獣人たちの想い
「『ウチ』とか『にゃー』とか何なんですかそれ!? 今まで聞いたことなかったんですけど!?」
日美々の悲鳴にも似た叫び声が響き渡る。
「研究の成果にゃ!」
人差し指を立てて得意満面に乃胡音が答える。
「研究ですか?」
明狼が訊く。
「そうにゃ。この国には色んなところに猫の獣人がたくさん出てくるのにゃ! それを研究した結果、一人称は『ウチ』、語尾には『にゃー』がウケると判断したのにゃ!」
乃胡音は腰に手を当て、えっへんと言わんばかりに胸を張る。
「最近急にこうなってな。実は俺もまだ慣れてなくて違和感があるんだよな」
仁雄優が苦笑いを浮かべる。
「そして肌の露出にゃ! これで完璧にゃ!」
布面積の少ない格好も、研究の成果だと乃胡音は言う。
「乃胡音さん、寒がりだったと思うんですけど」
日美々が訊く。
「そうなのにゃ。これから寒くなるからキツいのにゃ……」
「なら何でそんな格好を」
呆れたように言う日美々に返したのは、仁雄優だった。
「さっきの話にも繋がるんだが、こいつなりに色々考えた結果だそうだ」
「その通りにゃ」
「人前に出るに当たって、俺らも当然色々考えたんだ。
それこそ、恐れられて排除されるとかな」
「万人とは言わないまでも、ある程度の人たちにウケて支持されれば、ウチらの立場も安泰になると踏んだにゃ!
人気が出すぎて危険が及ぶなんてことは全く考えなかったけどにゃ」
にゃははと乾いた笑いを見せる乃胡音。
「人前に出る危険性を認識した上で、その危険性を減らす努力、研究までしてでも、モンスター討伐をしたいんですか?」
明狼にしてみれば、自らを危険な立場に追い込んでまでやるような事には到底思えなかった。
「さっきも言ったと思うが、受けた恩に報いるのは当然のことだろう?」
「本当にそれだけなんですか?」
「はあ……。
明狼くんは、この世界にどれくらい獣人がいると思う?」
「えっと、獣人がどれくらいいるか、ですか」
この部屋の中だと、五人中三人――六割が獣人だが、人口の六割が獣人なんてことは、当然だが無い。
「百人くらい、ですか?」
明狼は今まで、獣人がこの世界にどれくらいやってきているかなんて考えたこともなかった。なので完全に当てずっぽうである。
「ぶっちゃけ俺も知らん」
「へ?」
あまりにも想定外の仁雄優の返答に、明狼が呆気にとられる。
「乃胡音は知ってるか?」
「そんなの知るわけないにゃ!」
「は、はあ」
戸惑う明狼。
「事情や理由や状況は異なるが、この世界には俺や乃胡音や日美々みたいな獣人が時折やってくる」
仁雄優は真剣な眼差しで語り出す。
「俺の知ってる範囲だと二十人くらいだが、その中には日美々みたいに、この世界の人間に紛れて生きていけそうな者もいれば、俺のように、この国での言い方で――化け物のような見た目をしていて、こそこそ生きていくしかない者もいる」
「ウチもこの耳だと普通に出歩くのは難しいにゃ」
「気ままに買い物をすることも、自由に出歩くことも、やりたい仕事をすることも、何かあった時に治療を受けることもできない」
明狼は頷いて話の続きを待つ。
「そんな生活をしてる奴が、どれだけいるか俺もわかっていない。俺の知ってる範囲で全てなのかもしれないし、もっともっとたくさんいるのかもしれない」
仁雄優は目の前に置かれた飲み物で口を湿らせ、話を続ける。
「今回のことは、俺や、仲間たちや、どこかにいるかもしれない仲間たちや、今後この世界にやってくる仲間たちが、もっと生きやすくなるよう、変えるチャンスなんじゃねえかと思ってる。
まずは俺たちの有用性や価値を示すところからだ。
この世界には、『価値のない人は居ない、どんな人だってそこに存在していい』みたいな綺麗事があるみたいだが、俺らにその価値観が適用されるとは思えねえ。
ま、価値を示して見せて、それでようやく存在を受け入れてもらうところからだろうがな」
「少しでも受け入れてもらえる可能性が増えるなら、口調を変えることも、服装を変えることも厭わないのにゃ!」
話終わった仁雄優は、真面目に語ったのが恥ずかしかったのか顔を背け、反対に、乃胡音は目をキラキラと輝かせながら、明狼を見つめ訴えた。
「お二人の強い想いはわかりました。俺にできる範囲ですが協力させてください」
「そうか」
「助かるにゃ!」
「ところで乃胡音さん」
と、日美々。
「うん? 何かにゃ?」
「その格好なんですけど、露出が多ければいいって訳じゃないというか、めいろくんにあんまり見せつけないで欲しいというか、なんというか、万人受けする訳じゃないですよ?」
そう言う日美々に、乃胡音はニヤリと笑みを浮かべて答える。
「それなら問題ないにゃ! ちゃんとそっちの需要を満たす娘も用意してあるのにゃ!」




