表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/59

伊藤さん家

「これがかの有名な『ラッキースケベ』ってやつかあ」


 羅羽羅はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。


「これが『ラッキースケベ』なんですね!」


 日美々が目を輝かせながら、それでも視線は動すことなく反応する。

 

(これも『ラッキースケベ』っていうのか?)


 明狼の知る『ラッキースケベ』とは真逆の展開である。


(いや、でも男性側だけが良い思いするとも限らないか? これがにみにとって良い思いなのかもわからないけど)


 そんな風に思い直していた明狼だが、脳内の自分につっこむ。


(いやいや、どうせこれも羅羽羅の仕業に違いないんだから、『ラッキー』でもなんでもないだろ)


 脱衣所のドアのカギは簡易的なものであり、開けようと思えば、外から開けることなど造作もないが、それでも施錠は施錠である。明狼としては、ドアが開かないという状況で、中に人がいると判断してもらうつもりだったのだ。


 しかしおそらく、明狼がシャワーを浴びている間に、羅羽羅が解錠しておいたのだろう。日美々は何の警戒も躊躇いもなくドアを開け、裸の明狼とご対面する状況になったわけだ。


 ()()()()明狼が全身を()()――『開陳』には「裸体をさらけ出す」という意味はございませんので悪しからず――していたタイミングだっただけで、さすがにそこまで狙ったわけではないだろうが、いずれにせよこの状況は、羅羽羅の作為的なもので、『ラッキー』でもなんでもなさそうだった。


「にみたん。そろそろめいろを解放してあげて」


 日美々に拘束されている訳では無いが、明狼の一部分に釘付けになっている日美々の視線に、明狼自身が釘付けにされているような状況なので、間違いとも言えないだろう。


「えー」


 しかし、日美々は不満気に発する。


「らうらさんだって見てたいんじゃないですか?」


 日美々が羅羽羅に訊く。


「私は十分に堪能したからな」


 何故か誇らしげに胸を張る羅羽羅。


「ぐぬぬ」


 日美々は唇を噛んで悔しそうにしている。


(ぐぬぬって声出す人、本当にいるんだな……)


 明狼が現実逃避気味にそんなことを思っていた。


 羅羽羅の発言に、何故かわからないが、明狼に止め処無く羞恥心が溢れ出してきており、その上更にこの状態(ありさま)である。それも仕方ないことだろう。 

 

「にみたん()今度ゆっくり見たらいいだろう?」


「あー……うん。わかりました」


 日美々は何を想像したのか、悔しそうな姿は霧散し、幸せそうな表情を浮かべ、手を頬に添え体をくねらせている。


「という訳でめいろ、私たちのお風呂の時間だから、早く着替えて出ていって」


「どういう訳だよ……」


 そんな呟きも虚しく、理不尽に脱衣所を追い立てられる明狼だった。




 ――明狼が脱衣所で日美々に全裸を晒した翌日。


 明狼は日美々を伴って、世界が一変したあの日、ダンジョン化したと羅羽羅に教わった、「伊藤さん()」に向かっていた。

 

 羅羽羅の説明によると、どうやら「伊藤さん()」とは、あの異形と化した男――日美々に言わせればストーカー野郎――伊藤留義統(るぎす)の家だという。


 何故それを羅羽羅が知っているのかと明狼が訊ねると、「私なんだから当然でしょ?」と返ってきた。


 それはまあそうかと納得した明狼だったが、羅羽羅が見たというSNSをサーチしてみると、それらしきものは「この家から変な音がした。なんか変な雰囲気漂ってるし」という、家の画像付きの一件だけだった。


 しかもそれは世界中にダンジョンが現れたタイミングであり、もっと衝撃的な映像、画像、報告、実況がいくらでも転がっていて、ほとんど人目に触れることなく埋もれていた。

 

 羅羽羅はどうして()()にたどり着いたのか、どうして()()を見てダンジョン化したと思ったのか、明狼にはわからないことだらけだったが、これまでの人生経験の結果、「羅羽羅だから」で済ませることにした。


 

「私の警戒網に、怪しい()()()が滲み出ていた男が引っ掛かったから、密かにマークしてて。

 あんなことになった訳だし、私の警戒網も見る目も大したものでしょ?

 なんにせよ、あいつは普通の人間()()()のは間違いなくて、それがああなったということは、めいろにとっての私みたいな存在が背後にいるはずだから、それを探ってきて。

 大丈夫。お父さんには伝えてあるし、許可も出てるから! じゃあよろしく!」


 と、明狼は羅羽羅に捲し立てられ、今に至っている。


 

「うーん……」


「どうしたのめいろくん?」


 明狼と手を繋ぎながら歩く日美々が、明狼の顔を覗き込むように見る。


「いやなんか、平和だなあと」


「らうらさんの事かと思ったけど、違うんだ?」


「それは一旦置いとく。考えてもわかんないし」


「それで平和なことに悩んでいると」


()()()()()になった割に、あまりにも普通に受け入れてるなあと」


 昨日の買い物の際にも明狼は思っていたことだが、SNSを検索して改めて感じていた。


 ――人々が()()()()()()()()()と。得体の知れないモンスターが現れ、画像に、動画に数多く残され、疑いようのない存在となったにも関わらず、普通の日常を過ごしているのだ。


「まあ、それだけ人類が強いってことかもね」


「たしかにそうかも」


 微塵も納得していない表情で、そう答えた明狼の視界に、SNSで見たままの家の姿を捉える。


 ――ダンジョン化したという「伊藤さん()」が、不気味な雰囲気を湛え、まるで明狼たちを待ち構えているようだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