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日美々

「いいなー。なんかズルいです……」


 日美々は続ける。


「好きな人と結ばれるなんて羨ましいです。私なんてどっかのケモナーに金とか権力とかで無理矢理手ごめにされちゃう未来しか見えないのに……」


 はあ、とため息を吐く日美々。どうやらネガティブ思考モードに陥っているように見える。


「にみたんわかった」


 羅羽羅が頷きながら言う。


「めいろの本妻をにみたんに任せる!」


「「え?」」


 明狼と日美々の声が重なる。


「私には結婚願望は無いし、子供ができたとして育てられるとも思えない。そういうのはにみたんに任せる。私は愛人として認めてもらってめいろを分け合おう」


「私がめいろくんの本妻……」


 勝手に話を進める羅羽羅に自分の世界に入り込もうとしている日美々。


 口を挟んでも良いことなさそうだと、明狼はしばらく傍観を決めていた。


「いやでも、めいろくんの意思は?」


 日美々が今更ハッと気付いたように言う。


「そんなものはどうでもいい!」


 断言する羅羽羅。


「うーん。いいのかなあ?」


「よくはないでしょ」


 明狼は小さく言う。どうせ二人の耳には届かないだろうと。


「そもそも、にみたんが今ここにこうして居る時点で、めいろが拒否することなんてない証明みたいなもんだし」


「え? そうなんですか?」


 日美々は先程までのネガティブ思考モードから少し脱したようで、満更でもなく嬉しそうに見える。


「あまり人に関わらないように、能力を隠すように生きてきためいろが自分の意思で助けたくらいだからねえ」


 羅羽羅がニヤニヤと明狼を見ながら言う。


「ねえめいろ?」


 羅羽羅が明狼に絡んでくる。


「私の為にも能力を無闇に使わないって言ってためいろクンは、どうしてにみたんだけを助けるのかな〜? ん〜??」


「それは私も知りたいです」


 日美々も話に乗ってきた。


 


 羅羽羅の言う通り、明狼はなるべく魔法の能力を見せないように生きてきた。自分の能力が知られたことで、自分や羅羽羅が今の生活を続けていけなくなる事態に陥るかもしれない。どうなるかわからない以上は隠して生きていくべきだろうと考えていた。


 とはいえ、能力を使わなければなんともならない状況に出くわす事もなかったのだが、とある日の学校からの帰り道、人も交通量も多い交差点で、明狼は大型トラックが暴走してくるのが見えた。このままだと明狼の同級生である一人の少女を巻き込むことになりそうなことまで理解していた。理解した上で明狼は、何とかしようとする感情を抑え込んで静観することに決めた。


 能力を見せないために何もしないというのであれば、本来は普通に歩き続けるべきだが、動こうとする自分を抑えつけるには静止するしかなかった。


 そして明狼の予測通り、少女は暴走したトラックにと衝突し亡くなった。


 明狼はその日、自分の為に救えるはずの他人を犠牲にする、酷く薄情で非道な人間であることを確認、認識し、自ら受け入れた。


 その後、他にも何度か命に関わらないまでも明狼の能力であればなんとかできるかもしれない事態を目の当たりにして、明狼は何もしないという選択を取り続けてきた。


 

 そんな明狼は数ヶ月前のある夜、クラスメイトの女子が人気の無い裏路地で、不審な男たち――一人はオラ付いた男でもう一人はチャラ男――に無理矢理ワンボックスカーへと連れ込まれそうになっている状況に遭遇した。


 不審な人物らとはかなり距離があり、向こうからは明狼を認識できてはいなかっただろう。


 このまま見過ごせば、クラスメイトは死ぬよりも辛い苦しみを味わうことになるかもしれないと明狼は思ったが、巻き込まれる前に何事も無かったように立ち去るのがベストだろうと自らの心を押し殺した。


