動いたあとは飯
「うちに来るんですか? 威扇さんも?」
「うむ。動いたあとは飯じゃ! 良いものを用意してくれとは言わぬ。この世界の人々が、普段食ってる物をアタシも食べてみたいんじゃ」
威扇は目を輝かせて訴える。
「うーん」
「安心するのじゃ。別に元の姿に戻って、家を壊すとかはせぬ!」
家の中にドラゴンが出てくるのは、困る状況なのは間違いなく、それが無いと言うなら当然安心材料なのだが、しかし、今の姿で連れて帰るというのは、それはそれで面倒そうではあった。
「それに、ラウラとやらにも会ってみたいしの。お主が呼べば来てくれるんじゃろ?」
「羅羽羅なら呼ぶまでもないというかなんというか」
「会うことが可能なんじゃな! よし、では行こう! すぐ行こう!」
「はあ」
威扇を連れて帰れば、色々と面倒が起きそうな気もするが、ここからどれだけ問答を続けたとして、威扇をこの場に置いて、自分だけが帰る状況を作れるとは明狼は微塵にも思っていなかった。
「連れて行くのはいいですけど、暴れたり大騒ぎしたりしないでくださいね」
明狼は、一応釘を刺しておく。無意味に終わりそうだと思いながらも。
「うむうむ。お主に迷惑を掛けはせぬ」
(付いて来ることがすでに迷惑なんだけどなあ……)
という言葉を、口には出さずに明狼は飲み込んだ。
ダンジョン内と自宅を繋いでの【転移】を、ダンジョン側の協力もあり、あっさりと成功させ明狼は帰宅する。
当然、威扇を伴ってである。
「おかえりなさい。めいろくん」
そんな明狼を出迎えたのは、できることなら後回しにしたかった日美々だった。
日美々は明狼が連れてきた美女――威扇を警戒、威嚇するかのように尻尾の毛を逆立て、ピンと伸ばしている。
「ただいま」
「めいろくん。その方はどなたですか?」
日美々の凍えるような視線が明狼に突き刺さる。
「アタシは威扇じゃ。獣人の娘、お主がラウラかの?」
「私は日美々と申します」
日美々はそう言うと、明狼の腕を取って引き寄せ、その腕に抱き付き宣言する。
「私がめいろくんの本妻です!」
「ほう! 本妻とな。
となると……あの似たようなものだけど違うというのは、そういうことじゃったか」
うんうんと威扇は得心がいった表情をしていたが、突然切り替わり考え始めた。
「この国には複数の妻を娶っている者はおらぬように見えたんじゃが、そういう決まり事は無いんかの?」
「たしかにこの国の婚姻制度は、一人の夫に一人の妻というものですけど、めいろくんは特別です!」
威扇の疑問に答える日美々。
「法律的には特別も何も無いし、認められないですけどね」
「この国の規律は知らぬが、お主のような優秀で強力な能力を持つ者が、複数の妻を娶るのは当然のことじゃな。むしろ次の世代に繋げることは義務とさえ言えるのう」
「それはそうです!」
得意気な日美々。
「いや、魔力もどうやら貰い物ですし、魔法だって使えるようにして貰ったし、全然俺の能力じゃないですけどね」
「アタシに勝ってるんじゃから、謙遜なんぞせんでいいんじゃよ?」
「そう言われてもなあ……はあ」
明狼は威扇からの評価の高さに、恐縮してため息を吐いた。
「ところでめいろくん。この人は結局どなた?」
日美々が腕に抱きつく力を強めながら明狼に問う。
「富士山の頂上にいたドラゴン――その人型の形態ってことになるかな」
「うむ。なんなら今ここで本来の姿になることもやぶさかではないぞ?」
「いや、それはしない約束ですけど?」
「ふむ。そうじゃったか?」
「で、いせんさん? は何をしに来たんですか?」
「そうじゃった! アタシは飯を食いに来たんじゃった!」
「は? 旨すぎなんじゃが!」
威扇は、明狼に貰った酒を飲んだ時と同じ言葉で感嘆し、出された食事に舌鼓を打つ。
食事を用意した――この数日でかなり馴染んだメイド服姿の――芽緒は、凄い勢いで口の中に放り込んでいく威扇を見て、満足げな表情を浮かべる。
「これは特別な食事というわけではないんじゃな?」
一旦、口の中のものを飲み込んで、威扇は明狼に訊ねる。
「そうですね。一般的に食卓に並んでるものですね。
調理した彼女のおかげで、美味しく仕上がってますし、威扇さんのために量は特別多いですけど」
「なるほどのう」
威扇は、明狼の前にある料理も含め全て平らげ、ぐでーんと椅子の背もたれに寄りかかる。
「満腹じゃー」
「ごちそうさまー」
「芽緒、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。明狼様」
「さまはやめようよ」
「そうはまいりません。明狼様」
「三人のおなごを侍らせて、メイロウもなかなかやるのう」
「侍らせてるわけでは……」
日美々と顔を合わせた後、威扇が「とにかく飯」と主張したため、テーブルを囲んでまずは食事をとることになった。
明狼の右に威扇、左に日美々が座り、正面に羅羽羅――今日のTシャツの文字は「館の主」だった――、その隣にメイド服姿の芽緒が座る。
この家に来た当初、芽緒は一緒に座ることを拒んでいたが、メイド服は羅羽羅の趣味でしかなく、役割を押し付けるものではないからと説得し、同席させている。
「見慣れてるから、アタシの裸を見ても全然動じなかったんじゃろ?」
「めいろくん? いせんさんの裸って何?」
日美々から冷たい空気が流れ出て、明狼に突き刺さる。
「いやそれはその……」
「アタシに脱がされた時も堂々としたもんじゃったし」
「めいろくん??? 脱がされたって何???
フタリデナニヲシテイタンデスカ??」
「メイロウから、熱く迸るナニカをずっとぶつけられてただけじゃよ?」
明らかに悪そうな笑みの威扇。
「ハダカノジョセイニ、ヌガサレテ、メイロクンノヨクボウヲブツケテタト」
「欲望はぶつけてない」
「ジャアベツノボウヲ?」
「してません」
「最後は激しく突かれて、仰向けで放心するしか無かったのう」
「いや、ちょっと威扇さん? 最後は当たってないし、放心もしてなかったですよね?
にみも落ち着いて」
ガルルと威嚇する日美々を、どうどうとなだめる明狼。
「さて、冗談はこのへんにしといてじゃな」
威扇はここまで静観していた羅羽羅に視線を移す。
「ラウラとやらに聞きたいんじゃが」
「うん? いせピ何が訊きたいの?」
「いせぴ? ってアタシのことか。変わった呼び方するねえ。
まあそれはいいとしてじゃな」
苦笑いの威扇。
「ラウラ、お主、アタシに何を求めとるんじゃ?」




