あなたってもしかして
明狼たちは、本来であれば観光客で賑わっていたであろう、ダンジョンと化した東京タワー足元の建物に足を踏み入れる。
明狼たちを出迎えたのは、金属でできていると思しき、バスケットボールサイズの球体機械生物三体。
彼ら――性別があるのか定かではないが、彼女らかもしれない――は、明狼たちの姿を認識すると、加速しながら転がり、明狼に向かって行く。
二メートル程の距離まで近づいてきたところで、球体が跳ねる。
床から離れさらに加速。明狼まであと三十センチメートルくらいのところで、球体の動きが止まる。
「こういうのは雷に弱いってのが定番だよな」
魔力の壁で球体の突進を止めた明狼は、魔力を電気に変換して放つ。
まともに電撃をくらった球体は、ぷすぷすと煙を上げたあと、ぼふんという音ともにパーツが飛び散り、動かなくなった。
「本当に効くんだな」
効果を確認した明狼は、周囲にいた球体機械生物に電撃を飛ばし、あっという間に一掃した。
「さて、これからどうしたもんかな」
明狼は辺りを見回しながら思案していると、芽緒がそっと耳打ちしてくる。
「明狼様、ちょっといいですか?」
「うん」
「見られてる感じがするんですけど、なんか変で」
「何が変?」
「視線を二つ感じてて、一つは明狼様に宣戦布告してきた、メッセージの主だと思うんですけど、もう一つが謎で、敵意みたいなのを全く感じられないどころか、優しく見守ってくれてる感じがあって」
「なるほど」
「気のせいかもしれないですけど」
自信なさげに言う芽緒。
「未知の誰かかもしれないし、もしかすると羅羽羅が何らかの方法で見てるのかもしれない。
敵意が感じられないんなら、とりあえず頭の隅に置いとくだけで、放置かな?」
「もしかして余計な情報でしたか……?」
「知らなかったら、不意に割り込まれて混乱してたかもしれないし、有益な情報だよ。ありがとう芽緒」
「は、はい」
明狼の返事に芽緒はほっとした表情を浮かべる。
「めいろくん。これからどうする?」
日美々が周囲を警戒しながら明狼に訊く。
「こういうところのセオリーって、上に行くことなんだけど」
「エレベーターって使えるんですかね?」
「使えなかったら階段かなあ」
「ええぇ……」
階段を延々と上ることを想像したのか、げんなりとする芽緒。
「魔力で補助して身体を動かす訓練してきたし、芽緒ちゃんの成果を見せるチャンスかもね」
明狼が威扇と修行している隣で、日美々と芽緒もそれぞれ課題を用意し、励んでいた。
芽緒はダンジョン内の魔素を取り込み、筋力や持久力を上げる訓練をし続けており、苦手意識の強かった運動能力――特に持久力が上がっている。
「そうは言っても階段を延々上るのはちょっと……」
「いや、その必要は無さそうかな」
階段を上るしかないかと腹をくくろうとしていた時、明狼たちの正面にあるエレベーターのドアが開いた。
「エレベーター使えるってさ」
「罠っぽい」
「どうしましょう? 明狼様」
「罠っていうなら、すでにここが罠みたいなもんだし、行きますか」
――エレベーターのドアが開く。
招きに応えて乗り込んだエレベーターが到着したのは、展望デッキではなく、広い、真っ白な空間だった。
明狼たちは警戒しながらエレベーターを出る。
「やっと来てくれたんだね」
明狼の左側から声が掛けられる。
そこには、かつて戦った留義統に似た異形の女が、真っ白いテーブルに肘を置き、真っ白い椅子に座っていた。
「待ってたよ――週刊マンガ誌で三年十ヶ月休載してるマンガの、連載再開くらい待ち望んでたよ」
異形の女が手を振って明狼たちを迎える。
「その姿……、お前があの男――留義統を操りこの世界にダンジョンを召喚したのか?」
「うん。ボクには人を思いのままに操ることはできないから、頑張って誘導しただけだけど、まあそうだね。ボクがやったと言っていいんじゃないかな?」
明狼の質問に答える女の姿をじっと見ていた日美々が、おもむろに口をひらく。
「あなたってもしかしてだけど、代千華さん?」




