添い寝してもらってもいいですか……?
「その……寝付けなくて、それで、明狼様に、お願いがあって……」
もじもじしながら上目遣いの芽緒。
「その……添い寝してもらってもいいですか……?」
「え? いや、添い寝はちょっと困るかも……」
「何もしないんで」
「ごめん」
「あ。ですよね」
シュンとする芽緒。しかし、すぐに目に光が宿る。
「でも、大丈夫です。明狼様ならそう言うだろうとわかってましたから」
「うん?」
「予め日美々ちゃんに声掛けて、一緒にきてもらってるので」
芽緒の後ろにスッと現れたのは、ピンクの可愛らしいパジャマ姿の日美々。
「めいろくん。今日は3人で寝ましょう」
(なんでこんなことになってるんだろ?)
そんなことを思う明狼の左側に日美々、右側に芽緒という並びで、「川」の字になり三人で同じベッドの上、横になっている。
日美々の勢いに押され、あれよあれよと言う間にこうなっていた。
「ところで、もし俺があっさり芽緒を部屋に入れてたら、にみはどうするつもりだったの?」
「めいろくんはまだそんなことはしないと思ってましたけど、もしそれなら、二人きりにして私は自分の部屋に戻るつもりでしたよ」
「ほんとに?」
「本当です! 今日はまだ何もしないって芽緒ちゃんも言ってたし」
「芽緒が何もしなくても、俺から何かするかもしれないよ?」
「めいろくんは、らうらさんにも私にも何も言わずに、手を出すような人じゃないですから」
「うーん。言えば手を出していいのかって話だけど……。
あれ? てか、威扇さんがうちに来た日、俺のこと疑ってなかった?」
「そうでしたっけ?」
目線を泳がせながらしらを切る日美々。
「あの時はまあともかく、信用してますからね。めいろくん」
日美々はそう言いながら、明狼の左腕に抱きつく。
「あの……私も、ソレしたいです」
芽緒が羨望の眼差しを向ける。
「いいよ。芽緒ちゃん」
「本当ですか? ありがとうございます。日美々ちゃん」
芽緒が抱きついてきたことで、明狼の右腕は、その豊満なバストに包みこまれる。
「俺の許可は?」
「本妻の私が許可が全てです」
「日美々ちゃんがそう言うならそうです」
「はあ。まあいいか。
ところで芽緒、にみはちゃんなんだから、俺もさまじゃなくてよくない?」
「申し訳無いですがそこは譲れません」
「どうしても?」
「はい。明狼様は特別なので」
そう言う芽緒が、両腕の力をぎゅうっと強めるのを、明狼は右腕に感じる。
「明狼様」
「うん?」
「私がついて行って、お役に立てるんでしょうか?」
「うーん。羅羽羅はあんなこと言ってたけど、羅羽羅の言ってることが全て正しいってわけでもないしなあ」
「私も勝利のカギって話ですか?」
「うん。本当に勝利のカギになるのかもしれないし、今回見たことや体験したことが将来役に立つのかもしれないし、このタイミングでは家に居ないことが重要なのかもしれないし――ただ単に、三人で遊びに行ってこいってだけかもしれないし」
「私が行かなきゃいけないって、思わせるためだけってことですか?」
「その可能性もあるかもしれないね。
いずれにしても、何かしらの意味はあると思うけど」
「なら、今回は役立たずで終わるかもしれないんですね……。
役に立たなきゃ私のいる意味ないですよね。
将来役に立つ日が来るかもしれないっていっても、その未来に私はここに居ないかもしれないですし」
「いや。役に立たなきゃ意味がないなんてことはないよ」
「え?」
「この一ヶ月ちょっと、芽緒が料理や家事で貢献してくれてるのも、少しでも体動かして体力つけようとしてたり、頑張ってるのは見てるから」
「はい」
「悪いけど、芽緒もすでにこっち側――身内ってくくりに入っちゃってるから」
「はい」
「だから、苦手でできない事があっても、不調でたまたまできない日があっても、ある日から何かができなくなってしまっても、役に立つとか立たないとか関係なしに、ここに居てくれると嬉しい。
まあ、怠惰に過ごしていいって心持ちだとちょっと困るけど」
「はい。ありがとうございます」
芽緒が声を震わせる。
「めいろくん? それってもうプロポーズじゃ? 私もまだされてないんだけど?」
「う? あれ? これってプロポーズに取られる?」
「取られるかな」
「取りました」
どこか棘のある声音の日美々と、嬉しそうな涙声の芽緒。
「私には最高のプロポーズを用意してくれてるって信じて待ってるからね。めいろくん」
「はい。頑張ります」
「私はこれで十分ですありがとうございます」
そこで芽緒は涙を拭い、大きく呼吸を入れてから続ける。
「役立たずでもいいっていうのは嬉しいんですけど、やっぱりお役に立ちたいのでやれることを頑張ります。
――それで、その、今回役に立てたら、明狼様に、その、抱いて……はまだ早いので、キスして欲しい、と思うんですけど、ダメ、でしょうか? 日美々ちゃん」
「え? あれ?」
「うーん。まあ、めいろくんもあんなこと言っちゃうくらいには、芽緒ちゃんことを受け入れているようですし、仕方ないかな。許可します」
「ありがとうございます! 日美々ちゃん」
「あの? お二方? 俺を飛び越えて話してますけど、俺の話なんですよね?」
真ん中にいるのに除け者扱いされる明狼。
「芽緒ちゃん、役に立つためにもちゃんと寝ましょう」
「はい。
でも、色々あって、余計寝付けなくなっちゃってるかも……」
そう言った芽緒だが、すぐに寝息をたて始める。
「あれ? 芽緒ちゃん寝ちゃった。めいろくんなんかした?」
「うん。魔法で寝てもらった」
「じゃあ二人でゆっくりお話しますか?」
「いや、俺たちも寝よう」
「えー?」
日美々は不満気に言いながら、左脚でナニカを探るように、すりすりと明狼の下半身に触れる。
「めいろくん……」
艶っぽい声を発する日美々。
「ん……」
しかし、すぐに日美々も寝息をたてる。
「にみもおやすみ」
明狼は日美々にも魔法を掛け、寝かし付けていた。
「はあ……」
(俺も寝なきゃ)
明狼は両腕に女性の温もりを感じながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。
――翌日。
明狼は左手に日美々、右手に芽緒と、それぞれ手を繋いだ状態で、東京タワーを見上げていた。
これから戦場に向かうという、気合いの入った顔付きをそれぞれしているが、日美々はブラウンのガーリーなワンピース、芽緒はすっかり見慣れたメイド服と、およそこれから戦いの場へ赴こうとは思えない格好であった。
東京タワーから突如繰り出された攻撃の影響か、周囲にはほとんど人はいなかったが、それでも怖い物知らずなのか逞しいのか仕方なくなのか、まばらではあるが人影は見える。
そんなところに、目立つ格好の男女が手を繋いで立っていれば、そのまばらな人々の視線が集まってきそうだが、そこは明狼の魔法で、存在感を極限まで薄くしており、明狼たちの姿を捉えたものは一人もいなかった。
「じゃあ――行きますか」
「「はい」」
日美々、芽緒と順に視線を向け、それぞれ首肯を受け取った明狼は、東京タワーダンジョンに向けて足を踏み出した。