 ――はずだった。


「は?」


 驚きの声をあげたのは明狼だった。


 彼女を見捨ててこの場から離れる決心をしたはずなのに、体が救出のために動いていた。


 冷静であれば、助けるにしても向こうから認識されない距離で能力を振舞うという選択をしていただろうが、明狼自身が驚愕するほどの愚かさと速さで、魔法を駆使し駆け寄っていく。


 彼らとの距離が10メートル程まで近付いたところで、明狼は【催眠】の魔法を使い、クラスメイトの近くにいた二人の男と、運転席に座っていた男を眠らせた。


 不審な男たちの意識がなくなったところで、明狼はようやく我に返った――つもりだったが、冷静とは程遠い精神状態だった。


 そして、この場を穏便に収めるためにと明狼が取った作戦は、クラスメイトの彼女にも寝てもらうことだった。すべて夢の中の出来事だと認識してもらおうと明狼は【催眠】の魔法を再び放つ。


「「え?」」


 目の前の少女は突然現れたクラスメイトの存在に、そのクラスメイトは自ら放った魔法が効かなかったことに驚愕していた。


(魔法が効かない? なんで?)


 明狼は自身の持つ能力について一通り検証しており、魔法に抵抗できる人間は、現状ではどうやら存在しなさそうだと結論付けていた。


 とはいえ、目の前のクラスメイトは現に魔法の抵抗(レジスト)に成功しており、その理由を検討、検証している場合ではなかった。


(【消去】【改竄】【無気力】【軽量】【念力】)


 混乱している明狼ではあったが、とにかく男たちに思い付くままに魔法を掛け、車に押し込むと、


「ごめん。ちょっと来て!」


 と言うやいなやクラスメイトをいわゆるお姫様抱っこと呼ばれる形で抱き上げ、風のように走り出した。


 クラスメイトを抱えた明狼は、魔法の力全開で自宅へ連れ込んだ。結果だけを見れば、先程の男たちにとやってることは同じかもしれない――むしろ、連れ込むことに成功している分余計にたちが悪いとも言える。


 家の中に連れ込み、玄関のドアを閉じ、クラスメイトを下ろすと同時に明狼は、


「今日の出来事は誰にも言わないでくれませんかお願いします!」


 土下座した。


「ええと……加池くん? だよね?」


 ここまで話す機会が全くなかった明狼のクラスメイト――小唄日美々がようやく口を開いた。


「そんな、あの……普通にしてもらって……」


「そうはいかないです」


「んと……えと……。さっきの超能力? みたいなやつのこと?」


「はい」


「秘密にして欲しいってこと、だよね?」


「はい。使って見せておいて勝手なことを言ってますがお願いします」


 明狼は平身低頭言う。


 明狼の体感としては、勝手に助けたというより、明狼の身体が勝手に助けたという感じだったが。


「助けてもらったのは私の方だし、もちろん誰にも言うつもりもないんだけど……あ! その前に助けてくれてありがとうございました!」


 日美々もブンと音がするくらいの勢いで頭を下げる。


「勝手にやったことなので全然気にしないでください」


 土下座の体勢まま顔を上げた明狼が答える。


「う〜ん」


 顔を上げた日美々は、どこかもじもじしたような様子だった。


「その……私が秘密にするっていうだけだと約束として弱いと思うんです……」


 秘密にする代わりに何らかの要求をされるのだろうと明狼は身構える。


「私の秘密を教えるので、お互い秘密にし合うってことでどうです?」


「はい……?」


 あまりの予想外の要求に明狼は上ずった声を出した。


「私の秘密なんだけど――」


 言いながら日美々は履いているスカートの裾を、ふわりとさせながら体を反転して――明狼は今まで意識していなかったが、日美々はパステルカラーのパーカーに膝丈のフレアスカートという格好で、制服ではない私服姿を見るのは初めてだった――明狼に背中側を向ける。


 そして――勢いよくスカートを捲くり上げた。


「え?」


 明狼の目の前には、日美々のお尻を包む水色のパンツ。――と、腰に近い位置から生える犬のような白い尻尾だった。

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