さあ選べ。そこの女をお前が殺るか、まとめて俺に殺されるかを
「ずいぶんとのんきにやって来たみたいだが、いつまでそんな余裕な顔をしてられるかな?」
同じ学年だった元人間の男――留義統が不敵な笑みを浮かべながら言う。
「この女無事に返して欲しいだろ?」
そう言って、留義統は隣の羅羽羅に視線を落とす。
羅羽羅はそんな留義統を無言でにらみ返す。
「どうしたらいいって言うんだ?」
明狼が留義統に問う。
「魔法を使いそこの女を殺したら、こっちの女返してやろう」
その言葉に日美々はたじろぐ。
自分か羅羽羅、どちらかを選べと明狼に迫っているのだ。
「お前のことはよく知らんが、俺に何か恨みでもあるのか?」
留義統が迫る選択を無視して明狼が訊く。
先程家に現れた時も、留義統はまず明狼に話しかけていたことを日美々は思い返す。
そして、明狼は何も知らないようなので、一方的に明狼に強い感情を抱いているようだ。
「柘植雨代千華を覚えているか?」
その名前を聞いた明狼が、ビクッと反応したように日美々には見えた。
「かつてお前が殺した女」
そう言いながら明狼を見る留義統の目は、明らかに殺意がこめられていた。
「柘植雨代千華は見殺しにして、そこの女は助け出す。
気ままに殺し、気ままに生かす。神にでもなった気分でさぞ気持ちよく、今日まで生きてきたんだろ?」
留義統は狂気に満ちた表情を見せる。どんな事情があって、どんな経緯があったのか日美々にはわからないが、人間を辞めた姿になっている時点で、まともではないのだろう。
留義統の言う柘植雨代千華という名前に、日美々は心当たりは無かったが、明狼が見殺したという話は聞いていた。何もしなかったことが、殺したと捉えていいのか疑問ではあったが。
そんなことよりも重要なのは、留義統は明狼が救ける手段があるのにも関わらず何もしなかったということを、日美々を魔法を使って救けたということを知っているということだろう。
「どうしてお前がソレを知っている?」
明狼も疑問に思ったのだろう。
「あの時はただ呆然と立ち尽くしたが、そこの女を救うお前を見た時に、あの場所にお前が立っていたことを鮮明に思い出し、赦すわけにはいかないと、悪魔に全て売り飛ばし、ここでこうしているわけだ」
留義統は怒りや恨みからか、人間を辞めたからか、少し歪な言葉で語るが、どうやら日美々を救ったあの場面を、留義統はどこからか見ていたと言うのだ。
尋常ではない明狼による救出劇を見させられ、柘植雨代千華が事故に合ったあの場に明狼も居て、何もせずにいたことを思い出したということだろう。
「神気取り人の命を弄ぶのも、今日で終わりだ。
世界を変えたこの俺が、お前に代わり神となる」
留義統が高らかに言う。
「お前がこの世界にダンジョンを持ち込んだとでも言うのか?」
「その通り」
「どうやって?」
「これ以上問答をするつもりなどない。
さあ選べ。そこの女をお前が殺るか、まとめて俺に殺されるかを」
留義統が身構える。
「別に神になったつもりはないが――」
明狼はそう言うと、羅羽羅を、そして日美々を見る。
「悪いけど、羅羽羅もにみも大事な――かけがえのない存在だから」
(あ――)
日美々は明狼の言葉を正しく理解する。
明狼は留義統に対して「悪いけど」と言っているのではなく、自分と羅羽羅に向けて、どちらか一人を選ぶのではなく、どちらともを選ぶという選択に、そんな選択をする人間であるということに「悪い」と言っているのだと。
(大事なかけがえのない存在だって)
緊迫した空気をよそに、日美々の脳内は幸福感で満ち溢れていた。
もちろん、今がそんな状況ではないことは日美々も百も承知である。ただそれはそれとして、明狼の言葉に湧き出る歓喜の感情を禁じ得なかった。
そんな喜びにうち震える日美々とは無関係に、事態は動いていく。
「笑わすな愚か者めが。どちらか一人生かしてやると広い心を見せてやったが、欲張ることで全て失う羽目になる」
留義統はそう言うと、隣に座る羅羽羅に手を伸ばす。




