はいストップー
「はいストップ、ストップー!」
そう声をかけ明狼を制止したのは、白いドレス姿の美女だった。
「今はまだ代千華に死んでもらうわけにはいかないんよ。
悪いようにはせんから、ここはウチに任せてもらえへんかな?」
「任せるもなにもどちらさま?」
明狼が美女に問う。
「詳しい話は後でちゃんとするから、まずはこっちからやらせてもらうわ」
白いドレスの女はそう言うと、倒れている代千華に近付いていく。
その一挙手一投足見逃さないように、明狼は視線を向けながら、芽緒に問いかける。
「芽緒、見守ってるような視線の主ってもしかして」
「はい。たぶんあの人です」
「そうか」
芽緒の感覚を信じるのであれば、恐らく敵ではないだろうと明狼は考えながらも、それでも完全に信用が置ける訳ではないので、何かあっても対処できるよう構えながら、女の様子を伺う。
代千華のすぐ隣まで進んだ白いドレスの女は、何か念じる様にぶつぶつと言葉をもらしながら、代千華の額に右の掌を当てる。
「これでよし、やな」
どうやら目的を達した女は満足そうに言って立ち上がる。
「で、アンタは何者で、何しに来たんだ?」
明狼が女に向け誰何する。
「ウチはこの地球への転生や転移を司る女神やね。
こっちに転生、転移してくる時に、本来ならウチの許可と面接が必要やから、転移してきた明狼はんたちとは会ってなきゃおかしいんやけど、無理やり勝手に来よったからなあ」
突然恨み言が混ざる女神。
「その女神様がここに来た理由は?」
「ウチとしてはこの子に死んでもらっては困る、でも明狼はんにしてみたら、野放しにされても困るわけやろ?
そこでウチの出番ちゅーわけや!」
腰に手を当て、仁王立ちの女神。
「転生を司る女神なのに?」
「ウチが転移、転生させて来てるんは、主に獣人たちなんやけど、魔力を持つ獣人たちが、こそこそと隠れるようにして生きてるのって、不思議に思わへん?
一般に魔力を持たないこの地球に於いて、魔力を持つことのチートっぷりは、明狼はんもよくわかってるやろ?」
魔力による防御の前では、この世界の武器や銃火器による攻撃など、赤子のパンチと変わらないものにしかならないのは、明狼自身検証済みである。
「魔力で防いだら、この地球の武器では歯が立たたんわけやしな。
そんな獣人たちが何故、魔力を持たない地球の人たち相手に、騒ぎを起こしたり事件を起こしたりせえへんのか」
当然、魔力による攻撃は、この世界のあらゆる攻撃手段を凌駕するものになる。
そんな人並み外れた手段を持つ彼らが、何故こうも大人しくしているのか?
「一つは、こっちに来るのにウチが面接するんやけど、性格的に無茶苦茶な事をしそうな奴は、予め弾いてるんよね。
でも、元々がどんなに穏やかな性格やとしても、体験や経験で変化するなんてことは当然あるわけや。
つまり、本人の性格はあるにせよ、そんなものより強制的な締め付けが必要になるんやけど、強制する能力がウチにはあるっちゅうわけや!」
ドヤ顔の女神様。
「こっちに転移してくる条件として、魔力を持たないこっちの世界の人間に、先制攻撃と過剰な反撃のを禁じることを受け入れてもらってるんよね。
ウチにはそういう能力があるんやけど、今この子が瀕死のうちに、明狼はんとその仲間たちに攻撃不可の制約を掛けさせてもろたんで、これでこの子はもう明狼はんたちには無力やね」
「それは本当ですか? 私たちを騙そうとしてません?」
日美々が疑いの目と銃口を向ける。
「騙す気ぃなんて全くないで! 神に誓ってもええ。
まあ、ウチが女神なんやけども」
かっはっはと豪快に笑う女神。
「ところで明狼はん、マジでウチが全身全霊を掛けて安全は保証するから、この子回復してあげてくれへん?」
「え?」
「頼むわー」
両手を合わせ、くねくねとしなを作って明狼にアピールする女神。
「どうする? めいろくん」
「嘘はついてないように思えるけど、軽々と信じていいのかどうか……」
訝しむ明狼。
「あの人からは敵意や悪意は今のところまだ感じないです」
芽緒がおずおずと口を開く。
「はあ。仕方ないか」
明狼は警戒を緩めないまま、代千華に向けて治癒魔法をかける。
「明狼はん、助かるわー」
微笑む女神。
「う……あぅ」
代千華はうめき声を上げ、意識を取り戻す。
「えっと……女神サン?」
代千華は周囲を見回し、状況把握に努める。
「ボクは明狼チャンにやられて……なるほど、そういうことか」
「明狼はんたちへの一切の攻撃を禁じさせてもろたわ」
「ボクの完全敗北ってワケだね」
代千華は大の字に仰向けになる。
「はあ。これからどうしたもんかな。
今のボクは、麺ごと湯切りしてしまったくらいの虚無感に包まれているよ」
「そんなもん拾って洗って食えばええやろ。
アンタにはまだまだ監視人としてやってもらわなアカンのや」
「明狼チャンのことはどうするのさ?」
「んー。いっそ一緒にやったらええんやない?
アンタが異変を見つけて、羅羽羅はんが調べて、明狼はんが対処する。
うん。めっちゃええやん!」
「なるほど。ボクもおしゃべり相手が常にいることになるわけだし、悪い話ではないね」
代千華は上半身を起こしながら言う。
「日美々クンが言うには、ボクも明狼チャンハーレムの一員になれるみたいだしね」
「いや、来ないでいいです」
拒絶する日美々。
「まあまあ、そう言わずに。
明狼チャンはどうだい? ボクは明狼チャンたちへの攻撃を禁止されちゃってるし、なんなら反抗できないボクの身体を好き勝手して、明狼チャンの嗜虐心を存分に満足させてあげたって構わないよ?」
「それは私の役目ですから、ご心配なさらず」
芽緒も代千華を拒否する。
「いや、別に俺は女性を痛めつけたいみたいな願望はないんだけど……?」
「ふふ。明狼チャン。遠慮は要らないよ?」
「まあ、明狼はんの性癖は好きにしてもろて」
女神が割って入る。
「明狼はんには頼みがあるんやったわ。代千華のついでに明狼はん頼んますわ」




