日美々の家で
ダンジョン探索の疲れと、明狼の【結界】に護られている安心感からか、日美々はぐっすりゆったり睡眠を取り、目が覚めたのはお昼に近い時間となっていた。
具体的な時間は指定されていないが、迎えに来ると言った夕方にはまだ時間があるだろうと、日美々はもう少しのんびりと――ごろごろとしていることを選んだ。
荷物と言っても、どうしても持っていかなきゃいけないものも無く、とりあえずはお気に入りの衣類くらいで、後は新生活を始めてから、必要なものを揃えていけばいいだろう。
新生活――明狼と一つ屋根の下で暮らすということであり、明狼と羅羽羅の二人で過ごす時間を奪うということでもある。
(めいろくんとの距離が縮まるのは嬉しいけど、割って入るようなこと、していいのかなとも思っちゃうよね)
日美々自身には何故か、明狼が自分と羅羽羅のどちらかを選ぶのではなく、どちらともをという選択肢を選んだことに、忌避感や嫌悪感を抱いていなかった。
明狼だからなのか、羅羽羅が言い出したことだからなのか、こそこそとせず堂々としているからなのか、自身がこの世界の普通の人間ではないからなのか、理由はわからないが、明狼がいわゆるハーレムを求めるというのであれば、受け入れる心の準備はできているつもりだった。
もちろん明狼には、一番に扱ってもらわないまでも、平等に扱ってもらう必要があるだろうが。
(そりゃあめいろくんの一番でありたいけど。でも、らうらさんがいるからなあ……)
羅羽羅には明狼の本妻だとか言ってもらっているが、日美々からすれば、明狼の隣が一番似合うのは羅羽羅だろうと思う。
とはいえ、遠慮するのも恐縮するのも、ネガティブになるのも自分らしくない。
こうやって、ごろごろしているだけなのが良くないかもしれない。そう日美々は考え、身だしなみを整えたり荷物をまとめたりしようと起き上がった。
明狼がやってきたのは、十五時を少し過ぎた頃だった。
十五時が羅羽羅に予告された「夕方」と呼ぶには、少し早いように日美々は思えたが、明狼のことである、「夕方」という言葉を検索して、この時間にしたのかもしれない。
ともあれ身支度――特に尻尾の毛づくろいは入念なものだった――も、とりあえず持っていく荷物の整理も終えていた日美々は、明狼を玄関で迎える。
「おはようって時間でもないけど、おはようめいろくん」
「おはよう」
明狼はこんな時間だというのに、眠そうな眼をしている。
「眠そうだねめいろくん」
「うん。まあ」
そう答える明狼は、何故か日美々から目を逸らす。
「おめでとうございます?」
「あー。ありがと」
何がめでたいのかに触れないまま、気恥ずかしそうに――動揺している様子の明狼を、からかう日美々。
(こういうめいろくんもかわいくていい!!)
いつまでも、かわいい明狼に浸っていたいと思う日美々だった。
日美々としては、迎えに来た明狼とそのまま家を出るつもりだったのだが、明狼が日美々の荷物の少なさを見て、後で何か必要になった時に簡単に取りに来れるよう、【転移】の魔法をここに繋げたいと言うので、家の中に上げた。
家の中に男の人が入ってくるという、未知の体験ではあったが、他の誰でもなく明狼である。日美々に拒む理由などなかった。
(はぁ……かっこいい)
【転移】の為の繋がりを、真剣な眼差しで繋げる明狼。その姿を日美々はうっとりと見つめる。
時間にして十分程だろうか。作業を終えて明狼は「ふぅ」と息を吐く。
その姿すら日美々から見れば様になっており、まばたきすら惜しいと明狼を凝視する。
そんな日美々に気付いた明狼が声を掛ける。
「ええと。にみ?」
「はい!」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです!」
「え?」
「めいろくんのかっこいい表情をこの眼に焼き付けるのに精一杯です!」
日美々に気圧され気味な明狼。
「にみさん? いやまあ、そこまで想ってくれるのはありがたくはあるんだけど――」
そこで明狼は一度区切る。
「だからこそというか――本当に家で一緒に暮らすでいいのか?」
「めいろくんは私と暮らすのは嫌?」
「そんなことない。近くに居てくれたほうが嬉しいし、助かる」
「ん――めいろくんとらうらさんの関係なら大丈夫だよ? 一昨日、らうらさんとゆっくりお話したし」
ダンジョンがこの世界に現れた日の夜、日美々は羅羽羅の部屋であれこれおしゃべりし、一緒に寝ていた。いわゆるパジャマパーティーをしていた。
「その羅羽羅なんだけど」
「うん?」
「どうしても気になることがあって」
明狼は何かを思い出すように、視線を宙に向ける。
「昨日、羅羽羅は攫われたんじゃなくて――攫わせたんだろうなって」




