二つの視界
「俺が殺した人たちのことなんだから、その罪を背負い続けるのは当然だろう」
明狼が代千華を見据えながら言う。
「ふうん。信じがたいけど、信じるしかなさそうか」
代千華は困ったような表情を見せる。
代千華はそもそも、高い戦闘能力を持ち合わせてなどおらず、ゆえに罠を張り巡らせて戦っているのだ。
明狼に対する、無限ともいえる魔力の供給は断ったものの、もう一つの罠が不発となると、撤退も考慮にいれなければならない頃合いにきていた。
「にみ、芽緒、大丈夫か?」
明狼は代千華の様子を窺いながら、日美々と芽緒に確認する。
「大丈夫!」
「はい。たぶん大丈夫、です」
日美々は弾を入れ替え、芽緒は頷きそれぞれ返す。
二人の様子を確認して、明狼が再び戦闘準備に入り、腰を落として構えた。
それを見た日美々は、先制とばかりに右手に構えた銃のトリガーを引く。
日美々の銃から飛び出していった弾は、代千華の目前で強い光を放つ。
いわゆる閃光弾のような効果を狙って撃たれたもので、目的通り代千華自身の視界を奪うことに成功する。
日美々が閃光弾を使うことを当然知っていた明狼は、目を瞑ったままで代千華に向かって飛びかかり、二メートル程手前を狙って着地する。
「なっ!?」
代千華が呻くように声を上げる。
明狼が飛びかかり、着地すると同じタイミングで、明狼の後方で強い光がうみだされる。
それは、日美々が右手の銃で閃光弾を撃った直後、尻尾でスカートをめくり上げ、腰に差していたもう一丁の銃を左手で抜き、明狼の後方――一見して何もない空間に向けて撃った、二発目の閃光弾の効果だった。
その位置の指定を、芽緒が担っていた。
芽緒は何もない空間を指差し、「十五メートル」と、対象までの距離を日美々に伝えていた。
そこにあったのは、代千華の監視人としての能力。
代千華は、地球上のどこでも観ることができる能力で、明狼からの攻撃を躱し続けていたのだ。
砂煙で視界を奪われたにも関わらず、避けることができたのも、砂煙のゆらぎを感知していたわけではなく、明狼を後方から見ていたというだけの話だった。
芽緒は、ここへ来てからずっと、その視線の元になる位置を探り続けていた。
魔力に適応――適合して以降、芽緒が元々持っていた、他者の自分に向ける視線を敏感に感じ取る能力が、特殊能力と呼べるくらいに強化されていた。
それは、自身にではなく、明狼に向けられたものであっても、時間をかければ感知できるほどになっていた。
日美々と芽緒の協力によって、代千華自身のものと、能力によるもの、二つの視界を奪うことに成功していた。
明狼はその瞬間を逃さない。
目が眩んだ代千華が、どういう行動をしても対処できるよう、距離を取っておいた明狼だったが、代千華は不測の事態に硬直してしまっているようだった。
明狼は代千華との距離を一気に縮め、右手に魔力を込め力を溜める。
そして、代千華の腹部を思い切り殴りつけた。
「あがっ……」
代千華の身体が「く」の字に曲がり、数メートル飛んでいく。
どうやら意識は無くなっているようで、代千華は飛ばされた姿のまま動かない。
明狼が確実にトドメを刺す為に、代千華に近付こうとしたところで、突然現れた謎の女性が明狼を制止する。
「はいストップ、ストップー!」




