魔力の影響
「俺は彼女に何もしてないと思うけど?」
明狼の影響により、芽緒は魔力に適合したという羅羽羅の話を、明狼は否定する。
クラスメイトでありながら、ほとんど何も知らない相手だ。明狼が何かをしたと言われても全く自覚は無かった。
「めおめおが立てこもったトイレって、めいろが【転移】でこの家に帰れるように、繋いだ場所なんだよね?」
「それはそうだね」
「おそらくその影響で、結界を張ったような空間になって、そこはダンジョン内にありながらも、簡単にはダンジョンに取り込まれなかった。
つまり、魔素の流入が緩やかだったから、めおめおも徐々に魔素に触れていくカタチになって、身体に馴染ませやすかった、ってところだと思う」
「それが事実だとしても、立てこもった場所が良かったってのと、本人の体質とか性質――実は魔素に馴染みやすかった、みたいなものがもたらした結果に思えるけど?」
「重要なのは、立てこもった場所が良かったって事ではなくて、何故そこを選んだのかって事なんだよね」
それは偶然では無いだろうと、明狼も思っていたことだった。
「たしかに。彼女があの場に向かった理由は言ってた?」
「見てたみたいよ。めいろがこそこそ何かしてるところを」
「え?」
「やっぱりめいろくんの行動は見られてたみたいだね」
日美々が口を挟む。
「【転移】の為に繋いでたところを見られてたのか?」
「ううん。ただ入っていくところをたまたま見てただけみたいよ」
「いや、でも、あの辺に居る時は、魔法で姿を隠していたはずなんだが……」
「めおめおが言うには、その時のめいろは存在感がとても薄くて、その後の姿も見なかったから、幻覚でも見てたのかもしれないと思ってたってさ」
「それでもあの時の俺を、はっきりではないものの見えてたってことなのか」
「そう。で、その見えないはずのめいろが何故見えてたのかなんだけど」
「うん」
「めおめおがずっと、めいろのことを見てたから、だと思うんだよね」
「俺を見てたからなの? そもそも、そんなに見られてたかもよくわかんないけど」
「いや、ホントずっと見てたよ」
明狼の疑問に答えたのは日美々だった。
「授業中も、その他の時間も、チラチラチラチラめいろくんの姿を追っかけてたね」
「そうなの? か」
「うん。本人はわからないようにしてたんだろうけど、めっちゃ見てた」
「つまり? ええと、俺への好意? で見えるようになってたってこと?」
他人が自分に好意がある、なんて言うのが恥ずかしい明狼は、たどたどしく言う。
「それも要因っていうか、めいろが好き故に見てたからなんだろうけど」
「うん」
「めおめおは、めいろを見ると同時に、見えないめいろの魔力も見てて、その魔力がめおめおに影響を及ぼしてた、ってことじゃないかなと」
「見てただけで?」
「うん。魔力に影響を受けたことで、魔法で姿を見えなくなっためいろを見つけることができたし、日頃からのその影響のおかげで、ダンジョンの中で魔素に適応、順応できたんじゃないかなって」
「見えてもない魔力を見るだけで、そんなことになるのか?」
「この世には、観測するかしないかで、振る舞いを変えているような結果を見せるものもあるんだし、ただ見るって行為の影響も計り知れないでしょ。
ましてや研究も何も手付かずの魔力が、何にどんな影響を及ぼすかなんて、未知も未知だからね。
ただただめいろを見てただけのめおめおが、実は魔力に見られていて、影響を受けてたとしても不思議じゃないと思わない?」
「魔力に見られる、ねえ。
だとすると、彼女はあの時にはすでに、魔力や魔素に順応しやすくなってたのかもしれないと」
「あるいはもう順応していたのかもしれないね。
めいろの言うように、本人の体質や資質が、魔力に馴染みやすいものだったというのもあると思うけど、それよりも、めいろの魔力に当てられて、馴染みやすい状態にあった。つまり――めいろのせいってことで間違いない」
「だとしても俺のせいではなさそうだけど。
そもそも、本当に魔力を見るだけでそうなるのかも確定してないよね?」
「そうね。でも、そのうちわかるでしょ。
まずは獣人たちを見るところからかな? 活躍してくれれば人々の目に触れる機会も増えるだろうし。
まあ、彼らを見る機会はしばらくは動画、あっても生配信でだけど」
「人間がダンジョンに入っていくのは、まだ先の話になるんかな?」
「んー……。あーでも、これとか利用すれば、魔力に馴染んでいくとかあるかも」
そう言いながら羅羽羅がテーブルの上に置いたのは、青い瓶だった。
「俺らが持ち帰ったポーション?」
「うん。
調べた結果、未知の成分が検出されたみたいだけど、そんなことよりもこれ、魔力が込められてるっぽいよね」
「あー。たしかにそうかも」
「これ飲んで、魔力に馴染ませるとかできそうじゃない?」
「ありかもしれないけど、今のところ入手方法がなあ」
現状ダンジョンの宝箱からのみである。
「必要になったら、めいろにかき集めに行ってもらわなきゃか」
「どうしても必要になったら……やるかもだけど」
明狼は露骨に嫌そうな表情を見せる。
「なんにしても、めおめおの状態をもっとちゃんと確認してからだけどね」
羅羽羅はニヤリと笑いながら続ける。
「てことで、めいろには別の仕事用意しとかなきゃだね」




