旨い酒のお礼に
「とりあえずこれでよいかの?」
ドラゴンの人間形態である目の前の美女が言う。
彼女は、明狼の要望に応え、黒のタンクトップにデニムのショートパンツという姿に衣装チェンジしていた。
「ところでお主、名前はなんというんじゃ?」
「明狼、です」
「メイロウか。うん覚えたぞ。ちなみにアタシは威扇じゃ」
ドラゴンである彼女――威扇は、ニカっと笑う。
「さて、じゃあ旨い酒のお礼に、遊ぶとするかの」
威扇はそう言って、瓶の中に残っていた酒をあおる。
「本当にやるんですか? 俺、全然戦えないですけど?」
「ここまで来ておいて戦えないはないじゃろ?
ここから眺めてる限りじゃが、この世界の人間は魔力も持たず弱そうじゃからのう。その分、アタシには想像もつかない様々な技術力を伸ばしているようじゃが。
そんな世界でお主は別格も別格じゃな」
「魔力でゴリ押してきただけで、期待に沿えるようなものじゃないんですけど」
「良い酒を持ってきてくれた上に、貴重な話し相手じゃ。自ら喪うようなまねはせぬよ」
「……わかりました。がんばります」
これ以上ごねたところで、やることには変わらなさそうだと、明狼は観念した。
「では、ほれ、先手をやるから、好きに攻撃してくるんじゃ」
明狼と威扇が対峙する。
お互い特に構えることなく自然体で立つ。
しかし、威扇は歴戦の強者という佇まいだが、明狼は格闘技の経験など無いため、構えようにもどうしていいのかわからないので、そうしているだけという空気が出ていた。
(さて、殴ったり蹴ったりはよくわかんないし、防御は切らさないよう意識しながら、遠距離攻撃かな)
「行きます!」
律義に声を掛け、明狼は魔力の塊を威扇に投げるように飛ばす。
「ふむ――」
難無く防御する威扇が、何か言おうとするのを止めるように、明狼が攻撃を重ねる。
先ほど放った魔力の塊と同程度のモノを、次々と威扇に向けて飛ばす。
そのまま三十発ほど重ねたところで、明狼は攻撃を止める、空気を深く吸い込む。
「これほどの威力を持たせた魔力を、こうも重ねて撃てるとは、なかなかやるのう」
感心した様子の威扇。
「では次はアタシの番じゃの」
と言うやいなや、明狼は威扇の姿を見失う。
「え」
明狼が再び威扇を捉えたのは、目の前で腰を落とし、右腕を引きつけ半身に構えた姿だった。
そして、明狼の腹部を貫かんとばかりに、威扇から右の拳が繰り出される。
「うお」
明狼は、身体が少し浮くような感覚と、軽い衝撃を腹部に覚え、後ろに飛ばされた。
とはいえ、攻撃に対する防御と同時に、衝撃を吸収するように明狼は魔力を張っていたことで、ダメージそのものはほとんど無かった。
「防御も固いのう」
威扇は嬉しそうにそう言うと、次々に攻撃を繰り出す。
殴り、蹴り、殴り、蹴り。
左右から止めどなく威扇の攻撃が飛んでくるが、明狼は魔力を切らすことなく防御に専念する。
「これはどうじゃ?」
威扇は右脚を高く上げる。
左足でしっかりと地面を捉え、右足をピンと伸ばす。
美しささえ感じさせる、脚で描く縦一文字。
そこから威扇は右脚を落とす。いわゆるかかと落としを明狼に向け放つ。
左右に攻撃を散らし、意識外の上からの攻撃。
とっさのことに、身体は反応すらできず、上からの衝撃を受けるが、それでも明狼は大きなダメージを負うことなく耐える。
直後、威扇はまたしても明狼の視界から消える。
体を強張らせる明狼だが、背後から押されたような衝撃を浴び、つんのめるようにして倒れる。
「意識を散らして後ろから攻撃してみたが、これも効かんか……」
威扇は呆れたように言う。
「倒されてるし、効いてないわけじゃないけど」
起き上がり、態勢を整える明狼。
「何の損傷も無いくせに、生意気じゃのう」
やれやれと頭を振る威扇。
「ん。その目は、やる気満々じゃのう。メイロウ」
この戦いがどういう結果に終わるにしても、何らかの区切りが必要だろうと明狼は考える。
(となると、俺が出せるだけ力を出すのが早いかな)
明狼は右手に魔力を集中させる。
「全力の全力というわけじゃな?」
明狼は、魔力をねじるように尖らせるイメージで、練り上げていく。
「ほほう」
感心した様子の威扇。
明狼はここで一つ仕掛けを入れる。
「む?」
威扇の素早い動きで逃げられないように、威扇の左右と後方に魔力の壁を設置する。
「そう来るんか」
「行きます!」
明狼は右手の魔力を、威扇に向けて投げるように放った。




