どうやらダンジョンが異世界転生してきたようです。
「なんでこうなった……?」
明狼がぐったりとうなだれる。
東京タワーダンジョンでの戦闘を終え、帰宅した明狼一行ではあったが、そこに何故か代千華と転生を司る女神もついてきていた。
さらに彼女らは、テーブルを囲んで夕食まで相伴にあずかる始末である。
ちなみに夕食は、芽緒特製唐揚げであった。
明狼としては、ダンジョンへ行ったことで疲れているだろうし、何か買って帰るか、どこかに食べに行くつもりでおり、そう提案したのだが、芽緒が夕飯の用意は自分の仕事であり、なんとしても作らせろという姿勢を断固として崩さなかった。
そんなこんなで大量に用意された唐揚げを、ひたすらばくばくと食べ続ける女――それが女神だった。
「めちゃうまー」
「女神様って普段は何を食べてるんですか?」
がつがつと食べ続ける女神に日美々が訊く。
「別に何も食わへんけど?」
「そんなに食べてるのに?」
「何も食わんでもええし、どんだけ食ってもええ。それがウチや!」
何故かドヤ顔の女神。
そんなくだらないやり取りをしてる横では、代千華が羅羽羅になにやら相談していた。
「こっちの部屋なら空いてる? んー。じゃあそこにしようかな」
どうやら本気でこの家に住みつくつもりらしい。
「らうらさんマジすか?」
日美々も女神どころではなくなったようだ。
「本当にこっちに危害は加えられなくなってるみたいだし、地球上で起きてることが見られるっていうし、まあいいかなーって」
「いいんですか?」
「野放しにして何するかわからない状態よりは、近くに置いといた方がいいでしょ」
「それはまあたしかに……?」
そんなふうに、日美々が丸め込まれようとしている時に異変が起きた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
そんな地鳴のような音が響く。
「お、来たようやな」
謎の地鳴に反応したのは、女神だった。
「何か心当たりがあるんです?」
明狼が訊く。
「ま、行ってみよか」
「どこに?」
女神は黙って下を指さした。
明狼たちが住んでいる豪邸の地下に降りていくと、壁に大きな穴が空いていた。
「穴? でもなんか違和感が……」
その先は土で固められたトンネル状の道が続いているように見える。
「せやね。実際に地下に穴が空いてるんやなくて、別の空間に繋がってる感じやね」
女神が解説する。
本当にここに穴が空いていた場合、この家や周囲に繋がる何らかのインフラを破壊していた可能性が高い。そうなっていないのは――現段階で明狼たちが把握できるわけではないが――物理的に穴が空いているわけではない、ということである。
「ダンジョンですか」
日美々が土の壁を触りながら言う。
「御名答!」
ぱちぱちと手を叩く女神。
「なんでうちの地下にダンジョンが?」
「明狼はんに頼みがあるゆうたやろ?」
「言ってましたね。そんなこと」
「それがこれや!」
「ダンジョンを管理でもしろと?」
「詳しい話は奥でしよか」
明狼の疑問には答えず、女神はスタスタと奥へと進んでいく。
「質素というか、痩せてるというか、涸れてるというか、貧弱なダンジョンという感じじゃのう」
一団の最後尾で威扇が呟いた。
ゆるくカーブした十メートル程の距離の通路を抜けると、直径十メートル、高さ五メートルほどの円形の広場に出る。
明狼たちの視界に入ってきたのは、正面の壁に背を付け、体育座り――体操座り、三角座りともいう――をし、絶望したような表情で俯く、未就学児くらいの年齢に見える幼女だった。
「あの子は、何?」
日美々が幼女を警戒しながら訊く。
「このダンジョンの現し身ってやつやね」
女神はそのまま話し続ける。
「あの子――このダンジョンは、何度死んで生まれ変わろうとも、ダンジョンとして産み落とされる、呪い、としか言いようのあらへんモノをその魂に刻まれてるんや」
