日目)

煙草(たばこ)持ってる?」

話しかけられた。ほっぺをつねるとちょっと痛かった。

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