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知ってたんですか?

「仁雄優さんたち、めいろくんのことをある程度知ってて呼び出したってことですか?」


 顔や姿形は知らないとしても、魔法によって仲間を治癒してくれた人物であろうという推測は立っていて、その上で明狼を呼び出したということに、日美々は違和感を覚えていた。


「ぶっちゃけて言うとそうだな。今日この場に現れるのが、俺らの仲間を救ってくれた魔法使いだろうとわかっていた。

 ま、こちらにやってきた、魔法の得意な種族だろうと思ってたから、普通の人間で驚いてたけどな。

 ……普通の人間だよな?」


 答えた仁雄優が独り言のように疑問を口にする。


「もちろん普通の人間です! たぶん?」


 日美々が自信なさげに答える。


「そうですね。たぶん普通の人間です」


「なんで本人も自信なさげなんだ」


 苦笑いの仁雄優。


「まあ、信用ならねえからって名目で来てもらったが、少なくとも高度な治癒魔法が使え、それでいて恩を着せるわけでも、自慢するわけでも無ぇ。会ったことも無かったが、人間性はある程度信用していいと思ってたのは事実だ。

 もちろん、武器への付与魔法(エンチャント)がどれくらいかわからんから、そこは見せてもらいたいがな」


付与魔法(エンチャント)が見たいだけなら、わざわざ本人を呼び出す必要はなかったんじゃないですか? 何のためにめいろくんを呼び出したんですか?」


 日美々が問う。


「何のためにってそりゃあ……」


 仁雄優は頬をポリポリとかきながら言う。


「礼を言うために決まってんだろ。

 姿を見せたくなかったってのはわかってるし、そんなことしても俺ら――いや、俺が満足するだけのことなのはわかってはいるんだが」


 仁雄優はばつの悪そうな表情で続ける。


「果乃都陽のことがあるまで俺も知らなかったんだが、明狼くんには何度か救ってもらってるらしいんだ」


「へええ」


 と、明狼。


 明狼は誰を治療したか把握していなかったので、何度か獣人に治癒魔法をかけていたことをこの場で知ったのだ。

 

「まるで他人事だなあオイ。まあいいか。

 明狼くん。礼を言う。仲間を救ってくれてありがとう」


 仁雄優が頭を下げる。


「ありがとにゃ!」


 合わせて乃胡音も頭を下げた。


「めいろくんありがとう」


 日美々もそれに交じる。


「ええっと。みなさん頭を上げてください」


 明狼は困った表情で続ける。


「善意だけでやってる訳じゃなくて、治療の報酬はもらってますし、頭を下げ続けるような人間じゃないんで」


「わかったのにゃ」


 明狼の言葉を受けてあっさりと顔を上げる乃胡音。


「おいおい」


 続いて仁雄優。 


「本人がいいって言ってるのにゃ」


「それはそうだが」


「いつまでも過去を見てても仕方ないのにゃ! 未来志向でいくのにゃ!」


「皆さんにはモンスター討伐、俺はその装備品の準備で、今後は協力していくことになると思いますし、持ちつ持たれつでいきましょう」


「そうか。そうだな。わかった。よろしく頼む」


「頼むにゃ!」


「で――」


 明狼は日美々を見る。


「にみはいつまで頭を下げたままで(そうして)いる気なの?」


「めいろくんは私に顔を上げて欲しい?」


「そりゃあもちろん」


「私の顔が見たい?」


「あー――うん。かわいいにみの顔が見たい」


 若干棒読み気味の明狼の言葉だったが、日美々は満足したようだった。


「そこまで言うんなら仕方ないなあ」


 と、嬉しそうな笑顔を見せる。


「仲が良いのもイチャイチャするのも良いが、あんまり人前でやるもんじゃないぞ」


 仁雄優が苦言を呈する。


「仕方ないのにゃ。たぶんウチへの牽制なのにゃ」


「そういうもんなのか。俺にはよくわからん」


 呆れたような表情を浮かべながら仁雄優は続ける。


「そろそろ明狼くんの付与魔法(エンチャント)を見せてもらってもいいかい?」




 ようやく明狼の魔法を披露することになり、ナイフや斧、クロスボウとその矢、防具代わりのコートや、この国の警察が使っている盾などに、魔力を付与(エンチャント)したものを見せていく。


 ちなみに、この場に銃が無いのは、獣人たちが銃を持つことで、逆に人々に不安を広げることになるのではないかという懸念からだ。


 しかし、デモンストレーションとして彼らに銃を使わせ、その有効性を示した上で、魔力を付与(エンチャント)した銃弾を世界中に売りつけようという案もあるらしく、実戦の場で使う可能性もまだあるようだが。

  

「しっかりと魔力が纏われているのはわかるが、実物を見たところで、使ってみないとわからんな」


 仁雄優が手にしたナイフを見ながら言う。


「まあ、明狼くんがどんな人かをこの目で確かめるのと、礼をするのが今日の目的だったしな」


 がっはっはと豪快に笑う仁雄優。


付与魔法(エンチャント)ってウチが着てる服にもできるのかにゃ?」


「できますよ」


「ほんのり温かくするような魔法もあるのかにゃ?」


「あー、やったことはないですけど、たぶんできます。たぶん」


「今試せるかにゃ?」


「直接触る必要があるので……」


 さすがに今着ているものに直接触ることも、かと言って脱がすこともできないので、戸惑う明狼。


「乃胡音さん、いきなり脱ぎ出したりしないでくださいね?」


 日美々が言う。


「ウチはそんな変態ネコじゃないにゃ!」


「そのコートで試してみたらいいんじゃないか?」


 仁雄優の提案を受けて、明狼が動く。


「じゃあまず一度そのまま着てもらって、その後魔法を付与(エンチャント)して比べてみますか」


 乃胡音がコートを脱ぎ着して、明狼の魔法の効果を試す。


「どうですか?」


「ぬくぬく感が増したにゃ!」


 どうやら上手くいったようだ。


「今日はこんなところか」


「そうですね。何か俺にできることで希望があれば、思い付いた時に伝えてください。全てに対応できるかはわかんないですけど」


「わかったにゃ」


「それじゃあ改めてよろしく頼む」


 明狼は仁雄優の差し出した手を握り返す。


「よろしくにゃ!」


「明狼くん。日美々のことも頼む。彼女も俺らの仲間だから、大切にしてやってくれ」


「日美々ちゃんは明狼くんにメロメロみたいだけど、優しくしてあげてにゃ!」 


 




 その夜。


 夕食を終え、入浴を済ませ、髪を乾かし、スキンケアをしていた日美々。


 そんな日美々に割り当てられた部屋に、コンコンとドアをノックする音が響いた。

 

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