修行編は一旦休止で
明狼が威扇に鍛えてもらうことになってから、ひと月ほど。
ここまでの間に、明狼が自宅と威扇の居たダンジョンを行き来できるように繋げたり、芽緒がダンジョンの中に居ても問題ない事が確認されたり、日美々が銃を武器に、明狼に属性付与してもらった弾による戦闘や補助を確立させたり、明狼が魔力の扱い方を学んだり、芽緒が魔力に順応したことによる特殊能力を自覚したり、明狼が威扇にぼこぼこにされたりしていた。
世間ではすっかり冬の空気になり、もうすぐ迎えるクリスマスに浮かれ始める頃。
一つの出来事が起きた。
突如、ダンジョンと化した東京タワーから、複数回の光線による攻撃が放たれたのだ。
偶然か、はたまたわざと人を避けて行われたのか、直接的な人的被害はなかったものの、それまでこちらから近付きさえしなければ、ダンジョンというものは不利益をもたらすものではないと認識し始めていた人々に、衝撃を与える出来事であった。
そして、この出来事は明狼たちにも大きな影響を及ぼすことになった。
夕食時。
すっかりお馴染みとなった、明狼の両脇を日美々と威扇が固め、対面に羅羽羅と芽緒という席順。
一通り食事を終えたところで、羅羽羅――今日は「メッセンジャー」という文字がプリントされた白いTシャツ姿――が話を切り出した。
「めいろにメッセージが届いてるから、とりあえず読んで」
「メッセージ? 誰から?」
明狼の疑問には答えず、羅羽羅は紙を差し出す。
――やあやあ明狼チャン。見てくれたかな?
――ひとまず今回は、キミへの抑えきれない想いを、人に危害を与えることなく表現したつもり。
――そう。今回はね。
――人に当てなかったということは、つまり、人に当てることも可能ってワケ。
――キミの大事にしている、羅羽羅クンや日美々クン、芽緒クン。あるいは、不知川サンとか、萌美智クンとかね。
――キミの魔法であれば、大事な人たちを護れるかもしれないね。
――でも、いつやって来るかわからない攻撃に備え続けるのも大変だと思わない?
――配達の荷物が指定時間過ぎてるのに全然届かないみたいなさ。
――明狼チャンは理不尽に思えてるだろうけど、こっちからすると、明狼チャンの存在はとても迷惑でね。
――眠ろうとしてる時に、頭の周りを飛び回る蚊くらいにはね。
――ということで、こっちの勝手な事情を押し付けるんだけど、東京タワーダンジョンで待ってる。
――直接戦って決着をつけようよ。
――ああそうだ。
――そこの威扇とかいう女。
――そいつ連れてくるの禁止ね?
――もし連れてくるようだったら、全力で逃げながら、キミの大事な人たちを消していくから。
――お互い、正々堂々と戦おうね。
「どこが正々堂々じゃあ!!」
明狼の隣で見ていた日美々が叫ぶ。
「脅して誘き出そうとしておきながら、いせんさんは来るなとか、絶対罠仕掛けて待ってるでしょこれ!
めいろくん、こんなの行っちゃダメだよ!」
日美々がテーブルをドンと叩き、怒りをあらわにする。
「なんで俺なのかもわかんないし、正直めんどそうだし行きたくはないんだけど、ここにいるみんなが狙われるってなるとなあ……。
およそ関わることもないだろうって人たちなら、見捨てる覚悟はあるけど」
明狼は非情なことを言うが、実際にそうしてきた。
「逃げるわけには行かないよなあ……」
「めいろくんは行くつもりなの?」
「うん」
「罠を仕掛けて待ち構えてるところに、わざわざ出向くの?」
「嫌だけどそうなるかなあ」
「ダメです! 危険すぎます! らうらさんもいせんさんも止めてください!」
「実際どうなの? いせピ。めいろは勝てそう?」
羅羽羅が威扇に訊く。
「ふむ。勝てるか否かと問われると、そうじゃなあ――わからん」
集まった視線を受け流すように威扇が言う。
「相手がどんなやつかもわからんのに、わかるわけがないじゃろう?
じゃが、向こうさんはアタシが居たら勝てないと思っているとなると、メイロウなら勝てるんじゃないかのう」
「えー? 一ヶ月鍛えたとはいえ、そんなに強くなってるんですか?
いや、めいろくんなら元々強いし、一ヶ月でめちゃくちゃ強くなっててもおかしくないのかな?」
「一ヶ月程度で劇的に強くなるわけなかろう?
それでも、アタシにビビってるようなやつに負けるとは思えん」
威扇が胸を張って答える。
「向こうさんがメイロウを狙っておる以上、いつかは戦うことになるんじゃろうし、向こうさんの居場所がわかるときに倒しておくほうが、色々と楽じゃろう?」
「めいろくんは勝てるんですね!?」
威扇に日美々が問う。
「それはわからんと言っておるじゃろ。
――じゃが、アタシにビビってるような奴に負けることは許さん」
威扇がニヤリとわらう。
「いせピもこう言ってるし、めいろも嫌々ながらやる気だし、めいろ修行編は一旦休止で、東京タワーダンジョン攻略編に移行かな」
「――はあ。わかりました。もう止めませんから、私もめいろくんと一緒に行かせてください!」
日美々が訴える。
「うん。にみたん、めいろをよろしくね」
「はい!」
「それと――めおめおも行ってもらうから」




