センサーに反応あり?
ニヤリと笑う乃胡音と対照的に、日美々は苦々しい表情を浮かべて、乃胡音の話を訊く。
「おっとりしてて、気弱で内気そうで、庇護欲をかき立てられて、でも、いざというときに見せる表情や言動とのギャップで、人気爆発間違い無しにゃ!」
「もしかして、果乃都陽さんですか?」
「そうにゃ! 羊の獣人の果乃都陽ちゃんにゃ。
てか、日美々ちゃんは何でそんなに嫌そうな顔してるにゃ?」
「私のハーレム引力センサーが反応してて……」
「ハーレム引力センサーとは何かにゃ?」
「めいろくんに惹かれて集ってきそうな相手を検知するセンサーです」
「惹かれて集ってくることに何か問題があるのかにゃ?」
「私が困ります」
「明狼くんを取られるのは嫌ということかにゃ?」
「そうです」
「それは、レアスキルにゃ?」
「いえ、女の勘です」
「にゃはははは」
女の勘と聞いて乃胡音が豪快に笑う。
「この国でハーレムなんてのが許されるのか知らんが。
でもたしかに、あながち間違ってもないかもなあ。そのセンサー」
と、仁雄優。
「え? どういうことですか?」
日美々が訊き返す。
「俺らが何かあった時、治療を受けられないって言ったよな?」
獣人の治療方法が確立されてないからできない、という話ではなく、医師――というかこの国の人間――に、獣人であることを開示することができないという意味である。
獣人という、常識から大きく逸脱した存在に触れた時、人々の反応が予測できないので、避けようという消極的な判断で、明狼が、仁雄優たちにモンスター討伐依頼を受けて欲しくないと思っていた理由でもある。
「市販薬で済むようなものなら問題はないが、手術が必要となるようなものは、俺らにはどうすることもできないんだ」
獣人たちの中に、医術の知識や技術を持ち合わせている者は居ないということだろう。
「日美々が俺らから離れて暮らし始めた後の事をだが、果乃都陽が倒れて、かなり危険な状態に陥ったことがあってな」
「え? そんなことが」
その話を知らなかった日美々が目を大きくして驚く。
「その時ダメ元で、不知川さんに頼んでみたんだ。誰か獣人を診れる人は居ないかって」
「あー……」
何かを察したのか、日美々の表情に影が射していく。
「そうしたら、名前も年齢も性別も何もかも明かせない上に、治療される獣人のことすらも何もわからない状況でなら引き受ける、っていう謎の返事があってな。
わからないことだらけだったが、藁にもすがる思いで頼んだところ、翌日には普段通りの果乃都陽が居てな」
日美々の視線が明狼へと動いていく。
「果乃都陽は意識も記憶もないけど、温かいナニカに包まれたような感覚は残っていて、おそらく魔法をかけられたんじゃないかって」
「たしかにそんなことを言ってたにゃ」
乃胡音が頷く。
「そんな風に自分の生命の危機を救ってもらって、その相手に何も思わないわけないだろ?
この国の言葉で言えば、フラグが立ったってやつだな」
「あとは回収するだけにゃ!」
けらけらと乃胡音が笑う。
「うーん?」
この場の視線は明狼に集まっていたが、当の明狼はピンときていない様子だった。
「めいろくん?」
「うん?」
「ピンときてない顔してるけど、身に覚えないとか?」
「まあ、何度か治癒魔法を頼まれて、使ったことはあるんだけど、誰に魔法をかけるとか聞いてもないし、見てもないからなあ」
明狼としては、無闇に魔法を使うつもりは無かったが、不知川が段取りを整えて持ってきた依頼に何度か応え、自分で自由に使える分のお金を報酬としてもらっていた。
お金の為と自分を割り切らせ、治療相手を知らないことで、縁を結ぶことを避けていた。
学校で、クラスメイトたちを見ようとしていなかったことと、同じことだろう。
「はっはっは。不知川さんの依頼で動いて、相手も見ずに治療していくなんて、そんなことする奴が何人も居るわけ無いだろう?」
「明狼くんで間違い無いにゃ!」
「残念ながらめいろくんの仕業で確定です」
何故か残念がる日美々。
「なんで残念なの?」
「そんなことより」
明狼の疑問を「そんなこと」で片付けた日美々は、仁雄優に鋭い眼光を向けて訊く。
「仁雄優さんたち、めいろくんのことをある程度知ってて呼び出したってことですか?」




