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攫わせた理由

「昨日、羅羽羅は()()()()んじゃなくて――()()()()んだろうなって」



「らうらさんの自演ってこと?」


 日美々が疑問を口にする。


「大雑把に言えばそうだね」


 明狼が頷く。


「そもそも、【結界】を張ってたあの家の中に、あいつが這入ってこれた事がおかしいんだよね」


「どういうこと?」


「俺の張った【結界】に、羅羽羅が何らかの細工をしたんだと思う」


「あ、もしかして、ダンジョンから帰った時に、めいろくんの様子がおかしかったのはソレのせい?」


 日美々は玄関のドアに手を掛けたまま、しばらく動かなかった明狼の姿を思い出していた。


「うん。あの時はちょっとした違和感があって、俺自身がダンジョンの魔素の影響でも受けたのかと思ってたんだけどね」


「めいろくんの感覚の問題ではなかった――と」


「俺にも詳細はわからないけど、あいつが這入ってこれるようにしておいたんだろう」


「つまり、めいろくんの【結界】が破られたわけじゃないと!」


 日美々が鼻息荒く頷く。


「いやまあ、破られたは破られたんだけど――羅羽羅に」


「らうらさんは仕方ないです!」


 明狼に魔法の能力(ちから)を授けた張本人なら仕方ないと、日美々は納得する。


「それだけじゃなくて」


「他にも何かある?」


「あいつが這入ってきたあの時、おそらくにみもそうだと思うんだけど、身体を動かすことができなかっただろう?」


「うん。金縛りにあったみたいだったけど……もしかして、あれもあのストーカー野郎の仕業じゃない?」


 ストーカー野郎――人であることを捨て、魔族と化した留義統(るぎす)のせいだと日美々は思い込んでいたが、どうやら違うようだ。


「あれも羅羽羅が、身動きと魔法を制限するように仕込んでいたんじゃないかな」


「だから、あの時めいろくんは、らうらさんが攫われてくのを何もせずに見てたんだね」


 何もしなかったのではなく、何も()()()()()()()()()()ということだろう。

 

「じゃあ、あの時めいろくんが怒っていたのは、らうらさんに向けてってこと?」


「うん。あんなことができるのは羅羽羅くらいだし、何でそんなことをしたのかわからなくて――

 もっとも、今でもわかってないけど」


 聞いてもはぐらかされるだけだった――と明狼が付け加えた。

 

「うーん……」


 日美々は考える。


「その為だけに攫われたかはわかんないけど――理由の一つはわかるかも」


「え? なんで?」


 明狼が目を見開いて日美々を見つめる。


「らうらさんがはぐらかした事を言ってもいいのかなあ」


 日美々は「うーん」と唸りつつ考える。


「それが理由なら、はぐらかしたくなる気持ちもわかるし」


「はぐらかしたくなるような理由なんだ?」


「まあ。でも、これが正しいかもわかんないよ?」


「それでも教えてほしい」


「めいろくんは本当に何も思いつかない?」


「思い当たる事があるなら話してる」


「そうかあ……」


 もし、明狼が何か思い当たる事があり、それが話しにくい内容だとしたら、「思い当たる事がない」ではなく「あるけど話しにくい」と明狼なら言うだろう。


 つまり、明狼は本当に何も思い浮かんでないんだろう。


「たぶんらうらさんは、囚われの姫になりたかったんじゃないかなって」


「囚われの姫?」


「そう。囚われの身になった上で、英雄――つまりめいろくんに、颯爽と助け出して欲しかったんじゃないかなって」


「助け出してもらうために攫われた?」


 明狼の表情から、困惑がありありと見て取れた。


「私がめいろくんにしてもらったように、窮地を救い出して欲しかったんだよ。きっと」


 それが本当だとして、自作自演まがいの行動であり、窮地と言えるほどの危機感を羅羽羅は持ち合わせていなかっただろうが、そういうシチュエーションを体験してみたかったのではないかと日美々は考えていた。


 かつて、自らが怪しい男たちに連れ込まれようとした時、日美々自身もそれほど危機感を抱いていなかったが、それでもその場に現れ救い出してくれた明狼に、ときめいてしまったのだ。


 想定通りであったとしても、あの場にやって来て事明狼を見て、いかに羅羽羅といえども、嬉しくないはずがないだろうと日美々は思う。


「昨日のらうらさん、とっても嬉しそうな様子だったし」


 シチュエーションは違うが、塀所(へいじょ)芽緒(めお)も明狼に助け出されており、羅羽羅がそのことを把握したのがどのタイミングかはわからないが、そのことも羅羽羅の行動を後押ししていた可能性を、否定はできないだろう。


「羅羽羅が嬉しそうねえ……」


 明狼が訝しげに呟く。


「まあ、テンションは高かったか」


 抱き着いてキスして、テンション高かったで済まされる程度ではないと日美々は内心呆れる。


「でも、羅羽羅の目論見がにみの言う通りだとして、どこから羅羽羅の仕業なんだろうなあ。聞いてもはぐらかされるだけだろうし」


 明狼が顎に手を添えながら言う。

 

「さすがにダンジョン化させるようなこと、してないと思うけどなあ。最初に否定してたし」


 ダンジョンが現れたことで、世界中でかなりたくさんの犠牲者が出ていた。


 日美々としては、ダンジョン――とそこに潜むモンスター――が及ぼす影響を、羅羽羅がわからないはずが無いだろうと思っている。


 何らかの事情があれば、羅羽羅は他人の犠牲など顧みることなく、それを実行に移す人間だろうとも思っているが、それについて誤魔化し、はぐらかすような真似をすることも無いだろうとも日美々は思っていた。


「世界中に混乱と被害をもたらすような事をしておいて、知らぬ存ぜぬを貫くような人じゃないでしょ? らうらさんは」


「それはそうだね」


「そもそもめいろくんは、何かしら隠し事をしていたとしても、らうらさんを信頼してるんだよね?」


「うん」


「めいろくんが信頼を置いている以上、私が気にすることはないかな」


「俺の信頼が本当に、()()()()()()()()()()()()()かはわからないけどね」


「うん?」


 日美々が小首を傾げる。


「かなり()()()発言になるんだけど……」


 明狼は前置きをして続ける。


「俺の感情や考え方が、俺のモノではなくて、羅羽羅によって作られ、植え付けられたモノかもしれない――」

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