「同じ存在に生まれ変わることが呪いとは思えんがの」
アタシは生まれ変わってもドラゴンがいいのうと威扇。
「あの子にとっては呪いやね。
捕食対象である人間を、友と――仲間と感じて、餓死することを選んでしまうあの子には、何よりもツラい呪いやろうな」
「頼みごとってのは、あの子のことか?」
明狼が女神に問う。
「そうや。頼むで」
「いや、なんとかなるのか?」
「わからんけど、なんとかしてー」
「んな無責任な……」
明狼と女神が話をしている間に、警戒を緩めた日美々が幼女に近付いていく。
「こんにちはー」
膝を曲げて腰を落とし、なるべく視線の高さを合わせ話しかける日美々。
幼女は日美々に声をかけられ、初めてこの空間に人が居ることに気づいたようで、ゆっくりと周囲を見回す。
ひと通り見回した幼女は、明狼に視線を固定する。
「うん? どうしたの?」
そんな日美々の声には目もくれず、幼女はゆっくりと立ち上がり、明狼の前まで進んでいく。
その間もずっと、幼女の視線は明狼の顔を捉え続けたままだった。
「俺になにか用か?」
明狼も日美々と同じようにしゃがんで幼女に話しかける。
「おなかすいた……」
幼女はそう言うと、両腕を伸ばして明狼に近づき、その腕を明狼の首に回す。
そして、幼女は明狼の口を狙い自らの唇を重ねる。
「は?」
「え?」
「ほほう」
「はっ。私は今日活躍したと言っていいのかな? 私も明狼様とキスしていいのかな……?」
女性陣が目を見開いてその光景を見ている中、当の明狼は、突然目の前に幼女の顔があり、口を塞がれたことに驚いたものの、その意図に気づき受け入れる。
しばらくそうしていたが、ふいに幼女が明狼の口を解放し、満足そうな表情で明狼を見つめた後、明狼の胸に顔をうずめる。
「ええと? もしかして寝ちゃった?」
日美々がボリュームを抑えた声で訊く。
「うん」
幼女はそう肯定する明狼に体を預け、寝息を立てていた。
「突然のキスはなんだったの?」
今度は羅羽羅が明狼に訊く。
「魔力を摂取してた」
「今のちゅーは、この子の栄養補給ってことでええんか?」
女神の質問に明狼は首肯を返す。
「ちゅーことは、早速食事問題は解決、ちゅーことやな。
ちゅーだけに」
下らないことを言って、ひとりでかっはっはっはっはーと笑う女神。
「いやさすがは明狼はん。
あんたは周りの女の子たちを幸せにする存在に違いないと睨んでたんやけど、ウチの目は間違ってなかったわ」
「え? 俺をそんな風に思ってたんすか?」
「実際そうやろ? ここにいる子たちみんな幸せそうやし」
「ボクは一度見殺されてるけどね?」
「あんたはこれからやな」
「そうなることを願うよ」
肩を竦める代千華。
「なんにしても、その子が幸せそうな寝顔してるのは間違いあらへん。
その子が今までそんな栄養補給を、やれへんかったのか、やらへんかったのかはわからへんけど、明狼はんのおかげでできるようになったっちゅうわけや。
明狼はんには、周りの女の子の環境を――あるいは女の子そのものを良い方に変える力があるんかもな?」
そんな女神の言葉に、力強くうんうんと頷く芽緒。
「いや、俺にそんなものは無いと思うよ?
何かが変わったとして、それは俺の力なんかじゃなくて、本人の意志だろう」
明狼は周りの女性陣を見る。
(彼女たちの変化に、少しでも好影響を与えることができてるんであればいいんだけど)
明狼は、自分の胸に顔をうずめてすやすやと眠る幼女を見る。
(女神の思惑通り、この子の面倒を見ることになりそうだなあ。まあいいか)
色々あったこの日、明狼たちの住む家の地下に――
どうやらダンジョンが異世界転生してきたようです。
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いくつか中途半端に放り投げたままの事柄もありますが、ここで締めとさせていただきます。
改めて皆様、ありがとうございました。




