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羅羽羅との約束

「断じて私はそんなことしていないよ」


 明狼に「ダンジョン転生させた?」と問われ、羅羽羅は毅然と返した。


「でも羅羽羅ならやろうと思えばできるだろう? というか、羅羽羅くらいしかできないと思うんだが」


「やろうと思えばもちろんできる」


 羅羽羅が肯定する。


「だがタイミングが悪い。わざわざ今、明日世界がどうなるかわからない状態にはしない」


「今じゃなければしたかもしれないと」


「それは否定しない」


 「神」Tシャツを強調するかのように胸を張る羅羽羅。


「どうして今はやらないんですか?」


 羅羽羅に日美々が訊く。


「約束があるからな」


「約束?」


「めいろとの大事な約束がある」


「どんな約束か訊いてもいい?」


「めいろと私、お互いの初めてを捧げあう約束だ」


 明け透けに話す羅羽羅に、日美々は驚く。


 明狼はばつが悪そつに顔を背けた。




 ――最初は小さな火を生み出したり、ちょっとした風を起こすくらいの魔法だけだった。


 しかしそれは紛れもなく羅羽羅が明狼に導入(インストール)したもので、明狼の体の目立たない場所――この時は尻だった――に羅羽羅が謎の魔法陣のようなものを書き込むことで発現した。


 それはただの油性マジックペンで書かれたものだが、どれだけ体を洗おうと消えることはなかった。


 その後何度か書き足され、その度に魔法を使うために消費する――所謂魔力量が増えていき、魔法によってできることも増えていった。


 

 二年ほど前、「これで最後だから」と明狼の背中全面にに魔法陣を書き足そうとお願いする羅羽羅に明狼が条件を付けた。


 条件なんて付けなくとも、明狼は羅羽羅の好きなようにさせるつもりだったが、ちょっとした思い付きと、イタズラ心と、欲望とが重なった。


「羅羽羅の思うようにしてくれていいんだが、一ついいか?」


「へえ……。めいろにしては珍しいね。何?」


「既にそうだけど、より人間離れしていくんだよな?」


「ええ。そうね」


「どこから漏れてどんなことに巻き込まれるかわからない以上、この能力はできるだけ隠しておきたいとなると、恋人とかそういうパートナーは望めないと思ってて。それこそ体に描かれた紋様を見られても面倒だし」


「んー。そこはめいろ次第だと思うけど……で?」


「羅羽羅をその、抱かせて欲しい」


「ハグって意味じゃなくて、私とヤりたいってことだよね?」


「……うん」


「今すぐ?」


「え? いや、それは早すぎというか……」


「じゃあいつ?」


「……16歳になったら……とか」


「私の誕生日のが遅いから、私が16歳になる誕生日ってことでいい?」


「うん」


「わかった」


「俺から言い出しておいてアレだが、本当にいいのか?」


「結婚とか子供とかは要らないけど、私も興味はあるし。正直めいろ以外の男に抱かれたいとも思えないしね」


「……本当にいいなら、じゃあそれで」


「おっけー。ふふ。初めて自分の誕生日が待ち遠しく思える。二年も先なのに」




「――という感じでね」


 羅羽羅は日美々に二年前のことを話していた。


「らうらさんの誕生日っていつなんですか?」


「明後日だよ」


「ええっ?」


「こんな時にわざわざ世界を混乱に陥れるようなことをするはずないでしょ?」


「うん。それならたしかにそう」


 日美々が頷く。


「正直、羅羽羅は忘れてるかもと思ってた」


 羅羽羅の好奇心旺盛さを考えれば、他のことに目を奪われ、二年前の約束なんてすっかり忘れててもおかしくないと明狼は思っていた。


 自分からけしかけた約束だからこそ、羅羽羅が忘れていたらどういう風に切り出すべきか、それともそもそも無かったことにするべきなのか、明狼は密かにここ最近頭を悩ませていた。


「大事な約束を忘れるわけないじゃないか。酷いなめいろは」


 羅羽羅は苦笑いを浮かべる。


 長い付き合い故に、明狼がそう思っていても不思議ではないと羅羽羅は自覚していたようで、表面上は特に気にしてはいないようだった。


 が、


「それは酷すぎだよめいろくん!」


 日美々には許せなかったようだ。


「え」


 思わぬ方向からの口撃に、明狼はたじろぐ。


「女の子が大好きな人との大切な約束を忘れるわけないから!」


「はい。ごめん」


 日美々の迫力に明狼の口から謝罪の言葉が漏れた。


「謝るのは私じゃなくてらうらさんに!」


「は、はい」


 明狼は羅羽羅に向かって頭を下げる。


「ごめん。羅羽羅」


「私は気にしてないから大丈夫だよ。それに、めいろが大好きな人かはわからないよ?」


 羅羽羅がおどけたように言う。


「わかります! 約束の話をするらうらさんの顔を見ればわかります!」


「え、あ、うん。はい」


 今度は羅羽羅が日美々の迫力に圧されている。


 羅羽羅は困惑しているような、恥ずかしがっているような、それでいてどこか喜んでいるような表情をしており、明狼が初めて見る羅羽羅の表情だった。


 羅羽羅もリアクションに困っているのか、明狼に矛先を向けた。


「そう言うめいろこそちゃんと覚えてたんだろうな?」


「そりゃあまあ……」


 約束の内容が内容だけに明狼の歯切れは悪い。


「何か証拠でもあるのか?」


「え、まあ……これが証拠になるかはわかんないけど……」


 明狼は一度部屋を出て自室へ行き、あるものを手にして戻ってきた。そして、恥ずかしさを抑えながら手の中にあるフィルムが包装されたままの箱を見せる。


「「あー」」


 羅羽羅と日美々の声が重なる。


「それ買う時ってどんな感じなの?」


 羅羽羅が訊く。


「どんなって……手に取るまでに買う気のない商品見て無駄にうろうろしたり……」


「へえ。めいろでもそんな不審者ムーブになるんだ」


 楽しげな表情の羅羽羅。


「まあ……」


 明狼は頭を軽く掻きながら答える。


(もう一つあるけどわざわざ言うことではないな)


 厳密には明狼の準備というわけではないかもしれないが、羅羽羅が毎回教えてくれる日付をダウンロードしたアプリに記入していた。わざわざアプリに記録しているなんて本人に知られたら気持ち悪がられるだろうが、その日が重ならないであろうと確認していた。


 今の羅羽羅の様子を見ると、明狼がそうするだろうと分かっていて羅羽羅が話していた可能性もあるかもしれない。


「めいろも準備はできてるということだな」


「……うん」


 そんな風に話す二人を羨ましそうに見ていた日美々が吐き出すように言った。



「いいなー。なんかズルいです……」

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